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スコウスの!オリジナル超長編連載小説『THE・新聞配達員』

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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#スコウス

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その2

2. 時給7カナダドル 何もしていないわけではない。 『なにをしてるの?』と訊かれたら みんなのそれはきっと【職業】のことだろう。 『くそったれのあなたの、くそったれた仕事は、いったいどんなくそ?』 これを略して 『なにをしてるの?』だ。 みんな略すのが好きなのだ。 だからこう答えるしかない。 『全く何もしてません』と。 属性がないという属性の人生。 でも友人たちに 『今日は何をしていたの?』と訊かれたら 何もしていない時間なんて全く無いはずである。 屁理屈でもなん

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その3

3. 名曲の作り方 カナダ行きは一年後に先送りになってしまった。 『一年後でもいいからカナダに来たいという気持ちがあるのなら いつでも連絡してくださいね。』と言われて。 呆然となる私。 一緒に行こうと言ってくれていた友人常盤木氏は 普通に大学と彼女の部屋に通う毎日に戻った。 いや失礼。 まだ行ってもいないのだから 戻ったのでもなかった。 私はと言えば、その友人の大学にコッソリと入り込んで 大学生のフリをして図書館で本を読んだり 食堂でご飯を食べたり飲んだりして過ご

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その4

4. 氷のような冷たさと太陽のような温かさ 縦5cm横8cmの紙の雑誌の広告の、 そのインクの文字がきっかけで ミュージシャンを目指して上京することになった私。 真田直樹20歳の春。 深夜の夜行バスで大阪から新宿にご到着。 朝の6時。 歯が磨きたい気分のまま眠気まなこでバスを降りた。 雨だった。 傘がない。 東京は見た感じは大阪と同じ。 でも人の態度がまるで違うと聞く。 そんなのはただの噂だろう。 私は傘が欲しくてコンビニに入った。 私は傘をコンビニで買うのは

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その6

6. 相棒はゴム さっそく仕事を伝授し始めようとする細野先輩。 木の作業台の上やら下やらをキョロキョロと何かを 探している模様。 作業台の位置は、ちょうど洗濯機の横。 「ここが6区の人の作業場所。この机1列で3人が作業するから ちょうど新聞3枚分が1人分の作業スペース。やたら狭いから工夫しないと すぐ散らかるから気をつけて。まぁ実際にやる時にやり方は見せるよ。あれー?無いなぁ。」 何かを探しながら、とりあえず教え始めてくれた。 先輩は下を向きながら話していたので、

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その7

7. 今日と明日の境目 いきなり始まった先輩とのコラボ。 もちろん奏でたのは『折込チラシ』。 ギターはまだまだ先になりそうだ。 180部の折込チラシをわずか10分間もかからずに 綺麗に整えて作業台にセット完了。 これでいつ明日の朝刊が来ても大丈夫だ。 先輩は汗ひとつかく事なく、 まるで何もしてなかったかのように 爽やかにクールに私に聞いてきた。 「これで明日の準備は終わりだけど。ご飯食べた?」 「あ、はい、食べました。」 「そう。ご飯食べてチラシの準備が出来た

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その8

8. 隣人と隣人の隣人 駐車場に車を取りに行っていた篠ピー先輩が戻って来た。 細野先輩は体が細いくせに早食いだった。 「運ぶ布団ってどこ?」 「洗剤置き場の横。」 「これかー。デカイなー。高いやつだぞ、これ。」 「確かに。デカイけど軽いね。」 私はただ見届けることしか出来ずに 事が進んでいくのを見ている。 「あ、ちょっと待って!私も行く!乗せて!」 優子さんもついて来てくれるみたいだ。 布団を車の後ろに積んで 白い軽のバンで4人、お寺(私の部屋)に向かう

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その9

9. 閻魔大王 銭湯に急いだ。 場所は昼間に下見済みだ。 小さいタオルと石鹸をビニール袋に入れて 向かった。 昼間しまっていたシャッターが開いていた。 中に入ると男湯と女湯が入り口で分かれていた。 右は青い暖簾の男湯 左は赤い暖簾の女湯。 赤い暖簾を一度でいいからくぐりたい。 それは私にとっては天国への暖簾だ。 私は下駄箱に靴を入れて男湯と書いた 青い地獄への暖簾をくぐって扉の中に入った。 入ると直ぐ頭上に白髪のじい様が かなり高い位置で椅子に座っている。

