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腎筋連関:慢性腎不全(CKD)者の筋萎縮メカニズム

📖 文献情報 と 抄録和訳

プロカシェティックファクターは実験的およびヒトの慢性腎臓病と骨格筋の消耗プログラムとを関連づける

Solagna F, Tezze C, Lindenmeyer MT, et al. Pro-cachectic factors link experimental and human chronic kidney disease to skeletal muscle wasting programs. J Clin Invest. 2021 Jun 1;131(11):e135821.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
- 人工的にCKDを引き起こしたKif3aΔTubマウスと野生型(WT)マウスを比較
- Kif3aΔTubマウスはCKDを発症し、骨格筋の萎縮と筋力低下を伴う悪液質を呈する
- Kif3aΔTubマウスの腎臓で産生された『アクチビンA』は、腎臓のクリアランス不足と相まって、腎臓と筋肉のシグナル伝達サイクルを促進し、血液の蓄積を悪化させ、その結果、骨格筋の衰弱を引き起こすことが示唆された。

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✅ 図. CKDにおける腎臓と筋肉のクロストークを示す概念図。傷害を受けた腎臓で可溶性プロカッシェン因子アクチビンAが産生され、血中に蓄積し、筋肉の恒常性を破壊して筋肉の消耗を誘導するという新しい腎臓/筋肉軸を提唱している。

[背景・目的] 骨格筋の衰えは慢性腎臓病(CKD)によく見られ、罹患率と死亡率の上昇をもたらします。しかし、腎臓と筋肉機能の関連はまだ十分に理解されていない。

[方法 & 結果] 我々は臓器間の相互補完的なアプローチにより、CKDにおける骨格筋の衰弱を調査した。Kif3aΔTubマウスの腎臓で産生された『アクチビンA』は、腎臓のクリアランス不足と相まって、腎臓と筋肉のシグナル伝達サイクルを促進し、血液の蓄積を悪化させ、その結果、骨格筋の衰弱を引き起こすことが示唆された。Kif3aΔTubマウスはCKDを発症し、骨格筋の萎縮と筋力低下を伴う悪液質を呈する。このKif3aΔTubマウスは、嚢胞性腎臓、CKD、体重減少を発症した。Kif3aΔTubマウスの腎臓は実質的な肥大を示し、総体重の約20%を占めた。Kif3aΔTubマウスの筋肉は、筋肉の衰えと一致する多くの異常が見られた。例えば、筋力は低下し、筋繊維のサイズと数は減少し、筋幹細胞の数は減少していたが、発生能には変化がなかった。さらに、これらの筋肉では、一般的なタンパク質生産が減少していた。

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✅ 図. 実験的なCKDは、筋肉量と機能の低下を誘発する。(A)嚢胞性マウスモデルの模式図。(B)腎臓重量/体重を百分率で表したものと、野生型(WT)およびKif3aΔTubの6週目の腎臓の代表画像(n = 5 mouse)。(C) 血中尿素窒素(BUN)測定(n = 5マウス)。WTおよびKif3aΔTubマウス(n = 14マウス)において、体重(D)(n = 10マウス)および筋肉組織重量(E)を測定した。(F) WTおよびKif3aΔTubマウスの6週齢のGC筋の代表的な画像である。(G)WTおよびKif3aΔTubマウスのTA筋における断面積(μm2)の分布を示す頻度ヒストグラム(n=3マウス)。(H) EDL筋の収縮特性(n = 5マウス)。

[結論] 以上のように、我々は腎臓と筋肉の間のクロストークを明らかにし、アクチビンシグナル伝達を調節することがCKDにおける骨格筋の消耗に対する治療戦略として可能であることを提案した。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これまで、自分が「筋肥大」という現象に対して、ほんの一部の歯車だけを見て、理解してきたことを知った。
「筋肉に加わる機械負荷」「同化の材料(栄養状態)」の2つの歯車。
だがしかし、そこには、慢性腎不全(CKD)がもたらす影響も介在していた。

筋肥大は、ほんの局地の現象だ。
たとえば、大腿四頭筋の筋肥大は、身体の一部分の「大腿」の、さらに前面だけで起こる。
だけれども、全身の状態が、そのほんの一部分の筋肥大をもコントロールしているというわけだ。
大腿四頭筋に加わった機械負荷は、大腿四頭筋に「筋をつくれ」という。
大腿四頭筋は、「そうだね、あなたがこれからも来るなら、もっと作っておくべきだね」と答える。
だが、ここで一通の手紙が大腿四頭筋に届く、送り主は「腎臓」だ。
「全身の代謝状況、とくに濾過装置が破損している。いま、新たな増築をするのはよしてくれ」
全身の濾過装置が壊れている状態で、骨格筋を増やすことになれば、更なる代謝の需要増大につながり、自然、腎臓への負荷も増すことが危惧される。
だから、「筋肉の増築はやめてくれ」、と腎臓はいう。
大腿四頭筋は、その手紙を読んで、増築を取りやめた。

以上のストーリーは、一部想像による飛躍を含むが、大きく外れてはいないだろうと思う。
それはあたかも、ある部署でMVP級の結果を残したスター社員がいても、会社全体の業績が立ち行かなければ、給料を上げることはできない、という状況に近いのではないか。
部分の代謝なのだが、実は全体の事情によって、規定される部分が大きい。

これはまったくの個人的な見解だが、筋萎縮しやすい人は、爪や髪の毛も伸びるのが遅く、骨粗鬆症もであることが多く、なんだか覇気に乏しい印象を受けることが多い。
これらは、ひとつひとつは局所の現象だが、その全部をひっくるめて、一個の意味を示しているのではないか?
部分が分離していて、それを足し合わせたものが人間なのではなくて、全部ひっくるまった1つの価値があって、それが人間・・・?
『生命力』、とでもいおうか。
とにかく、全身的な代謝状況を知ることなく「筋肥大」について考えることは、おそらく木を見て森を見ず、である。
全体を俯瞰して見たあとで、部分の状況を分析し、望ましい戦略を立案せよ。

メロディーは音から成り立っているのではなく、
詩は単語から成り立っているのではなく、
彫刻は線から成り立っているのではない。
これらを引きちぎり、ばらばらに裂くならば、 統一は多様性に分解されてしまうにちがいない。

ブーバー

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