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変形性膝関節症者への運動指導:安心して「歩いて」と言っていい根拠

▼ 文献情報 と 抄録和訳

米国の進行した変形性膝関節症の成人における毎日の歩行と5年間の人工膝関節置換術のリスクについて

Master, Hiral, et al. "Daily Walking and the Risk of Knee Replacement Over 5 Years Among Adults With Advanced Knee Osteoarthritis in the United States." Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 102.10 (2021): 1888-1894.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ ハイライト
- 歩行の量と強度は、5年間の膝関節置換術のリスクを促進しなかった
- 1日の歩数が多いことは、5年間の人工膝関節置換術のリスクと関連しなかった。
- 中程度の強度の歩行は、人工膝関節置換術のリスクをわずかに減少させることに関連していた。

[目的] 進行した構造性変形性膝関節症の成人を対象に、ベースライン時の1日の歩行量および歩行強度と、5年後の人工膝関節置換術(KR)のリスクとの関連を検討する。

[方法] デザインは、多施設共同の前向き縦断的観察研究。設定は変形性関節症イニシアチブ(Osteoarthritis Initiative)研究(2008年~2015年に追跡調査)。参加者は、変形性膝関節症に罹患している、または罹患する可能性のある地域在住の成人(N=516、平均年齢67.7±8.6歳、肥満度29.3±4.7kg/m2、女性52%)を米国内の4施設から募集した。対象者は、構造的疾患が進行しており、KRを持たず、ベースライン時に有効な日常歩行データ(Actigraph GT1Mを用いて定量化)を持っている者とした。アウトカム:歩行量は1日あたりの歩数で、歩行強度は1日あたりの非歩行時間(0歩/分)と超軽度(1~49歩/分)、軽度(50~100歩/分)、中等度(100歩/分以上)の歩行時間で測定した。歩行量および歩行強度とKRのリスクとの関係を調べるため、共変量を調整したハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。

[結果] 進行した構造的疾患を持つ成人516人のうち、88人が5年間でKRを受けた(17%)。1000歩/日の追加歩行はKRのリスクと関連しなかった(調整後HR=0.95、95%CI、0.84-1.04)。統計的には、10分/日の超軽度および軽度のウォーキングを10分/日の中等度のウォーキングに置き換えることで、KR発生のリスクがそれぞれ35%および37%減少した(超軽度の場合、調整済みHR=0.65、95%CI、0.45-0.94、軽度の場合、調整済みHR=0.63、95%CI、0.40-1.00)

[結論] 毎日のウォーキングの量と強度は、5年間にわたってKRリスクを増加させず、進行した構造的変形性膝関節症の成人では、場合によっては保護効果があるかもしれない。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

ある側面からは良いことであっても、異なる側面から見ると弊害となってしまう。
医療現場においては、そういうことがよくある。

筋力向上・維持のためには運動した方がいいが、腎負荷になってしまう。
骨負荷は高めたくないが、抗重力に晒された方が機能維持される。
・・・

今回の論文で調査していることも、その代表的な1つだ。
「変形性膝関節症者に対して、動作能力・機能維持の観点からは歩いてもらった方がいいが、それって膝関節への負荷を高め結果的に疼痛を増悪させたりTKAになったりするのでは?」というものだ。
理論的には、そうだ。荷重負荷の量が増えれば、OAは悪化しそうである。
だが、結果はむしろ「保護効果すらあるかもしれない」と語った。
PTとしては、安心して「歩いてください」を言えるかもしれない。

やっぱり、頭で考えた正しいことが、現実とはズレることは多い。
だから実験が必要なのだ!手足を動かして確かめることが本当なのだ!
どこまでも、現実と格闘したい。

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