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神戸・ 須磨張り子 吉岡武徳さんを訪ねて

ここに書くのは一体いつぶりなのでしょうか。
と、僭越ながらinstagramで書いていたものなどをこちらに備忘録としてまとめたりなどしていきたいと思います。

須磨張り子に出会ってしまった

先日、広島〜尾道〜倉敷〜神戸と旅行した際、【民藝】を一つキーワードにして各地を見ておりました。
神戸は三ノ宮の「じばさんele」という地場産品を扱うお店で、出会ってしまいましたんです。「須磨張り子」に。

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時期的に店頭に並んでいたのは五月人形。店内のPOPで「須磨張り子館」なるものがあると聞き、ネットで調べたらご連絡先を発見したので思い切ってお電話してみた。すると、いまは奥様の看病で張り子館はあけていないとのこと。しかし、自宅なら良いですよと....!

え、えっ?!自宅?!
…と、唐突なお願いにもかかわらずこちらが驚いてしまうくらい、寛容に受け入れてくださいました。

「高松張り子」をきっかけに

我ながら本当に図々しいのですが...お邪魔できて感!激!
もう、作品が、ひとつひとつ本当に素晴らしい!! 

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ご自宅に足を踏み入れてすぐ、ずらっと各地の張り子とご自身の作品が並ぶ。でもこれはコレクション作品のごくごく一部で、震災や、近年の豪雨被害もかいくぐって残ってきたもの。そしてご自身の作品もまた、自身や家族の苦境に直面しながらも、朗らかに人を和ませる力のあるものばかり。

42歳から張り子を作り始めた

吉岡武徳さんは、郷土玩具に魅せられ42歳頃から現在まで30年ほど制作を続けられている。高松の張り子に強い影響を受けているという話を伺って、なんだか納得。私自身も2年前に高松の張り子に出会ったことをきっかけに郷土玩具に魅了されていたからです。この私の胸のときめきは正しかったわけです... 。

神戸にはもともと張り子の文化はなく、吉岡さんは独自の創作張り子として【須磨張り子】を確立した。

そもそも吉岡さんが張り子作りを始めたのは、郷土玩具を蒐集していた義理のお母さんの看病をしていたときで、集められないならお母さんのために新しくつくろうと作り始めたそう。いまは一昨年大きな事故に遭った奥様を看病しながら、息子さんや周囲の方の応援を受けて、自宅で制作を再開している。

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大変な日々の中に生み出される奇跡

いいお話として帰結するのは簡単だけれど、大変な日々はまだ続いていて、吉岡さんの創作もまだまだ続いている。この日々の中で、人形一つ一つが生み出されるのは、奇跡だ。
作ろう、作りたいと思えて、体が動いて、必要とされて、支えてくれる人がいて、ようやくものは作れる。そういう一つ一つの過程に時間も労力もかかり、なんとか作り出せる日々が戻ってきた、という感じなのだろう。

そうやって体と心が詰まった作品だけれど、生み出されるものはどこか軽やかで、こちらの力を抜いてくれるようなもの。こうやって、すっと心に触れてくれるものたちには、そうそう簡単に出会えるものではないのだ。吉岡さんの夫妻とのおしゃべりも、全てがすっと心に入ってくる。このお二人も多くの方に支えられていると仰るが、このお二人に支えられているであろう方がどれだけいらっしゃるだろう。わたしまですごく救われた気持ちになりました。

「創作張り子」という魅力

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【須磨張り子】は、吉岡武徳さんが作り上げてきた「創作張り子」です。

たとえば吉岡さんオリジナルのお相撲さんシリーズは、「遠藤」という力士の体があまりきれいだから、作ってみたいと思って作ったもの。「全然そうはならなかったけどねー」と笑う。色づかいや表情は、その時々の気分や実験で変えている。

粘土と古紙で作る「型」

伝統的に作られている張り子は、代々受け継がれる木の型があり、それをもとに制作されるものが多いが、吉岡さんのような創作張り子の場合は自身で型も作らなければいけない。

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粘土で土台をつくり、和紙を貼って固めたものを型にしている。型作りには、丈夫な江戸時代頃からの古書の紙を使っている。水をよく吸って乾くとカチカチになり使い勝手がいいのだそう。

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型から作らなければならないのは大変…。しかし自分で型が作れる分制限がなく、自由なところも創作張り子の魅力!

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ひな壇5段飾りも圧巻!こんな張り子見たことあります?
型から作れる自由さは、こういうところに魅力と創作意欲が爆発していて、こちらまで元気が出ます。

創作張り子だから実現できた、「神戸だるま」の復元

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真っ赤な体で笑顔を振りまいている「神戸だるま」は、以前外国人観光客向けに作られていたと言われているもので、数少ない資料をもとに吉岡さんが復元したもの。「姫ダルマ」ということを抜きにしても、よく見るダルマさんとは一線を画す、独特な形と顔立ちにぐっと引き込まれる。そして一つ一つの顔が全部違う!!サイズもいろいろで、選ぶのにすっかり迷ってしまいます…。 突然の訪問にかかわらず張り子の話もたくさん教えてくださった吉岡さん。本当に張り子が好きなんだなあ、という気持ちもひしひし伝わってくる。

今は閉鎖状態になっている「須磨張り子館」も、いつか見てみたい。

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出会いの記念にはんこを作りました。

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吉岡さんのつくる張り子たちは、とても嬉しそうで、楽しそうで、一生懸命生きている感じがした。作り手の魅力というものは、かくも作品に現れるものなのだなぁと、実際にお会いしてみて改めて感じます。

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吉岡さん、私も頑張っていきます。
また会いに行かせてくださいね。

書き手:あまのさくや(さくはんじょ)
「はんこと言葉で物語をつづる」をモットーに、日々はんこ・版画の制作やインタビュー記事の執筆などに勤しむ。チェコ親善アンバサダー。ラジオ好き。



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