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あなたとわたしの日々、

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誰かと誰かの大切な日々を。紡いでいます。登場人物たちのモデルは皆、私の大切な人たちです。それぞれが紡ぐ日々に触れていただけたら嬉しいです。
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記事一覧

あいをこめて、

あいをこめて、

 遥か彼方、天使たちの内緒話。
 「こないだ、神さまがね…」
 「ぼく、おはなをかいたんだよ!」
 「…ぼくも!ぼくも、とどけたい!」

 柔らかい風が背中に触れて、ふと空を見上げた。そのとき、ぐーっと私のお腹を押す、君の元気な印。愛おしさいっぱいでお腹に手をやると、「あっ、たんぽぽ」。下を向くことは悲観的なイメージがあったけれど。君と一緒に下を向いたときはいつだって、つま先で春の訪れを感じたり、

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ぼくらがとどけるよ

ぼくらがとどけるよ

 なんとなく寄った本屋さんで、なんとなく見つめた棚の隅っこ。一冊だけ妙に古びた藍色の背表紙。なんだか懐かしくて。記憶を探ってみるけど何とも結びつかなくて困った。でも、絶対に買わなきゃって想いだけはあって。愛しさで溢れた想いと一緒に、静かに手を伸ばしてみた。

 帰り道、待ちきれず。たんぽぽ揺れる公園のベンチ。テイクアウトしたカフェインレスのコーヒーとそっと撫でる背表紙。
 その本は、絵本のようで。

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午後8時のオーブンのなか、

午後8時のオーブンのなか、

 「クッキーを焼こう」
 ふと思い立ったのは、午後8時。
 トコトコと台所に向かい、手をきちんと洗う。洗いたてのふんわりとしたタオルで手を拭いて、小さく「よし」と呟く。

 薄力粉が120g欲しい。シンク下の棚をごそごそと漁る。これでもない、あれでもないと、しなくてはいけないのは、恋人が色んな小麦粉をコレクションしているからだ。恋人は、ラーメンやパスタを麺から作る。加水率が何%だの、ひとりで楽しそ

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時を編む、

時を編む、

 「おじゃまします」
 「すう、いらっしゃい〜」
 今日は、編み物をするために紬さんのお家に。
 「どうする?何を編む?」
 そう尋ねられ、
 「まんまるのコースターがいいです」
 と答えることができ安堵。
 私はよく声が詰まる。初めて、二度目まして問わず、緊張を感じると苦しくなる。でも、紬さんと話すときは不思議と大丈夫。喉が渇いて苦しくなることもないし、自分の声がちゃんと届いてる感じがする。きっ

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ちょっとだけご褒美

ちょっとだけご褒美

 ピンポーン。
 無機質な音が来客を告げて、涙目で覗いたドアアイ。小さな窓の外、抱き締めてほしい黒髪が揺れた。

 開いたドアからひょこっと顔を出して、私を見つめて。
 「百合、焼きそば食べよ」
 ニカっと笑う彼ー健斗ーを見て、涙がボロボロと溢れる。「大丈夫、大丈夫」って私の頭を撫でる健斗。ゆっくりと安堵が胸の奥底に着地して、やっと言えた。
 「なんで…焼きそば?」

 キッチンに立って、健斗は焼

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落花生を茹でながら、

落花生を茹でながら、

 あのね、今日あなたがいない間に落花生を茹でたの。隣のおばさんがね、落花生が採れたからってボウルいっぱいにくれたの。最初ね、小さいザルを持っていったら「そんな小さいのじゃ入らないよ、もっと大きいのにしておいで」って笑われちゃった。だから今度はさっきよりも大きめなボウルを用意してね。そしたら、おばさんが「山盛りにしちゃうね」っていっぱいくれてね!ボウルから落ちちゃうくらいだったのよ。
 茹でて食べる

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金木犀の花言葉

金木犀の花言葉

 金木犀の匂いをすーっと抱き締めたとき、小学校の校庭がぼんやりと。思えば、学校は大嫌いで、教師なんかもっと大嫌いで。なのに私は学校の先生になった。きっかけになった先生の背中を思い出して、くすり。理科室に吹き抜ける朝の風とニカッとする先生を思い出す。そういえば、あの人も理科の先生だ…先生との共通点を見つけて金木犀がまたゆらり。

 金木犀の匂いを身体いっぱいに取り込んだ私は、ぼーっと空を眺める。南の

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