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《音楽×絵画》オトナのディズニー シンデレラ編

ディズニープリンセスの王道中の王道といえばシンデレラ。「灰かぶり姫」の名をもつ主人公シンデレラは、継母と姉妹にこき使われいじめられる毎日を過ごしていました。そんな哀れなシンデレラのもとに魔法使いや動物たちが現れ、不思議な魔法で美しいお姫様に変身させてしまいます。でもその魔法は夜中に解けてしまう…。王子との恋、ガラスの靴、カボチャの馬車など、ディズニー映画『シンデレラ』には女の子がときめく要素が盛りだくさんです。

そんなシンデレラはグリム童話を原作としていますが、その魅力的なお話は多数の画家や音楽家によって描かれてきた題材でもあります。彼らは「シンデレラ」のお話の中でどんな場面を切り取り、着目して描いたのでしょうか?

まずは音楽。
クラシック音楽でシンデレラを題材にした作品はいくつか存在するのですが、今回は2つの対照的な音楽をご紹介します。
では一つ目はオペラとして書かれた音楽作品『サンドリヨン』です。『サンドリヨン』はシンデレラのフランス語読みで、作曲家マスネによって1895年に発表されました。
ロマンチックで情景が浮かぶような、繊細で情緒的な音使いにより、童話の域を超えたオペラとして今も人気の作品です。
こちらは魔法使いによってシンデレラが変身し、舞踏会にでかける第一幕の最後の場面です。

「夜中には魔法がとけてしまう」と忠告する魔法使いと、ドレスや馬車に喜ぶシンデレラ。愛らしいリズムとメロディが、初めて舞踏会に出かける心躍る気持ちを表現しています。

次の音楽は、マスネよりも近代寄りの作曲家プロコフィエフによるシンデレラです。こちらはオペラではなくバレエのために作曲されています。バレエ音楽『ロミオとジュリエット』が成功したのち、プロコフィエフは『シンデレラ』の作曲に取り組みました。
シンデレラが舞踏会で王子とワルツを踊り、12時の鐘が鳴ってしまい急いで帰る場面の音楽をお聴きください。

いかがでしょうか。マスネのオペラとは打って変わって、いかにもプロコフィエフらしい音使いです。現代的で少しワイルドともいえる音世界を得意とするプロコフィエフ。ワルツのリズムに乗って、メインのメロディが形を変えてあらわれます。オーケストラの豊かな音色がとても色鮮やかです。動画2:45のあたりで時計の音が鳴り響きます。12時の鐘とともに、焦って帰ろうとするシンデレラの心情が音になっています。
バレエ音楽『シンデレラ』は音楽そのものの完成度の高さから、オーケストラ用の組曲として編曲されたものも大変人気です。

王道のロマンチックなオペラと、現代的な響きのバレエをふたつ聴いていただきました。

一方絵画では「シンデレラ」はどのように描かれたのでしょうか。

4枚の絵をご紹介します。

1枚目はラファエル前派の画家バーン=ジョーンズによる『シンデレラ』。

バーン=ジョーンズ シンデレラ

日々の雑用に疲れているのか、憂鬱な表情でこちらを見つめています。服はボロボロで、靴は片方しかありません。

2枚目はバーン=ジョーンズのものより十数年あとに描かれたものです。『オフィーリア』で有名な画家ミレイの作品です。

ミレイ シンデレラ

こちらのシンデレラもあまりサエない様子。掃除の休憩でしょうか、ほうきを持って背中を曲げて座っています。特徴的なのは片方の手にもったクジャクの羽根飾りと、赤い小さな帽子。いつか華やかなドレスを着て出かける日を夢みているかのようです。

3枚目はミレイの少しあと、イギリスの画家ヴァレンタイン・キャメロン・プリンセプが描いたシンデレラ。

ヴァレンティン=キャメロン・プリンセプ シンデレラ

ここでも裸足のシンデレラ。押しつけられた家事からしばし逃れているのでしょうか。注目なのは左側に置かれたカボチャ。もちろんその後魔法使いがあらわれて馬車にしてしまう、あのカボチャに違いありません。

最後はアメリカの女流画家エレノア・アボットの作品です。

エレノア・アボット シンデレラ

これは私たちの知っている「シンデレラ」に近いでしょうか?というのも淡いブルーと白がディズニー版シンデレラのテーマカラーだからでしょう。
鳥たちとおしゃべりをしている場面、もしくは動物たちが変身の手伝いをしている場面かもしれません。ここでも彼女はまだ魔法による変身前の姿です。

年代順に4枚のシンデレラを並べてみましたが、何か共通するものが見えたでしょうか?
実はどの絵画も、魔法をかけてもらう「前」の姿、すなわち「灰かぶり」の名の通り、貧しく働かされてばかりのシンデレラを描いているのです。ディズニー映画版では魔法によって美しく変身したあと、ガラスの靴をめぐってお話が進みますが、絵画ではどの画家もそういった場面を描いていないのです。画家にとっては貧しい環境の中で夢を見る少女、としての姿のほうが、魅力的なモチーフだったのだろうと考えられます。
とはいっても、孔雀の羽根やカボチャがひっそり描かれていることで、シンデレラの外の世界や舞踏会へのあこがれが散りばめられているのです。

一風変わったオトナのシンデレラをご紹介しました。ディズニーが映画を作るにあたって、過去の様々な絵画や音楽作品を参考にしたことは言うまでもありません。それらを知った上で映画を見てみると、また違った発見があるかもしれません。
いろんな「シンデレラ」を楽しんでください。

角田知香


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