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筋量と筋持久力:トレードオフを両立した介入研究

▼ 文献情報 と 抄録和訳

若年者および高齢者のレジスタンス・トレーニングを行った男性において、持久力トレーニングにより筋肉量の減少を伴わない筋酸化能力の増加が認められた

Hendrickse, Paul William, et al. "Endurance training-induced increase in muscle oxidative capacity without loss of muscle mass in younger and older resistance-trained men." European journal of applied physiology 121.11 (2021): 3161-3172.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 高齢者集団では同時トレーニングが定期的に行われているが、繊維サイズと酸化能力の間に逆の関係があることから、レジスタンストレーニングを行っている人に持久力トレーニングを行うと、レジスタンストレーニングによって得られた筋量の増加がある程度失われる可能性があり、その影響は高齢者でより顕著になると考えられる。

[方法] 本研究では,レジスタンストレーニングを十分に行っている若年者(28.5±4.8歳,n=8)と高齢者(67.5±5.5歳,n=7)を対象に,持久力トレーニングを重ねることによる影響を調べた.参加者は,最大心拍数(HRmax)75%での6分間のインターバルを5回行い,その後,HRmax90%での4分間のインターバルを行う,10週間の自転車耐久トレーニングプログラムを受講した.

[方法] MRIで測定した大腿筋の解剖学的断面積(ACSA)は、若年者に比べて高齢者では24%小さかった(p<0.001)。最大酸素消費量(VO2max)も高齢者の方が低かったが(p<0.001)、体重1kgあたりのVO2maxは若年者と高齢者の間で有意な差はなかった。外側広筋の生検を組織学的に分析したところ、持久力トレーニングによって、若年者と高齢者の両方でコハク酸デヒドロゲナーゼ活性が上昇し(p≦0.043)、type I繊維の周囲の毛細血管の数が増加した(p=0.017)。また,持久力トレーニングを併用しても,大腿部ACSA,線維断面積,膝伸展筋の最大随意等尺力の有意な減少は見られなかった

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✅ 図. aとfは、それぞれ若年者と高齢者のMRIスキャンで、大腿骨の約60%の長さ(遠位端から)の左大腿部の画像で、若年者(Q)の画像には大腿四頭筋のラベルが貼られている。b、c、gおよびhは、それぞれ若年者前、若年者後、高齢者前および高齢者後の筋断面を示し、タイプI(青色の線維)およびタイプII(緑色および非染色線維)線維を免疫蛍光染色し、毛細血管(赤色に染色)をローダミン標識Ulex Europaeus Agglutin Iで染色した。 d、e、iおよびjは、それぞれ(b)、(c)、(g)および(h)、すべてのsuccinate dehydrogenase活性を染色したシリアルセクションを示す。

[考察・結論] 本研究の主要な発見は、高度なレジスタンストレーニングを受けた若年および高齢男性の通常のレジスタンス運動プログラムに持久力トレーニングを重ねることで、両年齢層で筋(線維)サイズの減少なしに筋酸化能が増加し、血管新生を伴うというものである。レジスタンストレーニングに持久力トレーニングを加えることで、高齢者や若年層のレジスタンストレーニング参加者の筋サイズや筋力に悪影響を及ぼすことなく、持久力に関連したポジティブな適応が得られることがわかった。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

「破壊的イノベーションの起こし方」という本の中に、「イノベーションはニーズを統合するといい」と述べられている。
すなわち、トレードオフの関係にある2つを統合すると良いイノベーションになる

✅ トレードオフ関係にあるものを統合した例
● 吉野家:「安い」×「うまい」を両立
● ヒートテック:「暖かい」×「おしゃれをしたい」を両立

リハビリテーション医療においても、例外ではない。
これまで、トレードオフ関係にあったものが両立できる可能性。
その1つが、「筋量」と「筋持久力」の両立である。

今回の持久力介入は、かなり「高強度」で実践されている(方法参照)が、近年、高強度の威力が明らかになりつつある、その知見が利用されている。
このように、昨今の「新知見」「新技術(テクノロジー)」が、これまでトレードオフ関係と思われていたものを両立させてくれる触媒となるかもしれない。
月並みだが、「常識を疑う」ことの意義が大きい時代が来ていると思う。
新知識・新技術が、切り崩せる常識の数を増やしているからだ。

一方、今回の研究で気になるのは、「効果があったか否かはわかったけれども、効果の量は差があるのか?」ということだ。
今回、筋力トレーニングに筋持久力トレーニングを重ねた。
そのとき、例えば筋トレが筋量に与える効果の威力が「強まる」のか「同等」(図A)なのか「弱まる」(図B)のかが分からない。

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一刀流より二刀流の方が一撃の威力が弱まるのか?、ということが。
それを明らかにするためには、pre-postだけではなく、「pre期間の効果(筋トレだけやっていた期間の効果)」を明らかにして、それとpost期間の効果量と比較する必要がある。
これは、新たなリサーチクエッションである!

トレーニングは、当たり前のように「ピリオダイゼーション」でやられてきた。
一刀流しか認められない世界で、必要に応じて時期別に刀を変えてきたのだ。
だが、「ながら」の時代、「組み合わせ」の時代が来るかもしれない。
二刀流の宮本武蔵が、小次郎に勝ったではないか。

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