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映画「非常宣言」2023年韓国

久しぶりに韓国映画を鑑賞いたしました。
去年公開したばかりの最新作が、Amazon プライムにラインナップされていました。
最近の韓国映画は、ハズレがないのですが、本作もなかなかの迫力。
韓国映画は、いまや特撮の技術もハリウッド・レベルなので、CGも相当使っていそうですが、航空パニック・シーンはとてもリアルで、説得力がありました。

主演は、ここのところ世界的にも評価されており、有名どころの韓国映画には、ほぼ出演している感のあるソン・ガンホ。
そして、最近はハリウッド映画にも出演しているイ・ビョンホン。
韓国映画界の超ビッグスターお二人の共演ということになります。

ちなみに、ネタバレ感想になりますので、ご注意を。

娘の治療のためハワイへ向かう飛行機恐怖症のジェヒョク(イ・ビョンホン)は、空港で怪しげな男を見かけます。男(イム・シワン)が、自分たちと同じ便に搭乗したことを知り不安を隠せないジェヒョク親子。
KI501便はハワイに向けて飛び立ちますが、離陸後間もなくして、男の仕掛けたウイルスにより男性乗客の一人が死亡。
ウイルスは機内に蔓延し、次々と乗客が原因不明の発疹や嘔吐喀血で死亡していき、機内は恐怖とパニックに包まれていきます。
一方、地上では、ベテラン刑事のク・イノ(ソン・ガンホ)が、飛行機へのバイオテロの犯行予告動画がアップされたことを知り、捜査を開始します。
そして、その飛行機にハワイに向かった妻が搭乗した便だったことを知ります。
テロの知らせを受けた国土交通大臣のスッキ(チョン・ドヨン)は、緊急着陸のために国内外に交渉を開始。
副操縦士のヒョンス(キム・ナムギル)も、乗客の命を守るため奮闘。
しかし、機長はウイルスのためにコックピットで死亡。
機体はついに操縦不能となり、地上へと急降下していきます。

高度28,000フィート上空の愛する人を救う方法はあるのか?

とにかく韓国映画は、ハリウッド映画を徹底的に研究している点については頭が下がります。
まず、航空パニックとしては、ハリウッド映画の「エアポート」シリーズはしっかりとお手本にしていますね。
飛行機のパイロットが操縦不能になり、元パイロットの主人公が代わりに操縦桿を握るという展開も、航空パニック映画としては王道中の王道です。

飛行機の乗客の命を脅かすのは、飛行機墜落の恐怖だけではありません。
潜伏期間がほとんどないという新種のウイルスによる恐怖です。
コロナ・ウィルスの大流行があったばかりで、ウイルスによるパニックは、観客の関心も高いと踏んだのでしょう。
バイオテロという新機軸で、現代性も上手に取り入れています。



ウイルス・パニックにスポットを当てた傑作にスティーヴン・ソダーバーグ監督の「コンテイジョン」がありましたが、住民のパニックや国家としての対応も、主要キャストに国土交通大臣を登場させて、今時ならこうだろうなときちんと思わせるほどリアルに描いています。

サスペンスもきちんと練られています。
映画の中では、ウイルスが蔓延した飛行機の着陸を、アメリカと日本が拒否するんですね。
しかし、これをやってしまっては、ドル箱であるはずの、アメリカと日本での興行収入は見込めないのではと心配してしまいますが、果たしてどうだったのでしょうか。

「着陸拒否」で思い出してしまうのが、1976年公開の「呪われた航海」というハリウッド作品です。
第二次世界大戦時、多くのユダヤ人を乗せてアメリカに向かった客船が、アメリカ政府から「入港拒否」をされてしまうという映画でした。
乗客たちの絶望が丁寧に描かれた作品でしたが、上手に参考にしていそうです。
船ではなく、これを飛行機でやるのですから、緊迫感は増します。
しかも、亡くなった機長の代わりに操縦桿を握る副パイロットも、すでにウィルスに罹患しているという展開。

