ステラおばさんじゃねーよっ‼️⑯フィアンセ
👆 ステラおばさんじゃねーよっ‼️ ⑮ショートケーキ は、こちら。
🍪 超・救急車
「聖先生、いいかな」
珍しくかしこまったポーちゃんの声が、食堂の入口から聞こえる。
「どうぞ」
聖は半分まで食べたエクレアを皿に置き、真面目な口ぶりで答えた。
ふたりが何か企んでいるのを勘づきながらも、カイワレは平静を装った。
次の瞬間、ポーちゃんと見知らぬ女性が姿をあらわした。
「えっ、とー。こちらは神林(かんばやし)ひかりさんで、僕のフィアンセです!」
「はじめまして、神林と申します」
長くのびた美しい黒髪が、おじきとともにサラサラと流れて揺れた。
目を引くような美人だが、大きな目元は節目がちに柔らかい笑みをたたえていた。
白シャツに黒ニットのカーディガンを羽織り、ベージュのワイドパンツの装いで、ジーンズにパーカーのポーちゃんのカジュアルないでたちとは不釣り合いな、品の良さがあった。
ポーちゃんと並ぶと背丈は同じくらいでも、ひかりの方がスラリとして大人っぽく、背が高く見えた。
聖はなごやかな表情で、
「ささ、どうぞお掛けください」
とひかりをポーちゃんの隣の席に促した。
カイワレは何が起きているのか理解できず、固まってしまった。
僕のフィアンセです?
誰のだよ?
誰の、ってポーちゃんのでしょ。
ヴゥエーエーエーエーエー…………!?
聖は、カイワレの飛びだしそうな目を見、目の前のひかりをちらりと見た。
「たいしろうさん、ですよね?ウタから何度も伺っておりましたので、初めてお会いする気がしません」
「ははじめまして、お、大根 太士朗と、もも申します」
「僕のお兄ちゃんなんだよ、たいちゃんは」
ポーちゃんは自慢げだ。
「あらためまして、神林ひかりと申します。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ!よろしくお願いいたします!」
カイワレは人見知りを見破られないよう、板につかない愛想笑いを浮かべていた。
⭐︎
緊張が解けないカイワレは、ひかりの顔をまともに見る事ができなかった。
それを気づかってか、ひかりはポーちゃんにそろそろ帰る、と告げた。
「本日は突然お邪魔してしまい、申し訳ございませんでした。また日をあらためましてごあいさつにまいります。それでは失礼いたします」
「じゃあ、ひかりをバス停まで送ってくるね」
玄関先でひかりがニッコリ笑い、おじきをすると、ポーちゃんはひかりの手をとり、歩きだした。
せっかくこんな山奥まで来てくれたひかりをひとりで帰すのは忍びない気がして、カイワレは叫んだ。
「ポーちゃん、ひかりさんを家まで送ってあげなよー!俺は明日休みだからここで一晩、泊らせてもらうからさー。いいよね?聖先生」
「もちろんよ!たいちゃんとも久々だし、つもる話もあるからね」
聖も、カイワレの申し出に喜びをかくさなかった。
「じゃあそうするねー!聖先生もたいちゃんも、今日はありがとねー!!」
ポーちゃんは、犬が喜び尻尾をふるようにブンブン手をふり、ひかりと共に夕闇に消えていった。
「サプライズ、大成功ぉ〜」
聖はカイワレをからかうように言った。
「はぁー、すっごいびっくりした!聖先生は、いつから知ってたの?」
「ポーちゃんから電話があってね、昨日はじめて聞いたの」
「ふたりとも全然そんなそぶりを見せなかったから、本当に心臓が飛び出そうだったよ」
「おおげさな表現ね〜文筆家さん」
「からかわないでよ、聖先生」
「あなたの大事な弟が、大事な人を連れて来たんだもんね。そりゃあ、びっくりするよね」
大事な人…そう思える人がいるポーちゃんをカイワレは羨ましかった。
「さてと、ビッグイベントも終了した事だし、夕飯の準備をしなきゃ」
「今日の献立は何?」
「手伝ってくれたらわかると思う!」
「はいはい、わかりました。お手伝いします!」
ふたりは腕まくりをしながら、食堂へ戻っていった。
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