【4】苦労は買ってでもしなさい
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医師の言葉に、息が詰まる。
「お父様の性格はよく聞いていますし、大丈夫ですよ」
正直とんでもない、と思った。
でももしかしたら?医者が話せば聞いてくれるかもしれない。
理解はしてもらえなくても、事実として認知くらいはして貰えるかもしれない。
不安は拭えなかったが、医師の言葉に押され僅かな期待を胸に次回の受診予約を済ませた。
「あのね、病院の先生が今度の受診の時はお父さんも一緒にって」
その時、父が何と言ったのかは覚えていない。
多分「そうか」とか「ふうん」とか、そんな感じ。
良くも悪くも反応は薄く、その為反対はされなかった。
「何故だ」と聞かれたらどうしよう、と頭がいっぱいだった私は拍子抜け。
ぽかんとしたまま受診日を伝える。
それから前日まで一切病院の話はしなかった。
受診日当日。
この日この時まで何も聞いてこない父に少し気味が悪かった。
黙って身支度を済ませ、黙ってタクシーに乗り、黙って病院についてきた。
“精神科 心療内科”と書かれた表の看板を過ぎ、院内に入る。
受付を済ませ、待合室に入ると医師の診察を待つ死んだような眼をした明らか心を病む患者の姿。
ここが外科や内科でないのだと、全身に伝わる瞬間。父が何か言葉を発するのが怖くて、ホコリひとつない床の隅をひたすらにじっと見つめていた。
担当医師の細い声でアナウンスがかかる。
「○○さん、診察室へお入りください」
診察室に入ると、父が座れるよう余計に椅子が準備されていて、医師の机には私のカルテとファイリングされた何かの資料、私のカウンセリングで走り書いた医師の記録が並んでいた。
医師が話し始める。
父は黙って聞いていた。相槌を打たないのは元々だ。
私は斜め後ろあたりに座る父の気配とその場の空気に居心地の悪さを感じながらじっとしていた。医師の話した内容は覚えていないが長い時間話していたと思う。
話の終わりを待たず、父が咳払いをする。
父が咳払いをする時は話し始める合図だ。私の肩に力が入る。
「そんな事になっているとは初めて聞きましたね。いや実はね、これ(私)の母親が精神病で頭のおかしくなりまして。遺伝かなとは思いますね。」
「私はそういった精神病はよく分かりませんけれどもね、治療なり薬なりなんとかしてやって下さい」
私は、父に理解は無理だと悟った。
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