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股関節機能と腰痛予後:Hip-Spine syndromeへの考察

▼ 文献情報 と 抄録和訳

股関節の特徴に基づく老年性腰痛の分類と12ヶ月間の臨床的転帰の縦断的検討。Delaware Spine Studyからの知見

Hicks, Gregory E., et al. "Classification of geriatric low back pain based on hip characteristics with a 12-month longitudinal exploration of clinical outcomes: findings from Delaware Spine Studies." Physical Therapy 101.12 (2021): pzab227.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ Key points
- 慢性腰痛の高齢者では、3つの腰のサブグループが存在する。
- 「股関節が強く無症状」、「股関節が弱く無症状」、「股関節が弱く有症状(WS)」
- WSのサブグループは、他のサブグループに比べて一貫して予後が悪い

[背景・目的] 本研究の目的は、LVMM(Latent Variable Mixture Modeling)を用いて、修正可能な股関節障害の存在に基づく老年慢性腰痛(LBP)のサブグループを特定し、これらのサブグループと主要アウトカムとの前向きな関係を経時的に検討することである。

[方法] 慢性腰痛を有する地域在住の高齢者250名の前向きコホートから、ベースライン、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月のデータを収集した。股関節(症状、筋力、可動域、柔軟性)、LBP(強度、障害)、移動機能(歩行速度、6分間歩行テスト)の包括的な検査を各時点で実施した。ベースラインの股関節の測定値はLVMMに含め、観察されたクラス/サブグループは混合モデルを用いてLBPと移動機能アウトカムについて縦断的に比較された。

[結果] LVMMについては、3クラス/サブグループのモデルが最もよく適合した。大まかに言えば、股関節の強さと症状の有無によってサブグループが最もよく区別された:サブグループ1=強く無症状、サブグループ2=弱く無症状、サブグループ3=弱く有症状(WS)である。縦断的混合モデルについては、すべてのサブグループが時間の経過とともにほとんどのアウトカムで改善した。特に、12ヶ月間、非症候性サブグループはWSサブグループと比較してLBP強度および障害レベルが低く、一方、強く非症候性サブグループは「弱い」サブグループ2つと比較して移動機能が良好であった

[結論] これらのサブグループ分類は、今後の試験において特定の介入を調整するのに役立つと考えられる。WSのサブグループは、LBPおよび移動機能のアウトカムが常に不良であることから、特別な注意を払う必要がある。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

✅ Hip spine syndromeとは? >>> site
ヒップスパイン症候群とは、腰の骨を支えるのが骨盤で骨盤を支えるのが股関節であるので両者は切っても切れない関係にあり、一方の病態が他方の病態に影響するという概念。

Hip spine syndromeと言われるが、なぜこの両者が密接に関わるのだろう?
それは、この両者が「矢状面上の運動において類似した機能を果たす」からだ。
たとえばスクワットをするとしよう。
スクワットとは、思い切って言いかえれば、「頭の位置を下げる課題」といえる。
同じ頭の位置を下げることに対して、①脊柱を屈曲すること、②股関節を屈曲すること、は似たような貢献を果たす。
すなわち、脊椎と股関節はトレードオフの関係性にあり、刻々とその分散を変えている

その中で、脊椎と股関節では、どちらが大きく動き、壊れにくいか。
関節構造からみても、周囲筋の体積・機能からみても「股関節」が屈強だ。
だが、多くの人は課題の中で「脊椎を屈曲する」ことを選択し、「股関節を屈曲する」ことを選択しない。
これはなぜだろう?

▶︎股関節より脊椎を動員してしまう理由①:コスト効率の大きさの法則

お辞儀を考えれば、すぐにわかる。
楽なのは、首だけ垂れる、「ちっす」のようなお辞儀だ。
一方、最敬礼と呼ばれるお辞儀は、すべからく股関節から動いている。

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股関節から動くことは「コストのかかること、大変なこと」だ。
これは、人間が二足動物となり、股関節の上に骨盤、骨盤の上に脊椎、脊椎の上に頭部という位置関係になることから生まれた問題だ。
下にある関節を動かそうとすれば、その上の重量が大きいが故に、大変なのだ。

「ヘンネマン大きさの法則」というものがある(Henneman, et al. Comprehensive Physiology (2011). >>> doi)。これは、小さな運動ニューロンは大きな運動ニューロンより先に興奮するという法則だ。
人間の行動選択とコスト効率にも、この法則が当てはまると思う。
人間は、与えられた自由度の中で最もコスト効率の高いものを選択している
だが、直近のコスト効率化を盲目的に選ばされた結果、障害リスクの増大につながっていないか?
股関節と腰痛の関係性(Hip spine syndrome)は、このことに気づかせてくれる。

▶︎股関節より脊椎を動員してしまう理由②:二足動物は脊椎運動が矢状面運動に貢献できてしまう

次の図を見ていただきたい。

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✅ ヒトとゴリラの骨格の比較(Encyclopædia Britannica, Inc)

四足動物の脊椎に注目すると、その屈曲-伸展運動は「推進」にほぼ関係ないことに気がつく。
一方、二足動物である人間の脊椎はどうか。その屈曲-伸展が「推進」や「重心の上下」に貢献できてしまう位置関係となっている。
この「貢献しやすさ」によって、人間は脊椎運動を選択肢に入れてしまえるのだ。
四足動物の場合、課題貢献度が低すぎて脊椎運動が選択肢に入らないだろう。

さて、「股関節を使わず脊椎を使っちゃう問題」を防ぐには、コスト効率以外の価値観(関節構造、周囲筋機能、障害可能性、パフォーマンス、etc...)を持ち込み、意識的に最適な動作戦略を選択し、学習することが必要だ。
「そんなこと、素人にはできないよ」
確かにそうかもしれない。
だが、安心して欲しい。
それができる知識と技術を有する職業が、この世に存在する。
「理学療法士」である。

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