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現象を聴く:フットストライクの「音」を聴き分ける

▼ 文献情報 と 抄録和訳

地上走行時の後足部、中足部、前足部の打撃による衝撃音

Hung Au, Ivan Pui, et al. "Impact Sound Across Rearfoot, Midfoot, and Forefoot Strike During Overground Running." Journal of athletic training 56.12 (2021): 1362-1366.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識
- フォアフット:前足部で着地(FFS)
- ミッドフット:足裏全体で着地(MFS)
- リアフット:踵から着地(RFS)

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✅ ハイライト
- 運動量、バイオメカニクス、ランニングテクニック、着地パターン、可聴域フィードバックキーポイント3つの足踏み方式において、ミッドフットストライクが最も大きな衝撃音と高い走行時のピッチを示した。
- 各足部打撃法の衝撃時に発生するピッチは、平均的な人間の可聴域内にあった。
- 臨床医やランナーは、既存の音検出装置を用いて足部打撃法を評価することができる可能性がある。
- また、調査した音の特性は、いずれも傷害に関連する運動因子である垂直荷重率に関連するものではなかった。

[背景・目的] ランナーには3つの足踏み方式がある。これらの蹴り方が地面への着地点で異なる音を発生させる場合、下肢の運動特性に影響を及ぼす可能性がある。このような関係があるかどうかについては、これまで著者らが明らかにしたことはない。目的は、足裏接地時の衝撃音特性を把握し、足踏み技術間の衝撃音特性を比較し、衝撃音特性と垂直荷重速度の関係を明らかにすること。

[方法] 研究デザインは、横断的研究。歩行分析室患者またはその他の参加者30名のランナー(女性15名、男性15名、年齢23.5±4.0歳、身長1.67±0.1m、体重58.1±8.2kg)が歩行分析室でリアフット、ミッドフット、フォアフットの手法で地上走行試験を実施した。主なアウトカムは、ショットガンマイクロホンを用いて衝撃音を測定し、音のピーク振幅、中央値周波数、音の持続時間を分析した。繰り返し測定のため参加者をクラスタリングした分離線形回帰を用い、足打法間の音特性を比較した。フォースプレートから運動データを収集し,垂直荷重率を算出した.また,ピアソン相関を用いて,音質と運動特性の関係を調べた.

[結果] MFSまたはFFSでの着地は,後足での着地よりもピーク音の振幅が大きく(P < .001),音の持続時間が短い(P < .001)ことがわかった.MFSは3つの足部打撃パターンの中で最も高い中央値を示し,FFSがそれに続いた(P < 0.001).垂直荷重率とどの衝撃音特性にも有意な関係は見られなかった(P > .115)。

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✅ 図. A:平均ピーク振幅(mV),B:中央値周波数(Hz),C:前足打撃(FFS),中足打撃(MFS),後足打撃(RFS)走法の音の持続時間(s) aは音特性変数と足打撃法の差を示す

[結論] この結果は、衝撃音の特性がランナーにおけるフットストライクのパターンを区別するために使用される可能性があることを示唆している。しかし、これらは下肢の運動量とは関係がなかった。したがって,臨床医は,衝撃荷重を推測するために衝撃音のみに依存すべきではない.

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

いつか、五感のすべてを動員しきった臨床ができたら最高だ。
その中で、各感覚モダリティ(視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚)には特徴がある。
今回の研究は、「聴覚」について考えさせてくれた。
聴覚という感覚モダリティの特徴と強みとは、何だろうか?

▶︎ 聴覚の特徴と強み①:射程が広く球状
・視覚は前方しか見えない(人間の場合)
・嗅覚や触覚は、射程距離がほとんどない
・聴覚の場合には、360度、どの方向からも感知でき、範囲も広い

▶︎ 聴覚の特徴と強み②:重要な情報を逃しにくい
ゴリラ実験(詳細後述)に代表されるように、視覚は注意のバイアスがかかりやすい
・一方、聴覚はカクテルパーティ効果(詳細後述)に代表されるように、重要情報を即拾う特徴がある

✅ ゴリラ実験
・被験者はバスケットのパスの回数を数えてくださいと依頼される
・ビデオを視聴させられ、その間にゴリラの着ぐるみをきた人が通り抜ける
・嘘のような話だが、気づかない人が42%もいたらしい
 ● Simons, et al. Perception 28.9 (1999): 1059-1074. >>> doi
✅ カクテルパーティ効果
・立食パーティなどの喧騒を想像してほしい
・自分の席と遠く離れたところで、「〇〇さんがさぁ」と自分の名前が述べられたとき、その部分だけ自分の耳に入ってきた経験があるだろう
・これがカクテルパーティ効果である
・聴覚は、自分の中で重要事項とされているものを、勝手に拾ってくる性質がある
・最近の研究によって、その脳内機構まで明らかにされている
 ● Holdgraf et al. Nature communications 7.1 (2016): 1-15. >>> doi

▶︎ 聴覚の特徴と強み③:視覚より反応時間が早い
・音と意味は同時にやってくる、視覚には分析がいる
・太鼓を打つ映像と、太鼓のあの音、どちらが腹に迫るかを考えてみてほしい
・音は、現象を伝達するものというより、現象そのものに近い
・視覚による景色はそこに「ある」、だが音は「迫ってくる」

ここまでをまとめると、聴覚は、方向問わず射程が広く、重要事項を勝手に拾い、素早く感情に迫る
すなわち、「アラート」「気づき」機能に最適だろう。
たとえば、転倒をその直前の音で感知できないか?
この可能性は大いにあると思っている。
つまづいた時の音は、常とは異なるだろう。
耳をすませば。
臨床現場でたくさんの気づきや、リサーチクエッションが得られそうだ。

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