見出し画像

慢性疼痛を抱える高齢者の心;さぁ、実際の中に飛び込んでごらん

▼ 文献情報 と 抄録和訳

"続けなければ死んでしまう”;慢性腰痛を抱える高齢者の無力感と忍耐力

Stensland, Meredith. "“If you don’t keep going, you’re gonna die”: Helplessness and perseverance among older adults living with chronic low back pain." The Gerontologist 61.6 (2021): 907-916.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景と目的] 慢性腰痛(CLBP)は、世界的に障害の原因の第1位であり、急速に増加している高齢者人口の中で最も一般的な痛みの訴えである。本研究の目的は、高齢者のCLBPの生活体験を調査する大規模な質的研究の一環として、高齢のペインクリニック患者がどのように無力感を経験し、治療抵抗性のCLBPの中でどのように忍耐力を養っているかを理解することである。

[研究デザインと方法] van Manenの現象学的手法を用いて、CLBPを有する高齢のペインクリニック患者21名(66-83歳)に対して、1対1の半構造の詳細なインタビューを行った。データは、行ごとのテーマ別コーディングによって反復的に分析された。

[結果] 調査結果は、参加者がどのように無力感と忍耐の間の戦いを生きているかを二重に示しており、最終的なテーマ構造によって5つのサブテーマが明らかになりました。(最終的なテーマ構造では、次の5つのサブテーマが明らかになりました。(a)何をやってもうまくいかないので無力感を感じる、(b)気分が落ち込む、(c)遠回しに終わりを願う、(d)自分の痛みの現実を受け入れる、(e)痛みは残っているが、私は進み続ける。

スクリーンショット 2021-08-29 8.00.07

表. 本文をもとにSuperHumanが一部抜粋して和訳

[考察と示唆] 本研究は、無力感、抑うつ、そして高齢になっても元気でいたいという気持ちに支えられた、高齢者のCLBPの病気の経験を鮮明に示している。実践的な意味合いとしては、クリニックでの気分や自殺の評価の必要性が挙げられる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

「真の医者になろうとする者は、治そうと思うあらゆる病気や、診断しようとするあらゆる症状と、それに付随する症状を前もって経験しておかねばならぬ」・・・本当にそういう医者なら私も信用しよう。
実際、他の医者どもは、海や岩礁や港を描いて、自分は机の前に座って、何の危険もなく模型を動かす人のように我々に指図する。
彼を実際の中に投げ込んでごらん
どうしていいか分からなくなるから
モンテーニュ『エセー』第3巻十三章

「この気持ちは、私にしかわからないと思うよ」
その類の言葉を、なんど、この胸に受けたろう。
そのたび、どの回路を通して、何を出力したらいいか・・・、エラーが起こる。

最近は、こういうことにしている。
「その通りです。あなたの気持ちは、あなたにしかわからないと思います。僕たちには、想像することしかできませんし、実際、感じることはできません。だからこそ、教えていただきたいのです。そうしたら、そこから出発できるので」

同じ慢性疼痛に対しても、
絶望を感じている人、挫折を感じている人、悲しみを感じている人、真摯に現実を受け止めている人、なんと希望を抱いている人、さまざま。
そのそれぞれに、望ましい言葉かけは変わってくるだろうし、もっといえば治療法ですら、変わってくるかもしれない。
直接的に体感することが難しい僕たちにとって、このような質的研究の存在は、尊い。

車で走っていたとき、とある子ども園の看板が目に止まった。
「私たちは、心を育てています」
そうだ!!!
僕たちは一面、「心を治している」のだ。
さぁ、思いきって、実際のなかに飛び込もう。

-----------------------------------------------------------
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

-----------------------------------------------------------