ポルトガルって何があるの?
「エジプトに行く」と言われると、古代の遺跡を見に行くのかな、となんとなく想像がつく。ピラミッドとか、スフィンクスとか。
「バリ島に行く」と言われると、南国のリゾートでのんびりするのかな、とイメージが湧く。
ところが、これが「ポルトガルに行く」になると、大体の人からこう返ってくる。
「ポルトガルって何があるの?」
これ、何回聞かれたのだろうか。
コロナ前、私が会社で3日以上の休みをもらう時は大体旅行だと周りの人も知っていたので、休むことを知ると旅先を聞かれるのだが、ポルトガルに行くといった時のほとんどの反応がこれである。
ポルトガル旅行は大学時代の友達と行くことになっていた。私が誘うと「休み取れるか交渉してみる!」と二つ返事をくれ、後にOKしてくれた。
細かい日程や飛行機、ホテルを決めるために休日にファミレスで待ち合わせたところ、休みを取った時の話をしてくれた。
「休みはスムーズに調整できたんだけどね、ポルトガルに行くって言ったら、職場の人に何があるのって聞かれたの。」
やはり、友達も同じだったようだ。
「でもさあ、私、答えられなかったんだよね。何があるんでしょうね、って。ポルトガルって何があるの?」
なぜ誘いを受けたのか甚だ疑問であるが、対する私の答えはこれだ。
「実はさぁ、私もよく知らないんだよね。」
….... 誘った方も大概である。
何があるかもよくわかっていないのに、なぜ人を誘ってまで私はポルトガルまで行こうとしたのか。
あくまで私の体感ではあるが、ポルトガルという国、旅行好きの間でとても評判がいいのである。
旅先で同じような旅行者と交流するようになると、大体話題に上がるのが以下の3つである。
良かった国でポルトガルという回答が結構あったのだ。中には2週間かけてポルトガルを周ったという人もいた。
また、インターネットのブログなんかを読んでも、ポルトガルが好き、ヨーロッパ複数国行ったけどポルトガルが一番良かった、と言った感想も見かけたりする。
テルマエ・ロマエの作者、ヤマザキ・マリさんはイタリアを始め何カ国かに住まれているが、リスボンは住みやすかったという話を著書で読んだことがある。
でも、色々見聞きして良かったところというのをまとめてみると、大体こんな感じだ。
治安がよくてご飯が美味しいところはポルトガル以外にもあるし、人が優しいというのもよく分からない。
私が15か国以上旅行して思うことは危害を加える気のない人間はどこの国でも大抵親切である。(もちろん騙すために親切にする人もいるので見極めは必要だ。)ポルトガルだけが特別なのかちょっと疑問である。
なぜポルトガルに行った人はポルトガルに恋をして帰ってくるのか。
そう、私はポルトガルに何かがあるから行きたかったのではなく、何があるのか知りたかったから行きたかったのである。
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さて、こんな書き方をすると、ポルトガルには何も観光資源がないような印象を受けるので、少し紹介したい。
ポルト酒というお酒の名前を聞いたことがあるだろうか。別名、ポートワインともいうが、これはポルトガルの北部ドウロ地方で生産され、ポルトという港街から世界的に出荷される、ワインにブランデーを混ぜたお酒である。
お酒の名前の元なっているポルトガル第2の都市ポルトは、ドウロの真珠と呼ばれ街の一部が「ポルト歴史地区」として世界遺産に登録されている。
ホテルの人に地図をもらうと、オススメスポットとして教えてもらったのが駅である。
ポルトのサン・ベネト駅はポルトガルのアズレージョと呼ばれるタイルの装飾で有名だ。
アズレージョ、という言葉は単にタイルを指す言葉がだが、このブルーの美しいタイル装飾はポルトガル全土で見ることができる。
ただ、ポルトの歴史地区で一番人気なのは、もしかしたら本屋だろうか?
