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【芸術・後編】昭和の偉大な経営者はなぜ美術館を創ったのか?

”絵が描ける感動と脳の活性化による新たな知覚と気づきが得られる講座”ART&LOGIC”を主宰のアート・アンド・ロジック株式会社代表の増村岳史氏に前回、ゲストとして”ART & LOGICを知るための50の秘密”から「アートは感性と論理の両輪で成り立っている」を寄稿いただきましたが、今回は後編をお送りします。

前編を読んでない方は是非そちらから。
<前編>


出光、ブリジストン、サントリー、資生堂、日本を代表するこれらの企業にはある共通点がある。

それは美術館・ギャラリーを創業者が設立し今もってなおさまざまな展覧会を定期的に催していることだ。美術館を運営するのは多大なコストと労力を要し並大抵のことではない。美術館を運営するためには展示スペースはもちろんのこと、美術作品を収蔵するための収蔵庫が必要である。この収蔵庫も単なる倉庫だと美術作品が経年劣化し傷んでしまうので温度や湿度などの徹底した空調管理を施さなければならない。

また、美術館にはキューレーター(学芸員)をはじめとする常勤のスタッフも置かなければならないので、生半可な気持ちでは決して運営が出来ないのである。

なぜこのような労を惜しんでまで昭和の偉大な経営者たちは美術館を所有、運営するのであろうか、

それはアート(芸術)と経営が実は密接に関係しているからではなかろうか?

アートと経営の共通点

アートと事業経営はまったく相容れないものであると思いがちであるが実は多くの共通点がある。

その共通点とは、

(1)世の中にない全く新しい価値を生み出すこと。

画家は真っ白なキャンバスに常に絵筆で新たな自己表現をする。エポックメイキングな企業は今までにない新たな価値を創造する。それは何も描かれていないキャンバスに常にあらたな作品を創造する画家のスタンスととても似ている。

(2)調和とバランス

優れた芸術作品は絶妙な調和とバランスで構成されている。例えば印象派の巨匠セザンヌやモネの絵の多くは背景である自然と人物との織りなすハーモニーがたいへん素晴らしい。

これは事業経営においても経営者と従業員など周辺のリソースとの関係性にとてもよく似ている。

(3)時代を読み取る

優れたアーティスト(芸術家)は常に時代を読み取り作品に反映をさせている。現代アートの巨匠アンディーウォーホルは大量消費文化の象徴としてキャンベルのスープ缶やマリリンモンローなどの誰もが知っているモノやコトをモチーフに作品を制作した。つまり彼は世界一の消費国家、アメリカの空気を読み取りアートを大衆にデリバリーしたのである。

どんなに良いサービス、商品でもその置かれた時代の空気を読み取って時代に合うように昇華していかなければ人々の心は掴めまい。

また話は変わるが、世界で最も有名な経営学者、故ピータードラッカーは世界的に有名な水墨画、禅画のコレクターであり自身の山荘に作品を所蔵したことから「山荘コレクション」と呼ばれていた。

マネージメントの父、経営の神様と言われたドラッカーが日本画を好んでコレクションしていたことはとても興味深いエピソードである。

ノブレスオブリージュの精神


欧米のトップ企業の多くにおいてエグゼクティブに昇進すると必ず美術の勉強(鑑賞法や美術史)をしなければならいそうである。なぜならば、トップ間での商談の際のアイスブレイクでアートの話が高確率で出てくるそうなのだ。

教養としてのアートはエグゼクティブにとっては必須条件なのである。ちなみにアメリカのビジネス界では褒め言葉として「アート・オブ・ビジネス(まさに芸術的な類を見ない素晴らしいビジネス)、アート・オブ・ディーリング(見事なまでの素晴らしい芸術的な取引)」といった表現をする。つまりアートという概念が欧米では単なる芸術的な表現のみをあらわすもののみにとどまらず、広範囲にわたる活動そのものとして使われている。

またヨーロッパのハイブランドアパレルメーカー(ルイヴィトンやグッチ、ディーゼル等々)が各国に出店する際に旗艦店の最上階を入場無料の美術館にしなければ出店できないという条件がある。

さて、偉大な経営者達はなぜ、個々人が収集した美術コレクションを膨大な時間と経費を費やしてまで美術館を創設したのであろうか。

それはまさにノブレスオブリージュ、つまり地位の高い成功者の社会への施しに他ならない。

ブリジストンの創業者でありブリジストン美術館の初代館長の故石橋正二郎氏はこう語っている。

「好きな絵を選んで買うのが何よりも楽しみであるが、もとよりこのような名品は個人で秘蔵すべきでなく、美術館を設け、文化の向上に寄与することがかねての念願であった」

経営者自身が、あるときは勇気づけられ、またあるときは心のよりどころとなった美術作品を皆に見てもらい、豊かなひと時を過ごしてもらいたいというまさに真心の表れであろう。


増村 岳史(ますむら たけし)
学習院大学 経済学部卒業。
1989年にリクルート入社、マーケティングセクション、営業を経てエンタテイメント子会社メディアファクトリー(当時)に出向し映画、音楽、出版事業に携わる。その後音楽業界に転職した後、インデックス(当時)にて放送と通信のコンテンツビジネスに携わる。
2015年に東京藝大の博士課程在籍者およびOBの画家達と脳力開発プログラム、アート・アンド・ロジックを開発、完成させる。
2016年4月にアート・アンド・ロジック株式会社を設立、代表取締役に就任。


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