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日常生活(ADL)機能低下は股関節骨折の前兆である

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における股関節骨折の前兆としての日常生活機能の低下-個別患者データのメタアナリシス

Ravensbergen, Willeke M., et al. "Declining daily functioning as a prelude to a hip fracture in older persons—an individual patient data meta-analysis." Age and Ageing 51.1 (2022): afab253.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:個人データメタアナリシスとは?
- Individual Participant Data (IPD):個人データメタアナリシス
- IPDとは、RCTによる効果量として束ねられる前の参加者個々のデータのこと
- IPD Meta-Analysisには、従来の [Meta-analysis]も精確な情報を用いることができ、より信頼性の高いエビデンスを得ることができるとされる
- ただし、IPD Meta-Analysisも、種々のバイアスが結果に影響を及ぼし得るため、適切な防止策をとり、感度解析を行う必要がある

[背景・目的] 股関節骨折後、日常生活機能が低下することが知られているが、骨折前の自己申告による機能低下の研究は、この低下が骨折前に始まっていることを示唆している。目的超高齢者(80歳以上)の股関節骨折前1年間の機能の変化が、股関節骨折のない人の変化と異なるかどうかを明らかにする。

[方法] デザインは、TULIPS(国際高齢者縦断研究)コンソーシアムのデータを含む、2段階の個人患者データのメタアナリシス。設定オランダ、ニュージーランド、イギリスの4つの人口ベースの縦断的コホート。対象者80歳以上の参加者。方法参加者は5年間追跡され、その間、日常生活動作((I)ADL)得点と股関節骨折の発生が一定期間ごとに登録された。最終的な(I)ADL得点のZスコアと股関節骨折前の1年間の(I)ADLの変化を、年齢と性で調整した対照者の得点と比較した。

[結果] ベースライン時の2,357人のうち、追跡調査中に股関節骨折をした161人は、股関節骨折をしなかった人に比べて、骨折前の(I)ADLスコアが悪く(0.40標準偏差、95%CI 0.19~0.61, P = 0.0002)、骨折前1年間の(I)ADL低下が大きかった(-0.11標準偏差、95%CI -0.22~0.004, P = 0.06).

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✅ 図1. 股関節骨折前の最後の(I)ADL測定値(zスコア)は、年齢と性別で補正した後、股関節骨折のない超高齢者と比較した(多変量解析)。

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✅ 図2. 年齢、性別、最終測定値を補正した上で、股関節骨折のない超高齢者と比較した股関節骨折前年の(I)ADL(z-スコア)の変化(多変量解析)。

[結論] 超高齢者では、股関節骨折の前にすでに日常生活機能の低下が始まっている。したがって、股関節骨折は進行中の衰えの兆候であり、完全な回復とは何かを骨折前の衰えに照らして見る必要がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

デジタルデータと、アナログデータの違いは何だと思う?
その1つの解は『連続的か、連続的ではないか』
現実を構成するアナログデータは、ことごとく連続変数である。
すなわち、いきなり、昼が夜に変わることはないということ。
明るいところから、夕方を経て、次第に暗くなっていく。
アナログデータは、そのスパンに長短はあれど、グラデーションから逃れられない。

股関節骨折に至るまでのプロセスにも、このグラデーションがあるようだ。
その1つが、「ADL機能の低下」である。
ADL障害は、死亡前の前駆症状としても注目されており、死亡前「5-6年」から低下が重度化することが報告されている(詳しくは過去の抄読を参照)。

いきなり骨折という「赤信号」に切り替わるのではなく、ADL自立度の低下という、信号の点滅や黄色信号にあたるグラデーション期間が存在する。

最近、面白い動画を知った。
『Evan』という動画で、2分程度の短い動画なのだが、ちょっとぶん殴られたような衝撃を受けた。
是非、先入観なしに、見ていただきたい。

この動画で扱っている内容が、「不注意の盲目」という人間の特徴だ。
僕たちは注意を向けていない、非重大事はノイズとして扱ってしまう。
軽度なADL障害についても、そうではないか?
だが、その無視しがちなADL障害が、骨折という重大ごとにとって、信号の点滅であり、黄色信号なのだ。
その前駆症状をノイズとして無視せず、しっかりと注意を向けるためには、重大ごととリンクしていることを明確に知る必要がある。
その部分が明らかになれば、たとえば「股関節骨折」という赤信号に対する青点滅や黄信号を設定し対応する、『トリアージシステム』が構築できる。

「じゃあ、逐一、ADL状況を計測・把握する?いや、そんな労力のかかること、できない。そもそも全員が骨折や死亡イベントが起こるわけでもないのに」

ぼくも、そう思う。
だけど、聞いてほしい。
2022年のいまだから、この話が大切に「なった」のだ。
どういうことかといえば、『技術』という杖が僕たちにはある、ということ。
たとえば、ウェアラブルセンサー、AI、チャットポッド・・・etc...。
組み合わせれば、「自動的」にADL障害をモニタリングして、「自動的」に分析して、「自動的」に警告メッセージを出したり、「自動的」に健康管轄部署に連絡が飛んだり、できてしまうのだ。
すなわち、いったんアルゴリズムを組み、システムができてしまえば、労力はかからないのだ。
最新の論文を紐解いてみてほしい。
いまだから、輝く研究たちばかりだ。
現実を変えるには、知識と現実を結びつける『技術力』が必要不可欠だ。
進展し続ける技術と、ますます、真剣に向き合え。

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