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災害時の支援拠点のマップ化など、デジタル後方支援における体制作りの難しさ

2021年10月の和歌山市北部の断水を受けて、行政と民間が提供する水にまつわる支援拠点情報を和歌山断水支援マップにボランティアとしてまとめたところ、10日間ほどで32,000回以上の参照がありました。

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断水の影響があったのが約13.8万人だったことを考えると、どこの誰かもわからない一般人の発信の地図にもかかわらず、支援拠点がマッピングされた地図には結構ニーズがあったと考えられます。

これは移住者など、土地勘のない人向けを想定して作ったのですが、事後アンケートによると移住者だけではなく「住んでる地域のすぐ周辺なら住所でわかるけど、少し離れた場所とか断水していないエリアの拠点については、住所だけで案内されてもピンと来ない。助かった!」などと、長年の住民にも活用いただけたようでした。

今回は筆者ひとりがボランティアで連日リサーチ・マッピングをしましたが、本業の繁忙期には時間を捻出できない可能性が高く、緊急時にこういった支援ができる人や体制を、“仕組み”として確保しておく必要があるのではないかと感じています。

しかし、いつ起こるかわからない「有事の際の後方(広報)支援の体制づくり」って難しいかも…とも感じています。その難しさについてまとめてみたいと思います。

行政で体制をつくれるか?①緊急時は支援拠点の増減・変更がある。キャッチアップして素早く・わかりやすく告知する体制に懸念

応急給水車が手配できてはじめて「応急給水所」として案内できる
有事の際に各地域で使える水道・水源がない場合、自衛隊や各地の応急給水車が、知事などの要請を受けて応急給水所へ緊急出動することになります。(ありがたや)

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でもあらかじめ防災計画などで定められている応急給水所は、「有事の際に応急給水所の拠点とする予定の場所」に過ぎないため、応急給水車の調整がつかない限りは給水所として住民に案内ができません。

マンホールトイレや仮設トイレも同様
また、飲料水と同じくらい、マンホールトイレや仮設トイレもすぐに必要になります。
マンホールトイレについてはこちらの記事で触れました

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これも、資材の確保や設置の人員手配がでたところからでないと案内ができないと思われます。

和歌山のケースでも、下記のような情報が順次発表されていきました。

①応急給水所(小学校)…断水2日目の朝
②マンホールトイレ  …断水2日目の昼過ぎ
③断水エリア外の給水スポット…断水2日目の夕方
④災害時協力井戸 …断水2日目の夕方
⑤追加の応急給水所(中学校)…断水3日目の15時過ぎ
⑥簡易トイレ…断水3日目の夕方
⑦生活用水用井戸…断水3日目の夜
⑧近隣市のシャワー無償提供店舗…断水4日目の朝
⑨近隣市の温泉無料開放…断水4日目の昼過ぎ
…etc

行政は災害に備えて「災害支援拠点予定地の住所一覧」なり「地図」を用意しているかもしれませんが、それらは「支援拠点“予定”場所」に過ぎないため、不測の大災害が起こった直後には、「今まさに水が必要」「わりと便意を催しております」というユーザーが迅速・確実に利用できるかというと、準備が間に合ってない可能性があります。

「支援拠点がどこかわからん!」「行ったのに使えなかった!」という住民の混乱・クレームを避けるには、災害や事故の発生を起点に、常に変動する状況にあわせて、“いま支援可能な拠点”を(可能な限りそれを地図で)案内する必要があると思います。

正確な情報収集をしたうえで、住民にわかりやすく(できれば地図で)案内できる人員を、行政で常に確保できたらよいのですが…Iそういう体制にあるかは、それぞれお住いの自治体に確認し、必要に応じて要望(提言?)が必要そうです。

※こういう情報収集・提供の準備・訓練は、本来的には危機管理室とか防災課みたいなところでやってるのかもしれません。今回の和歌山の断水は原因が災害ではないタイミングでの「水道橋の崩落」だったので、災害扱いされず情報提供が五月雨・地図なしになった可能性もあります。

