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物語紹介 #009 「ナルキッソス」

 結局ノベル調のゲームの話が多くなりそうだな、と思いながら、ナルキッソスの話をすることにする。

 物語の筋書きはわかりやすい。末期患者であると告げられてしまった主人公が、自分より病気が進んでいる少女「セツミ」のために、病院を抜け出して最期の逃避行を行う、それだけだ。

 以前にも述べたかもしれないが、やはり「死生」はもっとも重要な命題である。死を前に何をするか、それは永遠に解決することのない問いである。加えて、このテーマはとてもシンプルなものだ。この「シンプルさ」がナルキッソスの核であるともいえる。
 ライターである片岡ともさんは、ノベルゲームを追求していけば音楽とテキストだけで十分ではないか、という自論のもとに作品を制作した。この物語のような「『わたし』と『あなた』の死生」だけを考えるならば、話の精巧さや優れた演出などはむしろノイズになりうる。ナルキッソスはいわゆる「引き算の芸術」である。
 そして、こちらは意図したかどうかは不明だが、やはりこの作品が「無料」であるという点は重要だろう、と僕は思う。この作品は公式ページとsteam上で無料で公開されている。
 「死生」という全ての人が考えるべきテーマだからこそ、利益のためにつくられたものではない、誰にでも手に取れる形でリリースされた本作は輝いているのではないか、と僕は思う。

 ちなみに、本物のナルキッソスがNarcissusであるにもかかわらず、作品名がNarcissuと表記されている点についても言及しておきたい。作品名をつけるにあたって抜けたsは自殺の意である「suicide」をイメージしているようだ。これがどんな意味を持つのか、それを今一度考えるべきか。それが作品の言いたいことにきっと繋がってくる。






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