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抄録の質を測る12項目のチェックリスト;腰痛に対する理学療法、報告論文の質は?

📖 文献情報 と 抄録和訳

理学療法における腰痛システマティックレビュー抄録の報告品質に関連する要因:方法論的研究

Nascimento, Dafne Port, et al. "Factors associated with the reporting quality of low back pain systematic review abstracts in physical therapy: a methodological study." Brazilian journal of physical therapy 25.3 (2021): 233-241.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:PRISMA-Aチェックリストとは?
- PRISMA for Abstractsチェックリストは,多くの読者のニーズを満たす抄録に必要不可欠なものに凝縮するための枠組みを提供する
- システマティックレビュー抄録は、レビューの妥当性と適用性を迅速に評価し、電子検索で容易に特定できるような構造化された要約を提供する必要がある
- PRISMA声明などで抄録の書き方に関するガイダンスが公表されているにもかかわらず,システマティックレビューの抄録は不十分であることが示されている
- BellerらはPRISMAステートメントの拡張版として,システマティックレビューとメタアナリシスの抄録における優れた報告に関するコンセンサスに基づく報告ガイドラインを作成した(📕Beller, 2013 >>> doi.)

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[背景・目的] システマティックレビュー(SR)の抄録は、臨床上の意思決定の指針として頻繁に利用されている。しかし、抄録の報告が不十分な場合、重要な情報が欠落し、レビューの結果を正確に要約していない可能性がある。我々は,1)抄録が十分に報告されているか,2)抄録報告が腰痛の理学療法におけるレビュー・ジャーナルの特徴と関連しているか,3)これらの抄録が対応する全文と一致しているか,について調査することを目的とした。

[方法] 2015年から2017年に発表されたLBPに対する理学療法におけるSRを、Physiotherapy Evidence Databaseで検索した。抄録報告の質とレビュー・ジャーナルの特徴との関連性を線形回帰で探索した。抄録報告は,12項目のPreferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses for abstracts(PRISMA-A)チェックリストで評価した。PRISMA-Aの各項目に対する回答をカッパ係数で比較することにより、抄録と全文との報告の一貫性を評価した。レビューの方法論的質は、A MeaSurement Tool to Assess systematic Reviews (AMSTAR-2)を用いて評価した。

[結果] コクラン9件、非コクラン57件の計66件のSRが含まれた。レビューの方法論の質は、「高い」(8%)から「極めて低い」(76%)の範囲であった。PRISMA-A完全報告項目の総数(完全報告項目の範囲0~12点)の平均±SDは,非コクランレビュー抄録で4.1±1.9点,コクラン抄録で9.9±1.1点であった。抄録の報告品質と関連する要因は、ジャーナルインパクトファクター(ß 0.20; 95% CI: 0.06, 0.35) 、抄録の単語数(ß 0.01; 95% CI: 0.00, 0.01) 、レビュー方法論の品質(「決定的に低い」、β -3.06; 95% CI: -5.30, -0.82; 基準変数として「高い」)であった。また、抄録と本文の間に一貫性のない報告があり、ほとんどのカッパ値は0.60未満であった。

🏆 PRISMA-Aの中で完全報告が最も少なかった項目ランキング
1. 参加資格の基準 Eligibility criteria(3%)
2. 登録 Registration (20%)
3. 結果の統合 Synthesis of results(21%)

[結論] LBPに対する理学療法におけるSRの抄録は、報告が不十分であり、全文と矛盾していた。抄録の報告品質は、インパクトファクターの高い雑誌、語数の多い抄録、方法論的品質の高いレビューの場合に高かった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「所詮、抄録でしょ」、そう思ってしまうのは、著者はその論文のすべてを知っているからだ。

📖 抄録の重要性に関するミニレビュー
- 抄録が稚拙だと、ジャーナル編集者が本文を開こうとする意欲を削ぎ、最初の回答で否定的になる(📕Alspach, 2017 >>> doi.)。
- 質の悪い抄録に対しては、編集者や査読者が時間と労力を費やして論文を審査し改善する意欲を失い、査読完了までの時間が長くなってしまう可能性が高い (📕Andrade, 2011 >>> PMC.)
- 抄録は通常、出版された論文の最初の部分であり、そのテーマに関心を持つ読者がデータベース検索で容易にアクセスできる唯一の部分であることが多い。不完全または不明確なアブストラクトは、読者がその論文をリーディングリストに追加する意欲を失わせる可能性がある(📕Andrade, 2011 >>> PMC.)

抄録は、著者にとっては単なる「まとめ」だが、すべての読み手にとって『車窓から見える景色』だ。
車窓から美しい景色や美味しそうなお店が見えるから、次の駅で降りてくれる。
しかし、単なる田園風景では、その駅では誰も降りない。
「車窓からは見えない、素晴らしい景色や美味しいお店があるんです!」と著者は訴えるであろう。
だが、読み手にとっては、『車窓から見える景色』がすべてなのだ、駅に降りるまでは。

そんな中、今回紹介したPRISMA-Aは著者にとって、推敲チェックリストとなってくれる貴重なツールだ。
このツールに沿うように抄録を作成すれば、抄録の質がググッと高まるはずだ。
そして、抄録の質が上がれば、上記ミニレビューを参考にすれば以下のような効果が期待できる。
- ジャーナル編集者が本文を開こうとする意欲をかき立て、初回の回答が肯定的になる
- 編集者や査読者が、当該論文を審査・改善する意欲を高め、査読完了までの時間が短くなる
- 読者がその論文をリーディングリストに追加する意欲を高める

また、面白いと思った分析が、「コクランレビューとそれ以外との比較」だ。
12点満点にも関わらず、平均5点以上コクランレビューの方が高い。
いやはや、コクラン様、さすがである。
ジャーナルインパクトファクター(IF)も合計点に関連することから、やはり、IFの高さは概ね研究の質が高いことを指し示している可能性が高い。

さあ、武器は手に入れた。
次は、使ってみることだ。
使うことで、身につき、洗練される。
たった今、僕の推敲チェックリストへの『PRISMA-A』の組み入れを完了した。
抄録を読むのも、抄録を作るのも、少しだけ、楽しみになった😊

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