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学習は極端から始めよ:誤差増幅フィードバックの威力

📖 文献情報 と 抄録和訳

誤差増幅フィードバックを用いた動的平衡制御を向上させるための皮質再組織化

Chen, Yi-Ching, et al. "Cortical reorganization to improve dynamic balance control with error amplification feedback." Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation 19.1 (2022): 1-14.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] エラー増幅(Error Amplification: EA)は、視覚フィードバックにおいてタスクのエラーを仮想的に拡大することで、運動パフォーマンスを促進する神経認知的アプローチとして期待されている。本研究では、脳波の領域活動および領域間結合性を用いて、EAによる姿勢バランスの改善に関連する皮質メカニズムを検討した。

[方法] 18名の健康な若年参加者が、2つの視覚的フィードバック(誤差増幅(EA)対実誤差(RE))に導かれながら、スタビオメーター上で姿勢の安定を保ち、スタビオメーターのプレート移動と頭皮脳波を記録した。二乗平均平方根(RMS)、サンプルエントロピー(SampEn)、平均周波数(MF)などのプレートダイナミクスを用いて、行動戦略の特徴を明らかにした。また、脳波のサブバンドの局所皮質活動および領域間結合を、それぞれ相対パワーおよび位相ラグ指数(PLI)を用いて神経制御を推定するために特徴づけを行った。

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✅図1. システムの設定とエラーオーギュメンテーションのフィードバック。数学的変換により、誤差増幅(EA)条件で可視化された姿勢の揺れは、リアルエラー(RE)条件で表示された実際の実行誤差の大きさを実質的に2倍にすることができた。数学的変換は数式ボックスに表示される。一方、RE条件では、被験者は何も操作することなく、オンラインでエラーフィードバックを受けた。被験者はグループ分けにより、実フィードバックとエラー増幅フィードバックのどちらかを見ることができた。(VP:視覚化された姿勢動揺、RP:実姿勢動揺、VE:視覚化されたエラー、RE:実エラー、T:目標信号)

[結果] EAでは、REとは対照的に、スタビライザー立位時の視覚フィードバックの誤差が2倍に拡大された。その結果、EAはREよりもSampEnとMFを大きくし、姿勢変動のRMSを小さくすることがわかった。また、EAはREと比較して、中前頭クラスター(シータ、4-7Hz)、後頭クラスター(アルファ、8-12Hz)、左側頭クラスター(ベータ、13-35Hz)の領域パワーが大きく、皮質組織を変化させた。電極ペア間の脳波の位相差指標では、EAはα/βバンドの前頭葉-頭頂葉および前頭葉-後頭葉の長距離結合と、θ/αバンドの右テンポ-頭頂葉の結合を有意に減少させた。一方、EAはシータ/アルファバンドの前頭中心-頭頂間結合を増強し、ベータバンドの右側面-前頭中心および側頭-頭頂間結合を増加させた。

[結論] EAは、視覚的フィードバックがあるスタビオメーター上での立脚安定性を改善するために姿勢戦略を変更し、エラー処理とターゲットローカライズのための注意力解放を強化することに起因している。本研究は、バランストレーニングにおけるバーチャルリアリティとEAの使用を裏付ける神経相関を提供するものである。

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✅ 図2. 誤差増幅フィードバックによる姿勢制御強化の基盤となる皮質メカニズムの推定

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

昨日、【National Geographic】において面白いニュースがリリースされた。
そのタイトルは「世界最小のカタツムリを発見、なんと砂粒大(殻の直径はわずか0.6ミリ、極小の新種2種が報告、一方の殻には糞の粒が多数)」である(🌎 National Geographic)。

📕 原典→『Páll-Gergely, Barna, et al. Contributions to Zoology 1.aop (2022): 1-17.』>>> doi.

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このカタツムリが、普通にテーブルの上に散らかっていたら「もう、また砂を散らかして・・・。」と子どもに怒りつつ、サッと掃除することだろう。
カタツムリとしてではなく、単なる砂つぶとして。
このとき、その人間にとっては、カタツムリがカタツムリとして認識されていないわけだ。
このように、サイズは、間違いなく人間の認識に大きな影響を及ぼす

僕たちは、どうも『誤差』に支配されている気がする。
夏には冬が良いと思い、冬には夏が良いと思う。
軽く肩をたたかれると振り返り、もう少し強くたたかれると気持ちよく、打撃になると痛い。
人間とって意味があるのは「誤差」である。
だから、認識されない誤差は先ほどのカタツムリのように、人間にとって意味がない。

今回の研究が明らかにしたことは、感覚フィードバックも「誤差のサイズ」が重要だということ。
感覚入力という右手、その人という左手、両者が合わさって『パンッ!』という音[意味]をつくらないなら、変容は生まれ得ないだろう。
それを規定する1つが、誤差サイズ
極端に大きな誤差は、コストは高くつくが、認識されやすい。
たとえば、膝ロッキングしない歩行の状態を、モンキーウォーク(大きな膝屈曲での歩行)で学ぶときのように。
だから、学習の手始めには、誤差のサイズを『極端』に大きくし、だんだん誤差サイズを下げていくという視点が重要かもしれない。
その人の身体と心に、ほんとうに響く。
そんな、誤差サイズ帯域を探ろう。
自分の中に、誤差サイズを調整する「アンプ機能」を持とう。

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