短編小説Vol.22「夏の街に反射して」
圭吾は何を考えるでもなく、別荘の2階から眼下に広がる濡れた街を眺めていた。
そして、頭の中に流れ始めた”詩”を紙に刻み込んだ。
もうじき又夏がやってくる
君の温もり
君の香り
君の表情
君の涙が
はっきりと目の前に蘇る
君は十七回夏を知っただけだった
僕はもう二十二回の夏を知っている
そして今僕は自分の夏や、又自分のではない色々の夏に思いを馳せている
海の夏
放埒の夏
雨の夏
37度の夏
君の夏
そして僕は考える
人間は何回位の夏を知っているのだろうかと
君
もうじき又夏がやってくる
しかしそれは君のいた夏ではない
又別の夏
全く別の夏なのだ
新しい夏がやってくる
そして新しい色々のことを僕は知ってゆく
美しいこと
醜いこと
僕を元気づけてくれるようなこと
僕をかなしくするようなこと
そして僕は質問する
いったい何だろう
いったい何故だろう
いったいどうするべきなのだろうと
君は死んだ
誰にも知られないように一人で遠くへ行って
君の声
君の感触
君の気持ちまでもが
今はっきりと僕の前に蘇る
しかし君
もうじき又夏がやってくる
新しい無限に広い夏がやってくる
そして
僕はやっぱり歩いてゆくだろう
新しい夏をむかえ 秋をむかえ 冬をむかえ
春をむかえ 更に新しい夏を期待して
すべての新しいことを知るために
そして
君に再び会って話すために
詩のタイトルは君の名前以外、納得のいくものはありはしなかった。
君は一生、圭吾のことを苦しめ続ける。
圭吾はただ諦めて、自分が犯した罪を受け入れるしかなかった。
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