行政で体制をつくれるか?②民間の好意による支援拠点は公式発表しづらそう

行政は必死に支援拠点に支援が行き届くよう全力で情報収集・調整をしていますが、すぐさま必要な人すべてに十分行き渡らせることは難しいです。
今回も、13.8万人に対して、応急給水所(第一弾)の拠点は22か所。
ひとつの拠点に6,272人が押し寄せる計算です。

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当然22か所では足りなかったので、民間の店舗などによるボランティアの支援にも頼らざるを得ませんでした。しかし、民間の個人経営の店などがSNSにアップした支援情報がいくら役に立つとしても、「行政として民間の支援の申し出を承り、民間側も提供することを公式に約束した」わけではない以上、行政は支援場所として紹介できないでしょう。

つまり、行政側で「支援情報を迅速にマッピングできる人材」を確保したとしても、民間が好意で始めた情報については、行政提供の情報として紹介することが難しいと考えられます。

*あらかじめ協定を結んでおくのはどうか?
「あらかじめ支援してくれるお店や拠点を募っておいて、公的に契約などを交わしておけば公式情報として行政から提供可能になる」かもしれません。

(そのひとつの例が「災害時協力井戸」です。でもこれはほとんどが飲用に耐えない水ですし、大地震では井戸が枯れる恐れもあり「実際に有事の際に水が使える状態か」の確認が終ってからになるでしょう。
そのため、災害や事故の規模によっては、あらかじめ募っておいた拠点を行政が保証できる場所として、準備してても確認なしではそのままサクッと見せることはできないと考えられます)

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ある程度の備えはできるが、実際コトが起こった時に、充分か・使えるかは、順次状況を確認してからとなり、結局五月雨になってしまうことが考えられます。

民間が仕事として有事の支援体制をつくれるか?→予算なしでは約束できなさそう?


「行政の中でやれる人がいないなら、個人事業主や企業が仕事として請け負うのは?」と考えてみました。行政からの委託事業であれば、行政の提供する支援拠点についてはすみやかに掲載できそうです。

株式会社ウフルさんが「給水ポータル」を開発
実際、和歌山断水のときも10月7日に「給水ポータル」という仕組みがリリースしました。これは株式会社ウフルさんという企業が急遽和歌山市のために用意した、応急給水所の給水状況をリアルタイムで確認できるツールです。すごい!(現在は役目を終えて、非表示になっています)

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Ⓒ株式会社ウフルのプレスリリースー応急給水所の位置・給水車の残りの水量・次回給水車の来る予定がすぐ確認できる。

こういった会社にあらかじめコンタクトを取っておき、平時から有事の際のシミュ―レーションをしておくとよりスムーズに住民に案内が可能だと思います。

サイボウズ株式会社の「災害支援チーム」
サイボウズ株式会社の有志の方々が災害支援チームを組んで、スキルやシステムのボランティアをしてくれているそうです。今回の和歌山のような断水は「災害」ではないため、対象外かもしれませんがツールもスキルも経験もある人たちということで、有事に備えて絶対参考になりそうなので平時から繋がりを持っていたい…。
https://saigai.cybozu.co.jp/
https://cybozu.co.jp/efforts/disaster-support/
支援事例を共有するイベントもされているようなので、要チェックです。
(行政や企業が業務効率を上げるツールを導入する際、こういう姿勢・体制のある会社かどうかで加点があるとwin-winですね…!)

懸念①その会社がいつもすぐ対応できるかわからない
ただし懸念もあります。「何かあったときは365日24時間対応してね」という契約は、会社側が常に動ける人を確保しなければならないため、通常とっても高額になります。かといって「できそうだったら対応してね」というゆるやかな約束だと、有事の際に他の仕事や体調や家庭の事情などの理由で受けられないということもあります。(信頼できる企業であればあるほど、普段から他の仕事が忙しくて、急な仕事を受けられない可能性が高いでしょう)

懸念②行政提供のツールとしてだと、やっぱり民間の情報は出せない
そして、もう一つの懸念としては、やっぱり「行政で体制をつくれるか?②」の問題が残るということです。行政の支援拠点だけで足りない時に、民間の情報は行政発信の情報として出しづらいと思います。

