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花束の残酷さ

「今までに自分がもらった花束を思い浮かべてみてください。」

そう言われたらどんな花束を思い浮かべるだろう。

中学校を卒業した時にもらったのは、いくつかの花がまとめれた小さな花束だったか。嬉しい反面、花束なんて可愛らしいものをもらうことが少し恥ずかしかった。

大学4回生の時、卒業記念の演奏会に出演して大きな花束ももらった。「オペラ座の怪人」の歌を歌って、最後の高音を裏返らずに出せて歌いきったことを同級生が泣いて喜んでくれたことを同時に思い出す。自分には似合わないような大きな花束を少し誇らしく感じながら家に持って帰ったっけ。

もらった花束も、誰かにあげた花束も、きらきらとして、華やかで綺麗だったな。




この前、映画を観た。

「花束みたいな恋をした」

という映画だ。

価値観が似ている2人が運命的な出会いをしてからの5年間を綴った作品。
はじめ、2人はこの出会いを運命だと疑わなかった。2人で趣味の話をして、駅から離れた部屋を借りて、ずっと2人で仲良く歩んでいけると思っていた。

けれども、現実は少しずつ2人の関係性を変えていった。
はじめはほとんどぴったり重なっていた価値観が、社会人になってそれぞれの経験の中で変化していき、最後には決定的な溝ができてしまっていた。

きらきらした綺麗な花束のような2人は、いつの間にか枯れ果ててしまっていた。

映画のラストシーンで隣の初々しいカップルを見て、自分たちの出会った時のことを思い出すけれど、もうその頃の2人にはなれないと痛感する。




昔付き合っていた人のことをふと思い出すことがある。
夏期講習を2人で抜け出して海に遊びに行ったこと。シュークリーム作りに失敗して、ぜんぜん膨らまずにクッキーみたいになって、これはこれで美味しいねって笑いながら食べたこと。台風の日、君に会いたくなって雨の中自転車を漕いだこと。

なんでもない日常や、ちょっとしたイベント…君と過ごした幸せな思い出が蘇る。

そういえば、なんで別れたんだっけ?

きっと別れるだけの理由が2人の間には積もっていて、悲しい思いをしたこともお互いに傷つけ合ったこともたくさんあったんだと思う。たくさんあったから、一緒には居れなくなったんだと思う。

でも、不思議と嫌な記憶は思い出せない。
君と過ごした幸せな時間だけが鮮やかに頭の中に刻まれている。



「今までに自分がもらった花束を思い浮かべてみてください。」

そう言われて、
これまで貰ってきた花束を思い出してはみるけれど、思い出すのはどれもこれも満開の綺麗な花束で、その花束が最後にどうなったか、どう枯れていったのかなんてぜんぜん思い出せないんだ。



頭の中にはずっとずっと綺麗な花束が咲き続けている。

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