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精神速度(メンタルスピード)は60歳まで減速しない。120万人以上の調査から判明。

📖 文献情報 と 抄録和訳

100万人を超える被験者の分析から明らかになった、60歳まで高い精神速度

von Krause, Mischa, Stefan T. Radev, and Andreas Voss. "Mental speed is high until age 60 as revealed by analysis of over a million participants." Nature Human Behaviour (2022): 1-9.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 年を重ねるにつれて、環境中の変化(刺激)に反応する時間は長くなるのが一般的である。こうした反応時間は20歳頃から遅くなっていき、年齢が上がるにつれて徐々に長くなっていく。しかし、反応速度は精神的な速度の純粋な尺度ではなく、複数のプロセスの総和を表している。

[方法] ベイズ拡散モデルを適用し、生の応答時間データから解釈可能な認知的要素を抽出した。このモデルを120万人の参加者の横断的データに適用し、認知パラメータの年齢差を調べた。この大規模なデータセットを効率的に解析するために、特殊なニューラルネットワークを用いたベイズ推定法を適用し、効率的なパラメータ推定を行った。

[結果] 応答時間の遅れは20歳という早い時期に始まるが、この遅れは精神速度の差ではなく、意思決定の慎重さの増加やキーを押すまでの時間といった判断に関与しない過程の遅れに起因することが示された。また、精神的速度の低下は、60歳以降にのみ観察された

[結論] このように、我々の研究は、年齢と精神的速度の関係について広く信じられていることに疑問を投げかけている

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

老兵は死なず、単に消え去るのみ
Old soldiers never die, they simply fade away

「役割を終えたものは表舞台を去る」といった意味に解釈される言葉だ。
かつて、7つの冠位を誇った羽生善治棋士ですら、現在は冠位をもっていない。
果たして、「老兵は死なず、単に消え去るのみ」、なのだろうか。
今回の論文は、『そうとは言い切れない。真実に目を向けろ』と主張した。

今回の論文はFull textを読めないため、具体的な方法の詳細がわからないのだが、応答速度の遅れを①メンタルスピードの速度、②意思決定の慎重さ、③ボタンを押すまでの速度(運動機能?)などの構成要素別に分析する手法をとっている。
その結果、応答スピードには①は関係なく、②、③が関与すること、①は60歳以降まで低下しないこと、が明らかになったと。
100m走のタイムは、絶対的というか、随意努力の入り込める余地が少ない。
その100m走のタイムに近いイメージの精神速度の加齢に伴う衰えは少なくて、むしろマインドセットなどの主観的・可変的そうな衰えだったこと、これがこの研究の肝だ。

この結果は、何を指し示すのだろう?
マインドセットの加齢変化の傾向?
老いると、慎重になってゆく運命なのだろうか?
でも、それすらも、これまでの精神速度の参照点(年齢に伴って精神速度は低下する)がつくり出した幻影だったとしたら?
「二十代以降は精神速度が低下するんだ。だったら、老兵である俺は、慎重に戦略を考えたり、これまでの経験を生かしたりすることで若いやつと張り合って・・・」という具合に戦略を立てていたとしたら?
傾いた土壌の上には、高層建築は建ちにくい。
精神速度は、60歳まで低下しない。
これを前提として、参照点として、土壌として考えたら、何が起こるだろう?
100m走で20歳台のやつにも勝てるかもしれない、メンタルスピードの世界では。
この研究は、中高年を元気にするかもしれないと思った。

「老兵は死なず、単に消え去るのみ。」、ですか?

僕の答えは、選択式。
「老兵」になるかどうかの舵は、おのおのが握っている。
あなたの回答は、どうだろう?

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