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ステラおばさんじゃねーよっ‼️⑮ショートケーキ

👆 ステラおばさんじゃねーよっ‼️  ⑭変わらないもの〜聖 先生 は、こちら。




🍪 超・救急車




《りょう母のひじり先生は いつもえがおでやさしい!大すきです!!》

ひさびさに入る食堂には、《大すきなひと》というテーマで書かれた園の子ども達の手紙が、壁一面に貼り出されていた。

カイワレも幼少期には、こんな人がお母さんだったらいいな、とひそかに思っていた。

聖宛ての手紙を書いて、こっそり渡した事もある。

しかし現実には、聖が母でない事も、これからもそういう関係にはなれない事も、成長するにつれて理解していった。

けれどいつもそんな妄想を、心の中で温めていた。

そうやってカイワレは、現実と妄想のはざまで一日一日をこの施設でやり過ごしてきたのだ。

カイワレだけではない。

この施設にいる子ども達のほとんどは、聖を《まだ見ぬ母》のおもかげに重ねる。

聖も子ども達を《我が子》と思い向き合っている。

時にきびしく叱りつけてくれ、時におもいっきり褒め甘えさせてくれた事を、カイワレは母との思い出として大事にしていた。

ポーちゃんもきっと、聖を本当の母のように思っているだろう。

ポーちゃんの母親はこの世にいない。

15歳で妊娠し、家族の理解を得られないまま出産して、数日で亡くなってしまったようだ。

父親も誰か、わからない。

ポーちゃんは産まれてすぐに、孤児となった。

先に入所していたカイワレは、赤ちゃんだったポーちゃんに出会った時、自分の弟のようにいとおしく思った。

⭐︎

手土産に持って来たショートケーキとエクレアをのせたお皿が、ふたりの前に置かれた。

淹れ立てのコーヒーの香りは、ふたりをリラックスさせた。

「聖先生!このコーヒー、深煎りで僕好みだなー」

「わたしコーヒー豆の種類は詳しくないんだけど、焙煎については断然、深煎り派!気が合うわね〜」

ポーちゃんと聖のやりとりを見ていると、カイワレは自然に笑みがこぼれた。

これが、家に帰ってきたという感じ?

カゾクってものなのか!?

コーヒーを啜りながら、うれしくなってカイワレもふたりの会話に交じった。

「そういえば、ポーちゃんの大好物って、ショートケーキだったね。誕生日はいつもこれだったもんね」

「うん、だから今日も選んだんだ!」

ポーちゃんはショートケーキの熟れた苺をフォークでつきさし、そしてそれを一口に放り込んだ。

「苺あまくておいし〜」

「昔、ポーちゃんの苺を他の子に取られて泣いた事あったよね〜、それで俺の苺はポーちゃんに取られてさ」

「え!あれはたいちゃんがあげるって言ったんじゃん!」

「あげるって言ったけど半分こしようって意味だったのに、ポーちゃんが先走ってパクって食べちゃったんだよ!」

ケーキの話で盛り上がっていると、聖はほほえみながら、もう1人分のケーキとコーヒーを用意してきた。

「さーて、準備は整ったよポーちゃん!」

「わかりました!たいちゃん、あとちょっとだけ待っててね」

そう言うと、ポーちゃんは急ぎ足で食堂から出て行った。

「聖先生、このあと誰か来るんですか?」

聖は少し上目遣いになり、右手の人差し指を鼻頭の上において

「ナ・イ・ショ♪」

と少女のような口ぶりで言い、笑った。

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