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オリンピアン流「学び」の姿勢|日本体育大学女子アイスホッケー部監督 岩原知美氏インタビュー(前編)

現在、母校の日本体育大学で女子アイスホッケー部の指導をしている岩原知美監督は、北海道生まれのオリンピアン。幼いころからスティックを握り、高校生でプロチームに加入、2018年平昌冬季オリンピックには日本代表スマイルジャパンのFW選手として出場するなど、長年日本女子アイスホッケー界で活躍してきました。

現役を引退し、所属していた会社を昨年退職した岩原氏が選択したのは大学院でコーチングを学ぶこと。彼女の飽くなき学びの姿勢はどこから来てどこに向かうのでしょうか。今回のインタビューは前編と後編に分けて、岩原流「学び」の姿勢と、指導者としての考え方などについてお伝えします。

【岩原知美(いわはら ともみ)氏 プロフィール】
1987年北海道生まれ。高校生で女子アイスホッケーチームのSEIBUプリンセスラビッツ加入。2015年女子世界選手権出場、2017年アジア冬季大会優勝、2018年平昌オリンピック日本代表FW選手として活躍。2020年日本リーグ優勝時の第1試合ベストプレーヤー。2022年シーズンを最後に現役引退。現在、日本体育大学女子アイスホッケー部監督。同大学院修士課程にてコーチングを専攻中。


アイスホッケーへ恩返し


ーー 今年の春から日本体育大学大学院の修士課程でコーチングを専攻されているそうですが、なぜ改めて大学院に行きコーチングを学ぼうと思ったのでしょうか?

岩原氏:現役引退後、去年まで所属していた市進ホールディングスで1年間子どもたちにスポーツを教えていたのですが、やはりアイスホッケーに深く関わりたいという思いがありました。世界大会やオリンピックなど現役時代は色々な大会に出て貴重な経験をさせてもらったのですが、コーチとしての専門的知識は全くありませんでした。自分の経験だけで人にものごとを教えるよりも、しっかりとコーチングの知識を学び自分の経験にプラスすることで、アイスホッケーの指導で貢献できるようになりたいと思ったのが、大学院で勉強しようと思った理由です。

またアイスホッケー界では、大学院で学んで指導している人というのはいないので、そういう意味でも今までにないことをやってアイスホッケー界に恩返しできたらなという思いもありました。

日本代表として活躍していたころの岩原氏(画像提供:岩原知美氏)

出会いと発見


ーー 実際にコーチングの勉強を始めていかがですか? 

岩原氏:4月に入学してからまだ数カ月ですが、今は座学が多くて研究自体は始まっていません。コーチングで選手にどうアプローチしていくか、さまざまな状況下で自分たちがどう対応するのか、などをディスカッションしたりして知識を吸収しています。

大学院には様々なバックグラウンドの人たちがいます。休職中の学校の先生、まだ現役でスポーツをやられている人、元サッカー選手や水泳、バレーボールの選手など。そういった今まで出会わなかった人たちとの出会いや、個人競技の人に話しを聞いたり皆でディスカッションをしたりする中での発見がたくさんあります。例えばコーチングにおいて、選手だけのことを考えるのではなく、自分の幸せと選手の幸せの両方を考えながら指導しないといけないよねといったことなどです。

また、アイスホッケーのコーチのキャリアという意味では、連盟の中でコーチの資格制度というものがまだありません。大学院の先生からは、私が実験台になってそういうものを作っていったらどうかというアドバイスも受けています。まずはコーチの資格認定試験がある他の競技でトライしてみることも念頭に置いていますが、いずれはアイスホッケーでもコーチの資格制度が出来て、自分もそれを取得することができればいいなと考えています。

ーー 修士課程終了後の進路についてはお考えですか?

岩原氏:修士課程は2年で、そのあと博士課程に進む場合は3年になりますが、私の場合は修士課程修了後は現場に戻りたいと考えています。年齢も年齢なのと、学んだことを現場に伝えたいという思いがあります。あまり長く現場と離れていたくないという気持ちもあります。

ーー 学んだことをまた現場に還元したいということですね。実践でどのように役立たせたいか、頭の中で何か具体的なイメージはありますか?