韓国映画は、サスペンスだけでなく、映画の「泣き所」もきちんと学習していて抜かりがありません。
映画を見に来る観客は、映画の中で、何に感動するのか?
韓国映画は、そこも、ハリウッド映画の名作を学習したうえで、しっかりと鉄板のセオリーを習得しています。

それは「自己犠牲」ですね。

「アルマゲドン」のラストで、観客がどうしてあそこまで感涙にむせんだのかを、彼らはしっかりと学習しています。
しかも、これでもかの二連発です。
ひとつは、運命の飛行機に偶然にも乗り合わせてしまった観客たち。
彼らは、ウイルスを満載した飛行機の着陸反対デモをしているソウルの人たちのニュースを、スマホで確認して、自分たちの家族のために、着陸することを拒否する道を選択します。
よくよく考えると、これが乗客全員の総意になるという展開は、やや甘いかなという気もしますが、そこは力技で納得させてしまいます。
ちなみに、誰もが、スマホを持っている時代のパニック映画がどうなるかを、本作はしっかりと描いています。
こういうところは、今までのパニック映画では出せなかったテイストで、現代を描いた映画としてリアリティがぐっと上がります。
この辺りの秀逸さは韓国映画の面目躍如。

そして、もうひとつの自己犠牲は、飛行機をソウルに着陸させるために、命の危険を犯してまで、ウイルスのワクチンが有効であることを自身の体で実証しようとるク・イノ刑事。
これでもかと、観客の心を揺さぶろうとする展開の脚本を書いたのは、監督でもあるハン・ジェリム。
確かにパニック映画に登場する多くのヒーローたちは、みんな自己犠牲精神を発揮して、事態を打開していきます。
「ポセイドン・アドベンチャー」のスコット神父しかり。
「タイタニック」のジャック・ドーソンしかり。
「アルマゲドン」のハリー・スタンパーしかり。

個人的には、エモーション・モードに脚本を盛りすぎているかなという気がしてしまいますが、世界に通用する映画の基準に敏感な韓国映画では、ここまでやらなければ、映画はワールドワイドには受け入れられないだろうという判断だったのかなとも推察する次第。
しかしそれであれば、アメリカと日本にケンカを売るようなサスペンスの盛り上げ方は、やはり避けるべきだったのではないかと思ってしまいます。
いやこれは、アメリカにも、日本にも媚びないという韓国映画の自信の表れなのかもしれません。

非常宣言を、アメリカと日本には無視されても、最後はきちんと自分たちでかたを付けるという展開は、まあ韓国らしいといえば韓国らしい。
最後は飛行機恐怖症を克服して、副パイロットに代わって操縦桿を握ったジェヒョクは、完全にハリウッド的アメリカン・ヒーローになっていましたね。

ちなみに、日本映画だとこういう展開にはなりません。
思い出してしまったのは、1962年の東宝特撮映画「妖星ゴラス」です。
巨大隕石の衝突をどう回避するかという顛末を描いたパニック映画でした。
日本映画の場合は、ヒーローが自己犠牲的精神を発揮して、地球を救うという展開にはなりません。
日本の科学陣が中心となって、世界に呼びかけ、協力して南極に巨大なジェットパイプ基地を建設して、そのジェット噴射で、地球をゴラスの軌道から移動させようというもの。
これが成功し、最後は携わった世界中の科学者たちが喜んで抱き合うというのがラストでした。
いかにも日本的カタルシスです。

もちろんどちらが素晴らしいのかなどという野暮なことは問いません。
ただ個人的には、こういう日本的な問題解決方法は、自分が日本人だからというわけではなく、嫌いではありません。
ただ、それが世界にエンターテイメントとして受け入れられるかとなるとそれはまた別の話ですが。

個人的な感想をもう一つ言ってしまうと、飛行機のチーフ・パーサーを演じたキム・ソジンには、ちょっとグッと来てしまいました。
65歳の爺がこんなことを言うのは、「非常宣言」かも。




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