江戸川乱歩『江戸川乱歩短編集』
岩波文庫には、江戸川乱歩関連が、6冊ほどあって、この短編集はその1となります。
で、傑作選Ⅰ〜Ⅲが4〜6なのですが、2と3は?と思って探したら、二十面相関連の著作が、2〜3を占めていました。
江戸川乱歩については、その昔、もう40年も前になるのかな?少年探偵団シリーズ全46巻を、面白くて読破しました。少年探偵団よりも、30巻以降の『大暗室』とか、そういう大人向けのものの子ども向けリライトが、好きでした。『時計台の秘密』だったか、塔の上にある穴に首を突っ込んだら、ギロチンのように時計の針が向かってきて、手に汗握る!みたいな展開に、ドキドキしたこと、今も覚えております。
今回、大人向け作品を、読もうと思ったわけですが、江戸川乱歩とは、ずっとつかず離れずの関係でした。
大学に入って、年配の同級生とお話をさせてもらった際、どんなのが好きなの?と聞かれ、ミステリが好きで、江戸川乱歩みたいなのが書きたいです、と言ったら、「ああ、乱歩が幻影城で、古今東西のトリックを網羅しているから、その線は無理なんじゃないかなあ」と言われ、意気消沈したことを思い出します。
何が、その線は無理なのか、あんまり大学高学年生のフカシに、新入生は右往左往しないでほしいと思います。私は素直すぎたので、そこで、乱歩路線は諦めました。
その後、いわゆる前衛的なものに関心が向いたことで、乱歩的なるものから離れました。ただ、文庫で乱歩全集などが古本屋にあったりすると、折に触れて購入したり、映画の『キャタピラー』などを観たときに、原作と比べるために『芋虫』などを読んだりしていました。
乱歩そのものではなく、『新青年』という雑誌を趣味で調べたりしたときに、乱歩の活躍をみたり、ときに新潮文庫の乱歩短編集を読んだり、そんなふうな付き合い方を長らくしてきました。
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このたび、大人向けに書かれた江戸川乱歩をもう一度読んでみようという機運が高まりましたので、ここで岩波文庫に入った『江戸川乱歩短編集』(2008 1刷)を読み直してみたいと思います。
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『二銭銅貨』
これは、少年向けのものにも載っていた、短編です。記憶にあります。暗号を解く、そんな快感を与えてくれた作品です。昔、セコムの方とお仕事をしたとき、暗号の歴史のミニ・レクチャーをしてもらったことがあります。そのときに、ふと、この『二銭銅貨』を読み直した記憶があります。
『D坂の殺人事件』
動機の説明部分が子供向けじゃないので、おそらくは大人になってから読んだものと記憶します。D坂は「団子坂」か「動坂」か。当時、荒川区の西日暮里寄りに住んでいた友人宅に遊びにいったとき、何度か偵察にいったことがありました。よくわかりませんでした。喫茶、「乱歩」にも、その時分ではありませんが、伺ったことがあります。典型的な、問題と解答の形式になっていて、明智小五郎の髪って長髪でモジャモジャなんだー、と、若かりし頃の明智小五郎のイメージが崩れ去ったことを思い出します。なんの説明にもなってないですね。
『心理試験』
一番好きな作品です。ハウダニットが好きな人とホワイダニットが好きな人の二種類に分かれると思うのですが、私は後者で、その点では、この『心理試験』が一番好きでした。事件の謎というよりは、かけひき、について、ドキドキする、そんな作品となっています。
『白昼夢』
モノを隠すには隠さないことが一番いい、という例のポーの「盗まれた手紙」インスパイアの作品です。といったら、超ネタバレになるのかもしれませんが、見えているのに見えないという例の『姑獲鳥の夏』パターンもあるじゃないですか。その構造を絞ってつくった話ですが、まあ、一方で怪奇味もある、藤子不二雄A的な匂いのする作品です。
『屋根裏の散歩者』
こういう事件、現実にもいくつかありましたね。屋根裏がある家というのも昨今、徐々に少なくなりつつありますので、これもまた昭和の向こうに消えていくのかもしれません。そういう意味ではノスタルジーを感じさせるものですね。覗き趣味は子どもに教えちゃだめ、ということもあって、おとなになってから読んだやつかな。
『人間椅子』
語りの力を使った、いい作品だと思います。語りに読み手が同化すればするほど、最後の数ページが生きてきます。ハイハイ!というカタルシスとともに、ニンマリするいい作品。でも、さすがに気づくだろ、というツッコミは入れないほうがいいですね。大きな椅子がありえた時代の、牧歌的な作品でありますね。
『火星の運河』
イマージュだけで出来ているSF的な作品で、で?何?みたいな気持ちになるかもしれません。そう思って読めば、逆に噛めば噛むほど味が出てくるかも。人はなにかを予想して読むと、はしごをはずされたときに、怒り狂うかもしれないので、虚心坦懐に読むのがいいのではないでしょうか。
『お勢登場』
なんだろう、このタイトルと思った人は、最後の乱歩の注釈に、おい!とツッコミを入れたくなるでしょう。これもでも、私はいい作品だと思います。未必の故意とはちょっと違いますが、状況を利用した完全犯罪ということで、やっぱりドキドキします。
『鏡地獄』
こういうパラノイア系の作品は、好きですね。のちに出てくる『押絵と旅する男』は、わからないのですが、鏡の構造に狂っていく話は好きです。こうした狂気につきあう女性が、さらりと描かれるのも、いい。横溝正史は、こういうところを参考にしたんでしょうね。
『木馬は廻る』
これ、『芋虫』とちょっと似通った感じ(やるせない読後感)があるんですが、どうなんだろう。結構好きな作品です。ペーソス、というか、なんというか。変な悲しみがあるんですね。ここを拡大すると純文学になっていくのかもしれませんが、乱歩の場合は、ストーリーテリングで締めていきます。いい話です。
『押絵と旅する男』
これについては、私はちょっとよくわからない、というか、これが好きな人とうまく話がかみあわない、という経験があります。栗橋に住んでいた一つ上の女性の先輩が、この話をとても好きだといっていたのですが、萌えとか推しとか、わかるようでわからない私には、到底とどかない境地なのかもしれません。名作だと思いますけど、入っていけない、そんなカフカの『城』みたいな読後感を持ちます。好きな人はきっと好きな作品なのでしょう。
『目羅博士の不思議な犯罪』
この作品は好きです。もちろん、大正時代の理論に基づいているから、もう無理っしょ、みたいな現実論はあるわけですが、これも未必の故意系の完全犯罪を狙った博士が、おどろおどろしくていいですね。他の作品に登場させようとしたりしたのかな?そのへんは、これから明らかになっていくと思いますが、ホームズのライバル・モリアーティ教授のようなキャラクターをちょっとつくってみたかったのかもしれません。
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以上、筆のすさびに、『江戸川乱歩短編集』を総まくってみました。
感想ですので、主観です。
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