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食本Vol.15『歴史を変えた6つの飲物』トム・スタンデージ

☆今では”フツー”な飲物たちの知られざる歴史と人類に及ぼした影響に思わず唸ってしまう本

ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、お茶(緑茶でも紅茶でも)、コーラ。この6種類の飲物の中で今日飲んだ飲物は?
わたしは毎朝必ずコーヒーを一杯。食事の後にはだいたい緑茶。
ビール、ワインはうーん。。。最近は飲まなくなったなぁ~
と、言う事で
今ここに挙げた6つの飲物は今やスタンダードな飲物。
味や香り、フレーバーや産地やマリアージュなどについて語り合う機会はあっても「そもそもビールっていつ、だれが、なぜ、どんなふうにできたのさ!」などというテーマについては意外と”詳しくは”知らない。
(いや、勿論、詳しい人はどこにだっていらっしゃいますけれども)

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原題はA HISTORY OF THE WORLD IN 6GLASSES それぞれの飲物を表したシルエットがかわいい

☆新たな生活様式への変化によってビールは生まれた
約15万年前、ホモ・サピエンス・サピエンスが誕生しました。すなわち、今のわたしたち人間のカタチです。
ホモ・サピエンス・サピエンス誕生前までの移動しながら生活する狩猟採集中心から、定住型に近い生活様式への変化をきっかけに人類は水に変わる飲物を飲み始めました。
それは、最初に栽培した穀物、大麦と小麦粉を原料とする飲物。
そうです。ビールです。
ビールは文明、社会、宗教、経済生活において中心的役割を果たすようになり、人類は一気に近代化へ踏み出していったということなのです。
いや、恐れ入りました。
今やビールは「とりあえずビールで!」って言ってしまう「とりあえず」扱いされてしまう事が多々ありますからね。
これはビール様をもう一度見直さなければ。

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メソポタミアのテペ・ガウラで見つかった印章の絵文字。紀元前4千年前頃のもの。ふたりの人物が大きな陶製のカメからストローでビールを飲んでいる様子が描かれています。ちょっとピカソ的?

☆ビールを飲むことで”人間になれる”
かの世界初の文学作品『ギルガメッシュ叙事詩』の一節に、主人公のギルガメッシュの友人エンキドゥが野人から”人間”になるための祝宴が模様される場面が出てきます。
おもしろいのは野人エンキドゥ(まっぱで荒野を駆けるようなヤツ)を高度な文化に触れさせ、”人間”になるための食事として「パンとビール」を食べさせる、という場面です。
このギルガメッシュ叙事詩からも見て取れるように、メソポタミア人はビールを飲むことを「文明の証」と考えていたのだという事なのです。


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円筒印章に残された宴の様子。いすに腰掛けて大きなカメからストローでビールを飲んでいる人もいます。それにしてもストロー多いなあ。

☆6つの飲物が飲みたくなってくる目次
プロローグ 生命の液体
第1部 メソポタミアとエジプトのビール
第1章 石器時代の醸造物
    ・ビールの発見 ・ビールと農耕、近代化への種 など
第2章 文明化されたビール

第2部 ギリシアとローマのワイン
第3章 ワインの喜び
    ・世にも盛大な祝宴 ・山間部の絶品”ビール”
    ・ワインは心を写す鏡 ・ワインを飲むことの哲学 など
第4章 帝国のブドウの木
    ・すべてのブドウの木はローマに通ず
    ・富と地位とワインの格付け ・薬としてのワイン など
第3部 植民地時代の蒸留酒(スピリッツ)
第5章 蒸留酒と公海
    ・錬金術師の実験室 ・蒸留酒、砂糖、奴隷 など
第4部 理性の時代のコーヒー
第7章 覚醒をもたらす、素晴らしき飲み物
    ・カップによる啓蒙 ・裁判にかけられたコーヒー など
第8章 コーヒーハウス・インターネット
    ・コーヒーハウスで沸き上がった科学と金融の革命
    ・カフェから起きたフランス革命 など
第5部 茶と大英帝国
第9章 茶の帝国
    ・世界を征服した飲み物 ・紅茶への愛と権力 など
第10章 茶の力
第6部 コカ・コーラとアメリカの台頭
第11章 ソーダからコーラへ
    ・コカ・コーラ誕生の神話 ・万人のカフェインへ など
第12章 瓶によるグローバル化
    ・冷戦とコーラ戦争 ・20世紀を象徴する飲み物 など
エピローグ 原点回帰

