バルザック「グランド・ブルテーシュ奇譚」

Loire川の支流であるLoir川のほとりヴァンドームの町にて起こった奇怪な話。発音をカタカナにすると見分けのつかない川になる。

そしてヴァンドームは日本ではなぜか「青山」がついたジュエリーブランドの名前で知られている。だからなんというわけでもない。色々面倒なニュアンスのついた町ヴァンドームで起こった奇譚。

バルザックの小説は、とにかく描写が長く、こんな短編でも、そこまで洋館の外観について長く書く?という趣が強い。ただ、終わりまで読んで、最初に戻ってもう一度その描写を読んでみると、ああ、そうか、ある意味で気を持たせるための雰囲気づくりなんだなあ、と思われる描写もチラホラ。

昔、ただただ放置されている大きなお屋敷というものがあった。私が育った地域にも、そういう空き家があり、それはいたいてい大きいので、いたずら者が入って、エッチな週刊誌があったよ、とか、下着が置いてあったよ、とか、どうでもいい流言をふりまいていたものである。

実際、入ったことのない私は知らないが、そのお屋敷のうらには、これまた年代物の教会があり、敷地としてはまったく無関係なのだろうが、隣接しているということで子ども心に、のちにゴシックホラーと呼ばれるような一連の恐怖妄想を植え付けることとなった。

私が西洋の怪奇ものを読む時、決まって思い出すのは、あのさびれた洋館である。

バルザックが紹介するのは、歴史の風雨の中でさびれた一つの洋館。「グランド・ブルテーシュ館」である。

私である医師のゴラース・オランションは、この館の風貌に惹かれ、外から眺めたり、少し中に入って観察してみたりと、ちょくちょくその周囲をめぐっていた。それをみていたのか、ルニョー氏と言う人物に掣肘される。ヴァンドームの公証人らしい。

ルニョー氏が言うには、この「グランド・ブルテーシュ館」の所有者であった故メレ伯爵夫人の遺言によって、館への接近は厳禁となっているのだそうだ。

オランションは、そのわけを訊いた。すると、ルニョー氏は目を輝かせて、話し始めた。

あるとき、メレ伯爵夫人に呼び出されて、遺言をしたためることを依頼された。ルニョー氏が赴任する二か月前に、メレ伯爵は家を出て、パリで放蕩のあげくに客死したということらしい。メレ伯爵夫人も、この館を出て、伯爵の品々はすべて焼却処分してしまったようだ。

伯爵夫妻の生活は不思議だったようだ。夫は二階に住み、妻は一階に住み、引きこもって暮らしていたという。そして、とうとうメレ伯爵夫人の命が尽きようとしている現場に呼び出されることになった。

伯爵夫人には噂があって、そのせいでもっとあだっぽい人を想像していたが、部屋はおどろおどろしく、年代物の調度品が、それをより強調していた。やせ細って、顔色の悪くなった夫人は、もはやかつての雰囲気を失っていた。

そして、遺言書を、ルニョー氏に預け、こと切れた。

遺言された内容は、館の売買禁止、改修禁止、そして接近禁止。そのために、遺産を使っていいということだった。死後50年間はとにかくそのままにしておいてくれという内容だったという。

それはなぜなのか、オランションは聞いたが、そのときルニョー氏は教えてくれなかった。しかし、しつこく日を改めて聞くと、ルニョー氏は、

いやあ、こんなわけで、あと四五年間は生きたいと思ってる人が、たくさんいるわけでして、あ、ちょっと待ってください

ルニョー氏の話は漠然としており、その茫洋さに苛立ったオランションは、その館の話をルパのおかみさんに向けてみた。すると、おかみさんは真相とされる噂を話し始めた・・・

さて、どうだろう。ここから、その真相が話始められ、現場に居合わせた炉ロザリーという「女中」をみつけ、熱心に尋ねたことで、とうとう真相を知ることになるオランション。

これはさすがにネタバレするのも気が引ける。Kindle Unlimitedで読めるので、興味を持った方はぜひ。ちなみに私は光文社古典新訳文庫の一冊を持っている。

原題に「奇譚」という文字はなく、訳者が補足で補ったものだろう。でも、この「奇譚」が効いている。いいタイトルだと思った。

「奇」という言葉が好きで、「猟奇」「奇術」「ブラック商会変奇郎」「三年奇面組」「ハイスクール奇面組」「奇才」…あらゆる「奇」に対して関心が強かった時期があった。

小学校4年生のときはじめてクラブ活動をするときいて、説明の中ででてきた「きがくクラブ」を「奇学」だと思っていたほど、奇をてらっていた。実際は「器楽クラブ」だったのだけれども。小学生のクラブで「奇」なんか使わないよね。

実際読んでみれば、2ちゃんまとめくらいの奇譚でしかないんだけれども、とにかく「奇譚」という響きにはどこか今でも憧れを感じてしまう。

「レッド・シーズ・プロファイル」というゲームがあった。ゲームはあまりやらない私だが、これはハマった。アメリカの片田舎の雰囲気と、いかにもそこで起こりそうなシリアルキラーのイメージが、マッチした逸品だった。

とても難しくさすがに途中からネットの攻略サイトをみてしまったが、アメリカの「奇譚」は、どちらかというと、こうしたイナたいイメージで、やはり「奇譚」はヨーロッパに優位だ。

感想を言うと、なんというか、話よりも、バルザックの語りを学んだ印象。

今回はネタバレしないと決めたので、言いたいけど言えない。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?