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転倒の事前予測に限界あり。寄り添うサービスこそ頼れるかもしれない。

📖 文献情報 と 抄録和訳

退院後に転倒しやすい患者を特定し、安全な退院を計画する

Wright JR, Koch-Hanes T, Cortney C, Lutjens K, Raines K, Shan G, Young D. Planning for Safe Hospital Discharge by Identifying Patients Likely to Fall After Discharge. Phys Ther. 2022 Feb 1;102(2):pzab264.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 急性期医療の理学療法士は、退院後の回復期に転倒を予防するために、退院場所やサービスを推奨することがある。セラピストは標準化されたテストを使用して推奨の決定を行うことがあるが、テストのスコアと退院後の転倒リスクを関連付けるエビデンスは不足している。本研究の主な目的は、Tinetti Performance-Oriented Mobility Assessment(POMA)およびActivity Measure for Post-Acute Care Inpatient Mobility Short Form(AM-PAC IMSF)スコアと退院後最初の30日間の転倒の関連性を調査することであった。

[方法] 療法士の推奨と退院場所・サービスとの一致(退院時一致)、年齢、性別がこれらの関連に影響を与えることが予想されるため、これらの要因もこの調査に含めた。調査方法この観察的コホート研究では、258人の入院患者が医療記録のデータ抽出に同意し、退院から30日後に退院後の転倒の有無を報告する電話調査に回答した。POMAおよびAM-PAC IMSF検査はすべての患者に対して実施された。参加者の年齢、性別、診断名、最終POMAスコア、最終AM-PAC IMSFスコア、理学療法士の退院勧告、実際の退院場所とサービス、退院日、電話番号が医療記録から収集された。

[結果] 単独で分析した場合、POMAスコアの高さは転倒のオッズの低さと関連していたが、他の要因で調整した後ではその関連性は有意ではなかった。AM-PAC IMSFスコア、年齢、性別はいずれも転倒と関連しなかった。しかし、退院時の同意は、他の要因を調整した後、転倒のオッズを59%低下させることと関連した

[結論] 理学療法士が推奨するサービスのある場所に退院した参加者は、転倒する確率が低かったTinetti POMAおよびAM-PAC IMSFスコアは、転倒する参加者をよく識別しなかった。本研究で得られた知見は、退院後の転倒リスクを軽減するために理学療法士の推奨事項を実施することの価値について、退院計画に携わる人々に情報を提供するものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

退院支援には、相反する2つの視点が必要になる。

✅ 退院支援に求められる相反する2つの視点
①事前予測型:完璧な安定状態があるという価値観に基づいている。事前の評価結果からの予測精度を高める、完璧な固定形をつくる努力に向かう。
②現場操縦型:完璧な安定状態はない、未来の想定外は絶対的であるという価値観に基づいている。予測の限界を認識し、予測を積極的に放棄する、事前制御は不可能、不安定系に操縦者を付ける努力に向かう。

前者には限界があって、後者はけっこう結果を出す。
今回抄読した研究は、きれいにその理論を証明していると思った。
前者の限界に関して、以下のミニレビューを読んでいただきたい。

📗 事前予測型の限界を示唆するエビデンス
- 退院直後に最も転倒リスクが高く[Checketts, 2020 >>> doi.]、5人に1人が病院を退院後に再入院している[📕Jencks, 2009 >>> doi.]。
- 【重要!】さらに、退院後に起こる問題の73.3%は、退院後まで顕在化しない問題であり、入院中から想定することが難しかった[📕Altfeld, 2013 >>> doi.]。

一言でいえば、『未来は未知である』、ということ。
アタリマエのことだ。だが、恐ろしいことだが、予測に没頭すると、不注意の盲目が起こってしまうのだ。
それを防ぐには、皮質下の制御、意識による監視を強くもつことが肝要だ。

いきなりだが、ライト兄弟は、なぜ飛べたと思う?
それは、『操縦』の概念を初めて取り入れたから。
以下の著書引用を読んでいただきたい。

📘 著書引用:【佐貫マタオ】不安定からの発想
 ライト兄弟の1899年の自信ありげなスタートのなかに、従来の先駆者たちが持っていなかった目標が含まれていることを感知できる。それは『操縦』である。ケーリー以来の開発はすべて安定した飛行機を目指していた。それは尾翼と、主翼の上反角に具体化されている。だれも積極的に操舵によって安定を保つ開発方針を取るものがなかった。理由は、模型を飛ばして研究したためと説明されている。不安定は悪であるが、有人飛行機である以上は操舵が可能であるから、タイミングよく行えば破滅には至らない。さらに、不安定な飛行機は釣り合いが乱されたとき、その乱れが増大する傾向があるから、操舵によって機体の姿勢が変化する勢いは、安定な飛行機より急である。すなわち、舵の効きは強烈である。機体そのものは固有の安定が足りないけれども、操縦によっていつでも鋭い舵を効かせて釣り合いを回復して安定な機体とすることができたのである

集約すると、「完璧を手放して、不完璧を積極的に認めた」から、その瞬間の未知・不安定を制御できる『操縦者』をつけよう、という発想が生まれたわけだ。
以上の例から、僕たちは何かを学ぶ必要がある。
完璧を手放し、積極的に不完璧を認めてから、人は空を飛べた。
遠隔には、明らかな限界がある、ってことを知ろう。
とくに、「経時的な遠隔」には。
だって、問題は『いま、ここで、歴史上はじめて』起こるのだから。

類似はあれど一致はなし

それゆえ、ほんとうに結果を出したいと思うなら、僕たちは居心地のいい作戦司令本部の重厚なソファから腰をあげ、現場へ赴く必要がある。
もっと、率直にいえば、「テメェの体を動かせ。横着してんじゃねえ。」である。
自戒である。

退院支援におけるライト兄弟になるための具体的な案として、『ショックアブソーバーの役割としての訪問リハ』を考えている(📕海津, 2020 >>> 地域リハビリテーション)。
ここまで見てきたように、退院後、とくに退院直後には何が起こるか予測しきれない。
だからこそ、環境最適化、介護サービス最適化、身体機能・動作能力への介入など多くの事象に対応でき、かつ介入頻度の高い(ケアマネは頻度に限界があると思っている)訪問リハが「操縦者」として最適と思っている。
極論、退院直後は訪問リハをデフォルトにして、最も危険域である退院直後〜1ヶ月間を過ぎたら抜く、ということが理想的と考えている。
なんにせよ、入院中セラピストとして、座して予測するだけではなく、積極的に「経時的な遠隔操作の限界を認識し、現場に操縦者をつける」技も身につけておく必要がある。

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