そうするとやっぱり、民間ボランティアの力も必要になってくるのかなと思うのですが、それもまた難しい問題があります。

民間ボランティアで対応できるか?①時間を確保できる人がそもそも少ない可能性

「Googleマイマップを作る」という作業自体はそんなに難しいことではないので、普段からGoogleのサービスを使い慣れてるような人であればスキル的には問題なく従事できると思います。
問題は「ボランティアにかかる時間」です。

今回の水道橋の崩落が10月3日の夕方に発生し、わたしが支援マップのニーズを感じ、やってみようと思い立ったのは10月4日の夜でした。
そのときは「どれくらい大変かわからないけど、やってみよう!」と思い切って始めたのですが、一息ついた今、作業量を知ってしまったうえで、もう一度同様の作業をボランティアでしてくださいと言われたら、かなり躊躇します。
10月4日から10日の間で、コミットした時間を計測してみたところ、40時間以上になっており、その間は本業や家事・睡眠の時間を圧迫していたからです。限られたエリアの1週間ほどの断水でこれなので、もっと広範囲とか、復旧に時間がかかるとか、水道以外のインフラも影響がある、となると、もっと時間がかかると思います。
(何がそんなに大変なのかはこちらの記事にまとめています)

・いつ起こるかわからない
・常に更新が必要(不定期更新)
・ギリギリの状態の人に正しい情報を伝えるプレッシャー
・いつ終わるかわからない

というボランティアですから、イメージできる人であればあるほどそのたいへんさに躊躇するでしょう。

地域貢献に興味がありつつ、長時間×複数日数かけてデジタル支援ができそうな経験者、という人材の母体となる数が、そもそも少ないのでは…と思います。
(こういう人が地域に複数いて、普段から仕事したり一緒にボランティアして信頼関係を築いておけるとすごくいいですね~…)

民間ボランティアで対応できるか?②コーディネーター不在による混乱

ボランティア的にやるしかない事柄は、もうボランティアに任せればいいやん…ということかもしれません。でも、前述のように手を挙げるデジタルボランティアの母体数が少ないですし、母体数が少ないゆえに、デジタルボランティア希望者を受け入れ、コーディネートする仲介役もほとんどないようです。

デジタル支援が、別々に発生してしまうと…
するとどうなるかというと、たまたま複数の人が同じくらいのタイミングで「デジタル支援しよう」と思ったときに、同時多発的になる可能性があり、別々の支援マップをそれぞれで作り始めることになります。

支援拠点の井戸経度を調べ、マイマップにピンを立てていく・・という作業は、元情報が同じならほぼ同じ作業です。
同じ作業を別々にするくらいなら協力体制を組んだ方が効率的・ミスも少ないのですが「会ったこともない、どこの誰ともわからない人と、自分が調べてデジタル化したデータを共有してコラボしていく」ということの心理的ハードルは相当高いように思います。

「誰かに届けばいいんだから、別に同時多発的でもいいじゃん」と考えるかもしれませんが、複数人が別々に同じ作業をしていると何が起こるかというと、大変であればあるほど「同じことやってくれてる人が別にいるなら、自分はやらなくってもいっか…」とマップの更新を控えたくなってしまう恐れがあるのです。

かといって、「自分のマップは更新を終えるけど、別の人のこのマップがあるよ」と紹介できるほどの信頼関係もないため、とくに引継ぎもされない恐れがあります。そんなこんなで、使っていた支援マップが途中で更新されなくなると、使っていた人は途方にくれることになってしまいます。

デジタル支援のコーディネーターの必要性
現地に実際に行く(水を運んだり、必要物資を調達したりなど)ボランティアは、有事を受けて立ち上がるボランティアセンター(社会福祉協議会や地域活動支援団体などが母体)がボランティアしたい人としてほしい人をつなげてくれることが多いようです。

しかし、現場が対面支援でこれ以上なく緊迫しているであろう状況のなかで、「災害時のデジタル後方(広報)支援」をコーディネートしてくれる団体は、少なくとも和歌山やその周辺には見当たらなさそうで、今後仲間を見つけて体制を作っていく必要がありそうです。(お心当たりがある方はぜひ教えてください~)