☆ワインは人間の性格を知るために有効利用できる
詳しい内容はぜひ本書を読んでいただきたいと思うので、ここではあれこれ書きませんが、ビールのあとに人間が発見したワインは(ビールもそうですが、発明、ではなく、あくまで発見)、当時生水をそのまま飲むことにかなりリスクがあり、ワインを水に加えることによって抗菌したり、体調が良くなる「薬として」の飲物でした。さらに、人間のワインへの関心が高まるにつれ、産地によるぶどうの品種、香り、味わいの違いやそれをたしなむためのルールなどについてあれやこれやと貴族階級の人々は教養としてのワインを楽しむようになっていったようです。
もともとは輸送手段や保存技術がまだまだ発達していなかった当時はワインが地域外に出ていくことは難しかったようですが、ワインの醸造技術についてギリシャからイタリアやフランスへと伝わっていく中でワインの普及率は拡大し、庶民から貴族まで幅広く飲まれるようになっていきました。
但し、庶民が飲むワインと貴族がたしなむワインは格段の差があったわけで、貴族の祝宴では「どのようなワインを選び、どのような飲み方をする者なのか」、ワイン一つで品格品位を判断されてしまっていたようです。
古代ギリシアの著名な哲学者プラトンもこんな一言を残しています。
「ワインを飲むことは、怒り、愛、誇り、無知、欲望、臆病といった非理性的な感情に自らをさらし、自己を試す方法である」...........

この言葉、今でも十分通用しますね。
ワインに限らず、ですが、お酒の飲み方ってその人自身を表しますよね。
プラトンさん、激しく同感です。

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プラトンさん

☆今回の”旅”で教わった「食」とは「食べること」とは
今回のテーマは「飲み物」でした。
本書冒頭に書かれているのですが、人間は70%ほどの水でできているということで、食べ物も重要なのですが、それにも増して「水分」が重要。
人間は水分がないと生きてはいられないのです。
ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラ。
本書で紹介された6種の飲物は今や日常生活のなかに当たり前のように存在しており、その誕生のきっかけや当時の人間がどのような思いを持ってその飲物を扱っていたのか、なんてことは想像もしません。
現代人にとってこの6種はもはや「し好品」となっているからです。
ただ、紀元前1万年頃から人々がビールやワインを生きていく上での「命の水」(飲物)として醸造技術を発展させ、貴族たちは「人としての品格あるたしなみ方」を教養とした。これは現代人の我々にも学ぶところ大いにあり、と思うのは私だけでしょうか。
と、いうことで今回、「6種の飲物」から教わった「食」「食べること」とは、今あたりまえのように飲み食いしているものの歴史を知ることで気づくことがあるし、いつの時代も変わらぬ「食に対する哲学」がある、という事でした。
なんだかメソポタミア人やプラトンさんとお話してみたくなりました。
今回、6種の飲物のうちビールとワインの章しか紹介しませんでした。
もし、ご興味お持ちになったらぜひ本書をご覧くださいね。飲物の歴史であり人間の歴史でもあり、非常に興味深い一冊です。

☆今回の食本
『歴史を変えた6つの飲物~ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語るもうひとつの世界史』トム・スタンデージ著(株式会社楽工社)

☆本日のおまけ~毎日コーヒー

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コーヒーにこだわりがあるヒトではないので(よく知らないので)直観で「今日はココで飲もう」っていうお店があったら入ってコーヒーを一杯。
ここ1,2年はあんまり外でコーヒーを一杯、ってなくなっちゃったな。


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