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初恋が終わった日の生ハム

初恋の人が、パパになっていた。

SNSが盛んなこの時代で、小学生の頃好きだった男の子を探して見つけることなんてとても簡単で、その人が今何をしていて、どんな暮らしをしているかは投稿の内容でなんとなく知ることができる。

初恋の人が、どこの誰か知らない人と知り合って、付き合って、結婚して、家庭を築いていることを知って、私はほんのりショックを受けた。

傷ついたショックとかではない。だって、十年以上も昔の小学生の頃の恋愛とも言えない恋愛で、今のいままで彼のことなんて思い出しもしなかったわけで。向こうは顔も覚えてないんじゃないか?というくらいのもの。何を今更・・・。
私の中に浮かんだのは、たった一度きりの初恋が、続きを迎えることなく、こうやって終わりを迎えたんだなぁ、という「実感」だった。

小学六年生の頃。私から告白して、小学生特有のなんちゃってカップルになって、周りから冷やかされることが嫌だった彼は、一緒に帰ってくれなかったし、遊んでもくれなかった。でも私は彼のことが好きだった。小学生特有の好きの理由、かっこよかったからってやつ。でも、今思えば、もっと仲良くなりたかったの延長線上だったのかもしれない。
それから訪れる、思春期特有の多感な時期。
中学一年生の頃に、彼が他の女子と仲良くしているところを何度も見て、嫉妬して彼の前でそれはもう、わんわん泣いた。付き合ってる私とは仲良くしてくれないのに、どうして、どうしてその子とばっかり仲良くするの、って。
あの時は彼のことが好きで一生懸命に思っているのにどうして!という気持ちが強かったからあんなことになったけれど、今思えば重い女すぎる。
当然、うざがられて、そのままフラれた。

それから、卒業してからは彼ことを思うことは無かったし、連絡も取らなかった。一度、近所のコンビニでばったり出会ったことがあったけれど、その時はとてつもなくぎこちない、気まずい雰囲気になって、ものすごく後味が悪かったのを覚えている。

しばらくしてから、SNSで鍵付きの彼のアカウントを見つけた。何気なくフォローをしたら、向こうもフォローしてきてくれた。
そして、彼の投稿を見た。
彼に彼女ができたことも、プロポーズに成功したことも、結婚式を挙げたことも、子供ができたことも、そこで全部知った。
「久しぶり!元気だった?」から始まる復縁なんてものは無く、彼と私のとの初恋から始まる物語にしっかりとピリオドが打たれた瞬間だった。

十年以上も前の恋、そもそも何を期待していたということもなく、今更、思うこともないけれど、初恋がきちんと終わりを迎えたことに、ちょっぴり切なさが胸に残る。
こんな時に欲しくなるのは涙を連想させる、しょっぱい味。冷蔵庫の中に、ちょっと塩気の強めな生ハムがあることを思い出した。

ベーグルを半分に切って、オープンサンドにしよう。
トーストしたら、カリッとして美味しそう。
熱々のベーグルにカッテージチーズを塗り込み、その上に生ハムを裂いて乗せる。塩気がほしいから、今日は多めに。
最後に黒胡椒を挽いてお皿に並べた。

ちょっと高めの生ハムを乗せて自分を慰める

例えるなら、しおらしくなっていた自分を、塩気でビンタでする感じ。

なーに今更ショック受けてんだ!そもそも十年以上前にフラれておわっとるやろがい!!バシィ!

そう、そうなんです、その通りなんです。
今更ショックなんて受けることないんです。
そりゃあ、私の中の、小学生の私は泣いているかもしれないけれど、今の私はそれを慰めてあげるだけでいい。いい初恋だったよって、撫でてあげるだけでいい。私も彼も、お互いそれぞれの時間を生きて、幸せになっているんだから、もうこの物語はお終いにしないと。

オープンサンドを食べ終えた私は、彼の赤ちゃんの写真が載った投稿にいいねを押して、アプリを閉じた。

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