有閑―ゆうかん―

 広大な土地に何もない家の中

 何も持たない私の、何もない家


 やることもない

 やりたいこともない


 椅子に座ってテーブルに肘をついてみる

 暇つぶしに、机の上に自分の両足を乗せる

 頭の後ろで両手を組んで少し見上げる


 椅子の前足を浮かせ、後ろ足で揺れてみる

 何か、面白いことはないだろうか

 不意に落ちそうになる

 ちょっとだけ心臓がドクンとした


 ひと息、安堵のため息

 そしてひと息、面倒くさそうなため息がもれた


 物思いに耽ろうにも何も思い浮かばない

 楽しいことが浮かばない


 何もないから、何も思い浮かばないのだろう

 現状に満足しているから、何も思い浮かばないのだろう


 こうして考えてみると、私は空っぽなのだとつくづく思い切らされる


 衣食住には満足してしまった

 それに加えて広い土地も持っている

 平穏そのものが周囲を取り囲んでいる


 だが、何もない


 「何もない」がここにある


 こんな環境に居るから何もない、何も思い浮かばない

 ここに居るから何もない、何も思い浮かばない

 思考の範囲が広がらない

 思考の視野が拡がらない


 凡人が必要なものを手に入れると、成長が止まってしまう

 自分の限界を知っているからこそ、成長が止まってしまう


 机も、こんな私に踏まれて鬱陶しいだろうと思う

 椅子も、こんな私を支えて面倒だろうと思う

 床も、こんな私が居て迷惑だろうと思う


 簡易的な謝罪だけ、心の中でしておこう



 ああ、やることがない

 手持ち無沙汰 無気力 暇


 欲しいものはすべてある

 なのに、この頭の中には何もない

 モヤモヤもない、晴れ渡っている思考



 自分の成長の幅を決めてしまえば、

 人間という生き物は成長を辞めるらしい

 あるいは、欲に飲まれていくのだろう


 幸い、私は前者だったらしい



 私は小さい掛け声とともに足を床につけた

 曲がっていた背筋を伸ばす



 ここには何もない

 だからこそ、何かを生み出さなければ始まらない

 面白い、楽しいことは生まれない


 ここはまだまっさらな土地、環境


 何もないなら無いなりに、

 体を使って何かを生み出すのも悪くはない


 少しの興味と時間があれば

 あとは勝手に始まる

 物語なんて、そんなものだろう――――――

人を変えることはできないけれど、誰かの心に刺さるように、私はこれからも続けていきます。いつかこの道で前に進めるように。(_ _)