かつてハリー・ポッターの著者J.K. ローリング氏が住んでいた街であり、彼女がハリー・ポッターシリーズを執筆する以前に足繁く通っていたという本屋がある。
その内装から「世界一美しい本屋」と言われ、ハリー・ポッターの世界観を感じさせることから世界中から観光客が訪れる。
以下の記事にコロナ以前の混み具合のレポートが。私が行った時も似たような感じだった。
首都リスボンにも世界遺産がある。「リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔」として複数の建造物が登録されている。
香辛料貿易で得た莫大な利益で作ったという修道院。
ベレン修道院の近くにはエッグタルトの発祥のお店がある。ポルトでもリスボンでも大体どこのカフェ、パン屋にもエッグタルトは置いてあるが、ベレンのお店が元祖であり、行ってみると行列していた。マカオや香港のエッグタルトもここから伝わったものだ。
修道院と合わせて登録されているベレンの塔。
首都リスボンから約電車で1時間行ったところにシントラという街がある。かつて王族が住んでいた宮殿がいくつかあり、これらも世界遺産に登録されている。
一番見た目のインパクトが大きいのはペーナ宮殿だろうか。私が訪ねた日は霧が出ていて、宮殿までの山道の雰囲気を盛り上げてくれた。
登り切った先に姿を現した宮殿。
王族が住んでいたはずなのだが、夢にまで見た王子様に会いにきたシンデレラの気分、というよりも、クッパをぶっ潰しにきたマリオの気分である。
霧がかかっているといかにもラスボスが住んでいそうである。
ポルトガルに何があるのかと聞かなかった人は実は一人だけいた。私がポルトガルに行ったことを報告すると、その人はこう答えた。
「あら、いいわね。ファドでも聞いてきたの?」
ファド、と言うのはポルトガルの民族歌謡で、特に首都リスボンに行くとファドを聴けるお店がたくさんある。ギターをバックにした、少し哀愁の漂う音楽だ。
ちなみに、私がファドを聞いたかと言うと、日が暮れたリスボンの坂道をくだりながらどこかの店から漏れる歌声を聞いただけだ。後悔している。
この発言をしたのは私のおばあちゃんである。本や映画、旅で培った世界の広さを年の功と言うのであれば、老いては斯くありたいとぞ思う。
ただ、ポルトガルの何が良かったかを聞かれると、シントラの宮殿やジェロニモス修道院があるからポルトガルをお勧めするのか、というと少し違う。
それらに魅力がない、というのではなく、そこがポルトガルという国の魅力の本質ではない気がするのだ。
例えば、スペインのバルセロナにあるサグラダファミリア、オランダのハーグにあるフェルメールの名画「真珠の耳飾りの少女」。これらは建造物1つ、絵画1枚のためだけに訪れる価値があると思った。
でも、ポルトガルはそういう所じゃないのである。
実際訪れた感想としてポルトガルは何がよかったのか、と聞かれると…簡潔に伝えようとするとやはりこれに尽きるのである。
ただ、なんというか、単にご飯が美味しいとか、人が親切、という感じではない。
人々は、イタリアやスペインほど陽気で前に出てくる感じではないが、かといって愛想がないわけでもなく、気が付いたらさりげなく助けてくれたり親切にしてくれたり、その距離感と素朴さが心地いい。
そんな人々の暮らす街を歩き、ご飯を食べ、南欧の太陽を浴び、大西洋の風に吹かれる。
ポルトガルには何があるのか。
土地と街の織りなす美しさ、そこに暮らす人々の営みに、気が付いたら魅せられ、恋をして、旅が終わる時に、また訪れたいと思わせる魔法がポルトガルという国にはある気がするのだ。
それは実際に訪れた人だけがかかり、味わうことができるのである。
ヨーロッパの一番西、地が果て海の始まる国、ポルトガル。
今年の夏は、ポルトガルの魔法を確かめに行ってみては如何だろうか。
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