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ステラおばさんじゃねーよっ‼️⑰天国に近い丘〜甘口カレーと天狗伝説

👆 ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ⑯フィアンセ  は、こちら。




🍪 超・救急車




児童養護施設「しらゆり園」で夕飯を食べるのは、いつぶりだろうか。

カイワレは調理に関しては聖の足手まといになるので、とりあえず食堂のテーブルを拭いていた。

「今だ!」

と声がするや否や、5歳くらいの子供たちがバタバタバタと足早にかけ寄り、カイワレを取り囲んだ。

「おにいちゃん、なんでそんなにおおきいの!?」

「ねえねえ、おにいちゃんだれなの?」

「きょうはここに、お泊まりしたら?」

つぎつぎと質問を投げかけてくる子供たちに、ハイハイと笑いかけながら、ゆっくりと話した。

「僕はむかし、ここに住んでたんだよ。みんなのお兄ちゃんだね。今日はね、泊まっていくよ」

「お泊まりするんだ!」

「オレ、お兄ちゃんのとなりで寝る!」

「あたしもー!!!」

テンションが上がった子供たちは、急にカイワレにまとわりついたり、じゃれてきた。

しばらく子供たちとたわむれていると、カレーの香りにカイワレの腹の虫が鳴いた。

甘くてちょっぴりスパイシーな特製カレーは、カイワレがそうだったように、きっとこの子らにとっても、おふくろの味になっていくのだろう。

⭐︎

今夜の献立は、カレーライス、野菜サラダとフルーツのヨーグルトがけだった。

「いただきます!!」

皆で声を合せて言う、「いただきます」が、なつかしい。

「たくさん食べてね!おかわりは、自分で好きなだけ、よそって!」

変わらぬ味がとてもなつかしくて、カイワレはあっという間に平らげた。

子供たちのおかわりの列へ、巨人カイワレが並ぶ姿に、聖は吹き出した。

「先生!ヨーグルトのもおかわりしていいですかー!?」

わざわざカイワレは、昔を思い出したかのように、聖に言った。

「そう言うと思って、た〜くさん作ったよ〜!何となくね、たいちゃんが泊まっていくような気がしたから、今夜はたいちゃんの好きだった献立にしたの!」

「ありがとうございます!」

「ずるい、ずるい!!」

子供たちから、かわいい大合唱が起こった。

カイワレは笑いながら、この実家の存在にしみじみ感謝した。

聖は隣の席に座り、食べっぷりのいいカイワレを見て、うれしさとさびしさが同時に押し寄せてきた。

「たいちゃん、ごはん食べ終わったらさ、少し裏山まで散歩しない?」

こんな時間に?とカイワレは一瞬ためらったが、

「わかりました」

と同じく小声で返事をした。

⭐︎

「星が綺麗、でしょ」

「本当だ!昔と変わんないな〜」

「この辺りは標高が少し高いから、年中気温も低くてね。空気が澄んでて冬場は星がクリアに見える。実はね、この丘から見る星がわたしの癒しなんだ」

カイワレは、意外に感じた。

聖からは、この丘は怖い場所だと教えられていたからだ。

「みんな、良〜くきいてね。

この裏山にはね、天狗のかくれ家があってね。裏山の奥の丘に近寄ると、大きな羽を広げた、真っ赤で長〜い鼻をした天狗が、あなた達を捕まえて、連れてっちゃうの。だから、絶対に近づいちゃダメよ」

この話に含まれる警告は、小さな子供たちには効果的で、ほとんどの子は大きくなっても裏山に近づかなかった。

子供たちが迷子になったり、ケガや事故に遭わないようにとの、聖なりの智恵だったのだろう。

「あの天狗の話は本当に怖かった!裏山が大風でうなってるのを、天狗の声だってみんなで言ってたな〜」

「本当はね、わたしだけの丘を、誰にも知られたくなかったからあんな話をしたのかも」

聖は天を仰いだまま目を閉じていた。

「先生、実は俺、幼い頃にポーちゃんと何度かここに来てたんだよ」

丘のてっぺんにある古びたベンチにカイワレが腰かけ、続けて聖も隣りに腰をおろした。

「知ってた。ふたりは幼い頃から変に肝が据わったところがあったもんね」

「怒んないの?いいつけ、守らなかったのに」

「過ぎた事よ。いまさら怒る事でもない」

ひときわ冷たい夜風を受けて、聖はベンチの背もたれに身を沈めた。

カイワレは天空に広がる星々を見上げると、幼い頃にポーちゃんと【いいつけ】を破った、あの日の事を思い出した。

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