岩原氏:まだそういうイメージは全くありません。ただ現在、日体大で監督をやらせていただいている他に、スクールなどでの指導もやらせていただいています。Bring Upというスポーツアカデミーで個人のスキルレッスンや、7月には八戸にあるプロの男子チームに呼ばれて女子を指導する機会もありました。そういった自分を必要としてくれるところで、今後も学んだことを実践に活かしていけたらいいなと思っています。

BringUP スポーツアカデミーで子供たちを指導する岩原氏(画像提供:岩原知美氏)

指導の鍵はコミュニケーション


ーー 大学院でのコーチングの勉強と同時に、母校の日体大で女子アイスホッケー部の監督もされています。監督になられた経緯について教えてください。

岩原氏:大学院に通ってコーチングの勉強をしたいという話をしたときに、それなら女子アイスホッケー部を指導してもらえないかという依頼を母校から受けました。大学院でお世話になることもあり、何か力になれることがあれば、という思いで引き受けました。

ーー大学側にとっても岩原さんのような経験豊かな指導者が来てくれるのは心強いですね。

岩原氏:そうですね、実践で活かせる場所があるのはありがたいことです。

ーー 大学の女子アイスホッケーチームを指導していく中で、岩原さんが目指す理想のチームとはどういうチームでしょうか?

岩原氏:今のチームは所属人数が10人と少ないため、個々のスキルアップも必要ですが、やはり一人でもけが人を出さないことが大前提になります。その上で、私が学んでいる戦術も選手10人だと浸透しやすいため、一人ひとりの理解度を高めて少ない人数でも1試合60分を通して勝てるチームを作りたいと考えています。

目指すのは『少人数でも60分戦って勝てるチーム!』
   

◆個々の選手のスキルアップ
◆ケガの防止
◆戦術をチーム全員に浸透させ理解度アップ

ーー 今おっしゃられた少人数でも勝てるチームに近づくためには、どういったことに気をつけて指導していますか? 

岩原氏:先ほど言ったように人数が少ないので、一人ひとりを見て指導する時間は結構あります。そこで必要なポイントを伝えること。つまり個々の選手にあったコミュニケーションを大事にしています。

実は女子アイスホッケー部の監督を始めたのは昨年からなんです。働いていましたので、この1年間は仕事をしながら指導者として様子を見させてもらいました。私自身はずっとクラブチームでアイスホッケーをしてきたため大学時代に部活動をしたことがなく、大学の部活動というのを理解するための様子見です。

「大学生っていい意味でも悪い意味でも感情の波がすごくあるな」という印象を受けました。そこで学んだのは、一人一人が何を感じているかを知るコミュニケーションの重要性です。コミュニケーションを取ることで学生の理解度がこちらも分かるようになります。

そしてもうひとつ、選手には主体的に動いてほしい。そのためには教えるばかりではなく、自分の頭で考えさせるという場面も作っていかないといけないなと思っています。

日体大女子アイスホッケー部で指導中の岩原監督(画像提供:岩原知美氏)


ーー 日体大女子アイスホッケー部は学生女子では7年連続で優勝している強豪チームですよね。

岩原氏:そうですね、毎年優勝しています。ただ大学チームというのは数が少ないんですね。通常オリンピックなど上を目指している選手はクラブチームに入ります。学生女子アイスホッケーというレベルでは優勝はできるかなと思いますが、やはりその上を目指すにはクラブチームに勝たないといけない。そこが今の目標だと思っています。

ーー ちょうどチームの課題と目標についておうかがいしようと思っていたところです。もう少し具体的に教えてください。

岩原氏:今のチームにはトップチームでの経験者が何人かいて初心者が全くいないため、実力的には今年は通用するかなと思います。そこで大事になってくるのがモチベーションを上げることです。選手のモチベーションを上げられるような練習を、私も組み立てないといけないなと考えています。

女子の練習は深夜が多く、眠い中どうやるか、そのための目的を自分たちで持たせるということも私の課題だと思っています。去年は少しこちらから与えすぎて、コーチに何でもやってもらおうといったムードに学生がなってしまいました。自分たちでやらないといけないということを自分の頭で考えさせる、という課題が出来たので、そこは私も学びながらしっかりとやっていきたいなと思っています。

監督としての課題
◆選手のモチベーションを上げる練習プランをどう組み立てるか?
◆選手に主体性を持たせ、目的を考えさせるためにはどうしたらよいか?

昨年は全日本選手権Cグループの予選で3チームによる戦いで負けてしまいました。昭和大学が昇格し、日体大女子は本選に出ることができませんでした。でもまたすぐに予選があるので、もう一度この機会に勝って全日本選手権(Cグループ)に出たいと思っています。

ーー 直近の目標は全日本選手権の予選に勝って、全日本のCグループに返り咲くということですね!

岩原氏:はい、そうです。

> 後編はこちら 「一生懸命を楽しむ」 

文・久保田久美
編集・翻訳者/サポートスペシャリスト
Sunbears マーケティングチーム

(画像クレジット)
※ヘッダー写真:©SEIBUプリンセスラビッツ


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