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その10

10. はじまりはいつも雨 何かを新しく始める時。 私のそれは雨の日。 はじまりはいつも雨。 ただの雨男である。 雨の日に合わせて新しいことを始めるのでは無い。 新しいことを始めたその日に、何故か雨が降る。 人はそれを雨男と呼ぶらしい。 銭湯から部屋に戻り、 今日を振り返ることもなく かばんの中身を空けることも億劫になり、 350mlの缶ビールを2本飲みながら 風呂上がりに飲んだ牛乳ごときに ビール様が負けたような気がしていた。 もう11時半だ。 何時からだっけ

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その11

11. 「ごはんの呪文」〜美味しいご飯が待っている〜 雨の中、 初日の新聞配達へと自転車で飛び出した。 先輩は体が細いのに仕事が早い。 ついていくのに必死な私。 右手と右足が同時に出る。 豪華な新品のレインコートを着ているから 余計に体がギクシャクする。 どしゃ降りの雨の中、 細野先輩はレインコートを着ていない。 白いTシャツとジーンズだ。 爽やかすぎてまるで雨など 降っていないかのようだ。 濡れた髪の奥から私に向かって言う。 「ここが1件目。このスタート地点

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その12

12. 私にだけうるさくない重低音 朝刊の配達が終わった。 朝の6時。 優子さんが作ってくれたご飯を みんな食べている。 優子さんのご飯は新聞配達がある時にしかない。 朝刊を配れば朝食があり、 夕刊を配れば夕食がある。 昼食はもちろん無く、昼刊も存在しない。 日曜日は夕刊がないので、ご飯も無く、 さらに月に一回だけある【朝刊の休刊日】にも ご飯は無い。 つまり【新聞】と【ご飯】はセットなのだ。 新聞の来ない時が唯一 優子さんが休める時間だ。 ご飯がないのは寂しい

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その13

13. ロックだましぃ〜 一週間が過ぎた。 もう先輩は側にいない。 私はひとり立ちした。 隣人の坂井みたいに青白い顔になることもなく 両手で両膝を掴んで倒れないように 上半身を支えるようなポーズをひたすらすることも しなくて済んだ。 そしてビールを飲む量が増えた。運動しているからだろうか。 元の自分の調子に戻ってきたようだった。 絶好調である。 向いてるのかも知れない。 いや、向いている。 完全にこの【新聞配達員】という仕事は。 私は一人で暗い夜道を相手に仕事を

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その14

14. みんなの出身地 夕刊の時間に珍しく所長がお店にいた。 「今週の土曜日に新人のみんなに説明会を開くから 昼の13時にお店に来るように。」と言う。 そしてその土曜日。 今年の新人7名が 昼下がりの電気の消えた薄暗いお店に集まった。 男子が4名。女子が3名。 所長が姿を現した。 ちゃんとしたシャツとベストを来ている。 「みんな集まったか。では中に入って。 えー、今日は玄関から入ろうか。」 そう言うと、普段はお店の中から入るのに その扉は閉めて、みんなで自転車

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その15

15. 何もない部屋 仕事が終わり、 自分の部屋に戻った。 まだ何もない畳の四畳半の部屋。 来た時に持ってきたカバンとギターと 大阪から宅急便で送った布団が敷いてあるだけ。 壁にはお店からもらったレインコートを掛けてある。 テレビがない静寂は好きだが 何故か寂しさを感じてしまう。 その寂しさを紛らわせるために 読んでいた漫画はもう擦り切れてしまった。 たぶん アパートの壁が薄すぎて隣のクソッタレ部屋から テレビの音が聞こえてくるからかも知れない。 テレビの音だ

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その16

16. 大迷惑 それは突然だった。 間違えて母は私の下宿先の住所ではなく お店の住所に大量の荷物を送ってきた! ハムと共に! しまった! 大迷惑だ! ツギハギだらけのダンボールで ガッチガチに梱包された テレビやテレビ台やらが お店に置かれている! みんながジロジロとみている。 恥ずかしい。 「あー、いや、なんか母が間違えて お店の方に送ってきたみたいで・・・」 部屋の住所を伝えなかった自分のせいだとは 言わなかった。 優子さんが言った。 「とにかく先