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『夜なべは十両の損』でも、わたしは夜が好き。

夜が好き。夜に満ち足りている空気は、普段は隠している想いを掬い取って何倍にも拡大させる。時にそれは、夏の甘い匂いのする夜かもしれないし、世界の終わりのような冬のひどく寒い日の夜かもしれない。どんな夜でも良い。夜は人を正直にさせる。


わたしはかなりの夜型で、正直仕事がない日には朝方寝て昼過ぎに起きることもしばしばある。平日は仕事があるのでなんとか起きてはいるものの、一般的な9時始業に比べればだいぶ遅い方だ。同じ会社の同僚や先輩が「うちもあと1時間始業早くして、就業も前倒しにしてくれたら」という話をしていたのを耳にして初めて、これは業界や職業は関係ないことに気がついた。


クリエイターやアーティストには夜型が多いと勝手に思い込んでいた。しかしそれは、わたしの周りのクリエイターやアーティストがたまたまそういうライフスタイルの人間だっただけで、朝型のバンドマンもいれば、小説家やライターでも朝の方が好きだという方もいる。家族が家に居る方はなおのことだろう。


「早起きは三文の徳」という言葉に対抗したくて、「早起きは三文の徳」の逆の言葉を知りたかった。夜更かしもいいものだ、という内容のことわざを調べていたのに、辿り着いたのは「夜なべは十両の損」という言葉。やるせない思いでそのページをそっと閉じた。


子どもの頃、「子どもは早く寝なさい」と言われるのは何故だろう。今振り返ってみると、わかる気がする。


夜は楽しい。夜はアブナイ。夜は昼の役がするりと抜け殻になって、魂だけになる。「先生」は「埼玉に住む独身の女性」に。「スタバの店員」は「A子の彼氏」に。「部長」はもしかしたら、夜だけ「新卒Cの恋人」かもしれない。裸の魂がフラフラしているとお互いを傷つけあうこともある。夜は怖い。夜は悦楽の極地。大人は隠す。それでも夜は透ける。子どもたちは聡い。だから知っている。夜がどれだけ心をつかみ、震わせるのかを。わたしだけの、貴方だけの、夜。


そんなわたしも、身体だけが大人になって、夜を閉じ込めた箱をお母さんが返してくれた。中身は子どものままのくせに、と言われてもこの箱は返さない。箱のふたは南から吹いた強い風に飛ばされて、電信柱の向こうへ消えていった。ぐるぐると渦巻くベタ塗りの黒が、空いっぱいに広がって、街には今日も、夜が訪れる。


わたしだけの。貴方だけの。






2021.04.19

すなくじら




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