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【2】苦労は買ってでもしなさい

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私の母は自殺した。精神疾患だった。
閉鎖病棟に閉じ込められ、面会に来た父に「此処から出して、(此処にいると)おかしくなる」と泣いて縋る母を可哀想に思った父。
退院の手続きを取って数日、母は行方不明になった。

戦後を踠き畜生根性で生き抜いてきた父には精神疾患の理解は到底困難で、甘えだ怠けだと頑なだ。それは現在も変わらない。
きっと母もそんな父に泣いた事だろう。

警察への捜索願い提出から数日が経った頃、
数枚の手書きの遺書と共に山中で遺体が発見された。
服毒自殺だった。

キャンパスノートを破った紙にそれぞれ宛名があり、短く書かれたものもあれば数枚に渡って書かれたものもあった。
当時2才の私宛の遺書は全て平仮名で大きな文字、分かりやすい言葉で、短くまとまっていた。

〇〇ちゃん
よわいおかあさんで ごめんね
おおきくなったら すこしでいい
おかあさんのこと わかってね

確か、もう2行程あったが忘れてしまった。
あまり見たくないから実家にしまい込んでいる。

とにかく父は、自分が経験のないことに理解を示せないタイプだ。そして自己評価が高い為か自分の妻や娘も立派であると信じてやまない。

父宛の遺書には「ごめんなさい」が何度も綴られていた。「足手纏いでごめんなさい」「役に立てなくてごめんなさい」「私の所為でごめんなさい」…

「お父さん、もう文字が見えない」と書いた最後一文は毒に侵され手が震え、ぼやけた視界で必死に助けて欲しかった叫びが痛いほど伝わる。
母の自殺は勿論父の所為ではない。だが理解者に恵まれず苦しんだ事もまた事実だろう。

精神を病み、自ら命を経った妻。そしてその娘まで精神を患ったなど絶対に認めない。
自分の妻が、血を分けた娘が、そんな貧弱な訳がない。甘えているだけだ。努力が足りないのだ。

父の反応など手に取るように良くわかっていた。




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