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食本Vol.8『地域の誇りで飯を食う!』真坂昭夫

☆地元を隅々までもう一度見直してみようと思うきっかけをくれる本
今回の食本は「食う」という意味が今までの食本の「食べる」とはちょっと違う切り口です。

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潔い!と思える、どストレートなタイトル。

本書は簡単に言えば、とある小さないなか町の町おこしの物語です。
でもただの物語ではない。隅から隅まで誇張も美辞麗句も出てこない、ノンフィクションです。

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岩手のてっぺん!岩手県二戸市。本書の”主人公”となった地域です。

☆”何もないまち”を変えた奇跡の物語
本書は岩手県二戸市、という人口3万人程度の小さなまちが舞台。
「岩手のてっぺん」と言われ、青森県と接しています。
二戸市、と言うと例えば『南部美人』。
世界的な日本酒ブームの火付け役と言われる蔵元さんです。
国産漆は二戸市が日本一の生産地。
浄法寺町天台寺は瀬戸内寂聴さんが住職をお勤めになられた事で一気に有名になりました。
また、”カンブリア宮殿”(テレビ東京)にも登場した地方の優良企業で南部せんべいの「小松製菓」も二戸市です。
こうして書いてしまうと、「なんだ。有名なものがたくさんあるじゃないか」という事になりますが、現在の二戸市になるまでには他の日本中の小都市同様、人口減少、若者流出、地場産業の衰退などなど抱える問題難題課題が山積みでした。
そこで立ち上がったその当時の二戸市長~小原市長~と二戸市民の皆さんの24年間にわたる取り組みの物語です。

☆目次
第一章 お金がない、やる気がない、若者がいない
第二章 宝探しで地域おこし
第三章 宝で変わる市民の意識
第四章 地域おこしを長続きさせる仕掛け
第五章 誇りで飯を食いたい!
第六章 地域ブランドの伝え方
第七章 誇りを次世代に引き継ぐために

本書の著者である真坂昭夫氏は農学博士であると同時に各地エコツーリズムによる地域づくりの調査研究をされている方です。
本書の「はじめに」で触れているのですが、当時の小原市長に呼ばれて、市長、二戸市の皆さんと共に「二戸市の町おこし」に関わられたようです。
ですので、文章そのものに「嘘がない」、「ケレンもない」。
24年間の二戸市の変わっていく様を温かい目で、自分事として見続けてきた、という事が伝わってきます。

☆町おこし、とは自分たちがその町の「宝」を探し、磨き直し、共有し、伝え続けること

人口減少も若者流出も地場産業衰退も、なにも二戸市に限ったことではありません。
しかし、本書を読むと、今の日本の”町おこし”に必要なことがなんなのか、をシンプルな言葉で教えてくれるのです。

それは本書タイトルにもなっている『誇り』

今まで(コロナ前まで、ですけど)
地方に行って地元の方々とお話する機会が結構多かったのですが、ほとんどの地域の方々がまずおっしゃる言葉に「なんにもない町だからねぇ~。。。」。
謙遜もあるかもしれませんが、やっぱり「なんにもないからね」という言葉よりは「ここにはこんな素敵な〇〇があるんだよ!」という言葉の方がその地域がより一層魅力的になるんだと思います。

二戸市でも最初は地元の人たち自身が自分たちの町のそこらじゅうに転がっている「宝の魅力」に気が付いていなかった。いや、気を向けようとしなかった。

そこから始まったんですね、二戸市も。
二戸市中の子供から大人までが地域のどんな小さなことにも目をこらし、気を向け、それがいつしか『誇り』になっていった、ということが本書に書かれています。

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二戸市に行ったときにもらってきたパンフレット類。どれも二戸市の魅力満載で、また行きたい!と思ってしまいます。

☆今回の”旅”で教わった「食」「食べる」こととは
今回は違う角度からの「食う」という意味の本の旅をしました。
他の生物同様人間が生命活動を維持していく上で「食べる」「食う」ということは必要不可欠な事ですが、それだけでなく、自分のふるさとや住んでいる地域を愛し、その地域に対して誇りを持つことでさらに生きていく上での活力が漲っていくのでないか、と思います。
本書を”旅”して教えてもらった「食」「食べる」(「食う」)とは、人間は食物によってだけでなく地域、コミュニティの中で生活する動物であり、その中で「食」というものも成り立っているのだ、ということでした。

☆今回の食本
『地域の誇りで飯を食う!~”何もないまち”を変えた奇跡の物語』真坂昭夫著(旬報社)

☆本日のおまけ~二戸市の”食の達人”おばあちゃんのへっちょこだんご

二戸へっちょこだんご

3年ほど前に二戸市に行きました。いわゆる農家レストランを営む”食の達人”の称号を持つおばあちゃんの郷土料理をいただいたのですが、その中でもこの「へっちょこだんご」は二戸市らしい郷土おやつです。
小豆から炊いたお汁粉にたかきびの粉のおだんごが入っているものです。
柔らかく煮あがった小豆とちょうど良い加減の甘さのお汁粉。もっちもちのたかきびだんご。使い込んだ漆のお椀にふわふわふわ~っと湯気が上がって、ゆっくりとした時間が流れる、今でも思い出すと温かな気持ちになれる経験でした。
ちなみに「へっちょこ」とはおへそ、という意味だそうです。


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