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夢に出てくるあの子の行方は

ひさびさに萎びてしまっている。干からびるわけでも、体力が尽きて体調が悪いわけでもなく、精神の箱に滴るエネルギーのようなものが途切れて「萎びている」という表現がぴったりである。萎びている原因はおおよそ仕事、というかは会社で働くことについて何回目かすら分からない自問自答を繰り返しつかれてしまった。昼間なのに薄暗く、暖房をつけていても何処となく寒い自宅のベッドの上で文字を打っていると、ときどき自分が囚人にでもなったかのような気分になる。いや捕まったことはさすがにないけど。


どこまで行っても逃げられなくて、出られない。この家のドアを空けて電車に揺られて遠くに行っても、その先船に乗って日本を出たとしても。きっと私は逃れられない。何から逃げているのかは、自分にもわからない。


先日友人に、いつも夢に出てくる男の子の話をした。陳腐でありきたり、ひどくつまらぬ話であるが、小学校の初恋の男の子がこのところずっと夢に出てくる。小学校一年生から、中学の一年までクラスが同じで出席番号近く、春の季節はずっと私の後ろの席だったあの子。もちろん今でもあの頃の彼が好きだなんてさすがに20歳を超えてショタコンを拗らせているわけはなく、義務教育を終えて少し長く生きてみて、その子よりもずっと好きだった元恋人だっていた。それでもいつも出てくるのは決まって彼で、しかも毎回夢に出てくるたびに年齢も容姿も違う。あるときは、私が好きだったあの頃の彼の姿で微笑み、またある時は私の空想の産物である現在の彼の姿でこちらに手を伸ばす。夢の中では都合よく、彼は私を無条件に愛していて、目が覚めるとその愛が束の間の作り物であったことに胸がきゅっと切なくなる。そんなことをアルコールが作り出した軽やかな空気に乗せて話したら、「わたしもそうよ」って彼女があまりにも真面目な顔でいうものだから至極驚いた。何をしているかももうわからないあの子。いや、あの子たち。2人して自分だけじゃなかったんだな、きっと世の中の多くの人がそうなんじゃないかって興奮して、ゲラゲラ笑って、少し泣きたくなった。


二日酔いの頭でぼんやりと白く光る冷蔵庫を開けて何にもないなあ、冷たいなあなんて。あーわたしって冷蔵庫みたいだ、と多分去年の今頃もそんなことを考えていた。デジャビュ、というか人なんてきっとそんなもんで、本質はそんなに変われないものなのよね。大きな変化が怖いから、きっとわたしは永遠にこのまま。眠り姫のように目を閉じれば、思考の海に沈んで帰れなくなってしまうから、今日はまだこのままで。


2021.12.19
すなくじら

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