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もしもITをテーマにした香水ブランドがあったら

こんにちは。スジャータです。

「人類学・社会学の名著香水」に続き、ITをテーマにした架空の香水を作ってみました。

参考:人類学・社会学の名著がコンセプトの香水

「IT業界で約20年働いており、Webメディアに専門的な記事を投稿しているニッチ香水好きなアメリカ人男性が、Webメディアと協力して香水ブランドを立ち上げ、まず5種類売り出した。紹介文も自身で書いている」という設定です。

名著香水の方はコンセプト先行型でしたが、今回は使いやすい香りが揃ってます。
私はディスカバリーセット売ってたら即買いするし、多分2本くらいボトルで買う。


腕木通信、あるいは世界最古のIT


ノート:ウッディ
あなたは世界最古の情報通信がいつどこで生まれたか知っているだろうか。
情報通信を「複雑な情報を、送信側で0と1の符号に分解し、特定の通信路を通じて送信し、受信側で解読すること」と定義した場合、意外なことに、その始まりは電気の誕生より早い18世紀のフランスである。
1793年にクロード・シャップによって発明された腕木通信は、急速でフランス全土に普及した。腕木と呼ばれる数メートルの3本の棒を組み合わせたモニュメントをロープ操作で動かし、この腕木を中継局から望遠鏡を用いて確認することで情報を伝達する。
この香水は、腕木通信にインスピレーションを受けて制作された、ITの黎明を祝福する特別な香りである。腕木のボディを形作るシダーウッドを基調としながら、その前身たる狼煙のややアニマリックでスモーキーな香り、そして腕木通信を操るエンジニアが身につける白い革手袋のレザーの感触が絡み合う。男性的でありながら、どこか落ち着く香りである。

特別な林檎


ノート:フルーティ
Microsoftの窓、Twitterの鳥(悲しいことに今は既に飛び立ってしまったが)など、ITの世界には無数のアイコンがあるが、最も有名なのは、あの一口齧られた林檎であることは言を俟たないであろう。
Apple社の社名の由来には諸説あるが、あの林檎のロゴはやはり、万有引力をニュートンに気づかせる切掛となった、特別な林檎を想起させる。多くのクリエイタがApple製品を使うのは、おそらくこのアイディアが落ちてくる瞬間を切り取ったエピソードと無関係ではないのではなかろうか。
さて、目を閉じて香水をワンプッシュしてみよう。最初に香るのは、ユーカリの清涼感ある香りだ。そこにカルダモンとジンジャーの刺激が疾走感を持って絡みつく。トップが落ち着くと、後からゆっくりと立ちのぼってくるのは、ほんのり酸味のある、ジューシーな林檎の香りである。なお、この林檎の香りは数時間で跡形もなく消えてしまう。これもまたアイディアの宿命である。

エンジニアの友


ノート:グルマン
ITエンジニアと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ジュラシック・パークに出てくる、あの不憫な彼であろう。すなわち、早口で専門用語を喋り、複数のモニターとキーボードを自由自在に操り、そして常に何かを食べている。残念なことに、現実のITエンジニアもあまり違いがない。
この香水は、エンジニアの友である、チョコレートバーをイメージしている。鼻腔をくすぐるのはバニラとカカオ、そしてアクセントに入っているナッツの香りである。チョコレートの香りにも様々な系統があるが、この香水は比較的ヘビーでナッティだ。
さて、エンジニアのもう一人の友である、ポテトチップスのことも忘れていない。キーボードを操作しながら摘むにはベタベタしすぎるので、ソルティな香りづけに駆けつけてもらおう。これにより全体に上品なムードが漂う。
エンジニアは、深い思考には糖分が欠かせないと言う。それはもちろんだが何事も限度というものはあるだろう。この優雅な代替品でチョコレートの摂取量を減らし、さらにエンジニアの平均健康寿命を延ばすことに貢献できれば、それに勝る喜びはない。

サグラダファミリア


ノート:オリエンタル
長年未完成のプロジェクトを指して「サグラダファミリア」と揶揄する慣習はいつから始まったのであろうか。本家のサグラダファミリア建設には終わりが見えてきているが、世界中でそこかしこに小さなサグラダファミリアが誕生し、人々は終わりの見えない、一種の宗教行事のような営みに自身の身体を捧げている。
この香水は、トップに妖艶なチュベローズとイランイランが密やかに香る。すぐに影を潜め、教会をはじめとした多くの宗教施設で使われていた聖なる香料、すなわちサンダルウッド、ミルラの甘く重いウッディな香りが肌を覆う。この香りは何らかの祈りを想起させる。
しかし、この香りはどこか物足りない。そう、この香水はこれだけでは未完成なのだ。手持ちの香水なりボディクリームなりと合わせることで、初めて完成する。
ゴシックとは永遠に未完成であることを運命づけられている存在であるという説がある。ゴシック建築たるサグラダファミリアも、それに追随する多くのプロジェクトも、未完成であることによって完成しているのかもしれない。

止まない雨はない/Rainy days never stay


ノート:グリーン

止まない雨はないのだから。
そう言って慰められたことのないエンジニアは、この世にいるのであろうか。
大体において、この言葉が発せられるのは、プロジェクトが限界まで破綻している時である。メンバーはくるくると入れ替わり、今誰がいるのか、自分は何をしているのか、誰も何もわからない。そんな中、プロジェクトマネージャだけが力強くこういう。
止まない雨はないのだから。
では、一旦PCを閉じて、この香水をワンプッシュしてみよう。まず鼻腔をくすぐるのは、ペトリコールが表現する雨の香りだ。どこか懐かしいニュアンスがあるのは気のせいだろうか。埃のような匂いと土の香り。そこから徐々に視界が開けるように、やや露を湛えた下草と、あたりを覆う針葉樹林が見えてくる。これはガルバナムとシダーウッドだろう。ふと上を見上げると、空が晴れ、光が差し込んでいることに気づく。これは上質なイリスが見せてくれた幻だ。
さあ、香水を嗅いでリフレッシュしたら、PCを開けて、再度仕事を始めよう。
止まない雨はないのだから。

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