コーディネート団体があったとしても、自発的なボランティア志望者が、そのコーディネート団体に辿り着かない場合にはやはりある程度「同時多発的」になってしまう恐れがあるので、普段の広報も必要です。
有事の際の突発対応は難しいと思いますが、平時の準備として、どなたかがやるなら、お手伝いしたいなーと思います。

情報・体験談・アイデアを持ち寄る場を

「災害とか事故ってどうしようもないんだから、支援される側がちょっとの期間くらい我慢したらええやん」「断水終わるまで、別の地域のホテルとか友達の家で泊まったらええやん」というストイックな考えもあるかと思います。
でも…我慢を強いられる時に、自分が元気で余裕があるとは限りません。
行政はもちろん必死で頑張ってくれていますが、それでも例えば…

・朝早く・夜遅くまで働いてて、仕事前や仕事の後では行政の用意した給水拠点が開いてない…
・水をもらうのに何時間も並ばなければならず、ギリギリの生活なのに仕事を休まないといけない…
・産後の体が思うように動かず、自分でなんとか汲んできた水だけでは赤ちゃんの体を綺麗にしてあげられない…
・介護の必要な親を入浴させてあげたいけれど、水が出ない…

こんな「しんどい人」もいたんです。

これらのニーズは、「民間の支援拠点」の方々が「うちで引き受けるよ」と手を挙げて、受け入れてくださっていたんです。行政は仲介できないけれど、支援が必要な人たちと、支援できる人を繋ぐ必要って、あると思います。
元気で暮らしに問題ない人も、しんどい人の気持ちを想像して、改善できるのが人間のいいところだと思うのです。

「あの世代が頑張ってくれたから、子どもや孫の代の私たちはほんとうに助かるね。私たちも恩送りしたいね」っていう社会がよいではないですか…。

今の便利な世の中も、ご先祖さんの苦難の開発のうえに成り立っていると考えると、あきらめず試行錯誤していきたいと思う次第です。
「こんな活動してる人いるよ」「こんな事例があったよ」「こういうサービスがあるよ」など、ご意見いただけると嬉しいです。

*自分自身には人脈も災害支援の実績・信頼もないので、地域活動や災害支援に詳しい人たち×デジタル人材が情報交換する場所があったらな~と思います。お心当たりのある方、教えてください!


※参考①:広報用ではないが有事の際に素早く情報し、判断を早めるサービス「デジタルレジリエンスサービス」を富士通が展開しているみたい
広報用ではないですが、行政内で素早く情報収集・分析する人材の確保が難しいのであれば、外注するという手もあると思います。
少し調べてみたのですが富士通さんが災害時の判断を迅速にするための情報収集・可視化をする「デジタルレジリエンスサービス」なるものを発売しているようです。

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Ⓒ富士通

危機管理室での判断のためのマッピングサービスであり、支援側の情報をピックアップして市民向けに公開するマップではなさそうなのですが、そもそも支援が行き渡るなら問題はないわけで、予算が許すのであれば、こういうサービスの導入を検討してもよいかもしれません。

※自治体向けライセンス価格は人口規模によって異なるそうですが、(①ライセンス400万円~とのことです)

※参考②:東日本大震災で採用されたシステム「eコミ」

これも「広報」というよりは、要支援者や支援情報を一元管理し、スムーズな支援を進めるためのツールですが、防災科学技術研究所というところが、ポータルサイト機能とマッピング機能を併せ持った「eコミュニティ・プラットフォーム(eコミ)」の推進を進めているようです。
これは東日本大震災の時に宮城県の災害ボランティアセンターで採用されたそう。大阪府も社会福祉協議会が支援が必要な人の情報・支援情報のマップ化を平時から進め、有事に備えているようです。これが地域住民ひとりひとりに浸透したらとっても素晴らしそう。
http://www.osakafusyakyo.or.jp/chiiki-g/pdf/h30_001.pdf

情報提供、アイデア、体験談など、ぜひ教えてください☺


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