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企業再生メモランダム・第15回 3つの異常

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの11枚目は9年前に作成した「3つの異常」と題したメモです。

メモの背景

本連載では、度々、「普通の会社」や「普通のサラリーマン」という表現を使ってきました。

ふわっとした表現であることは理解して使っているのですが、100人の大人がいたら100人全員が頷くような、一般的な感覚・一般的な理解を「普通」と表現しているに過ぎません。

対象会社の企業再生を始めた頃に、幹部社員から、「大変申し訳ないのですが、私はこの会社しか経験をしていないので、『普通の会社』が何なのか分からないのです。何が世間とズレていて、何がおかしいと指摘されているのかが分からないのです。」と言われたことがあります。

毎日そこにいる人間からすれば、まさに現実に目の前で起きていることや目の前にあることが「普通」であり、そこのルールに従っていれば「普通の人」なのでしょう。

しかし、「普通」に関する情報は世の中にあふれています。

それを見て見ぬふりをして、耳をふさぐことは簡単なことです。羊のように盲目的に群れに追従していって、一度、思考を止めてしまえば、楽なのかもしれませんが、それでは自分の人生を生きているとは言えません。

私は様々な会社の企業再生に関与させていただいていますが、どのような苦境であれ、「普通」の価値観を捨てずに、会社のため、世のため、人のためにプライドを持って頑張っている人には本当に頭が下がります。

対象会社では、前回記載したように、東日本大震災という深刻な危機に際して、一度は、全社一丸となって生き残るために、「普通の会社」のようになりかけました。

しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、東日本大震災による危機を脱してからは、新社長となった経理部長がまたしても社内政治を開始し、一気に揺れ戻しが起こり、元に戻ってしまいました。

そして、新しい社長の方針は「何もしない。」でした。

長らく経理部長として資金繰りをしていた彼は、代々の社長や株主などによって苦労をさせられた被害者でもありました。その彼が行き着いた答えは「経営者は何もしない。」でした。

一般的なビジネス感覚では信じられないかもしれませんが、対象会社の前身の時代から資金繰りに苦労した彼が、真剣に考えて、行き着いた答えなのだと当時思いました。

メモ「3つの異常」の中身

1.「組織の論理」がおかしい!

「普通の会社」の「組織の論理」とは、個人の利益よりも、会社の繁栄や存続を優先させるという考え方で、「会社のため」が全ての仕事の動機となります。

しかし、対象会社では、「会社のため」という根本の部分がストンと抜け落ちてしまっていて、過度に絶対的な上司、はき違えた個人主義、セクショナリズム・・・など、個人の利益が優先になってしまっていました。

スタッフの視点から「会社とは何か?」を考えると、「会社が利益を稼ぐことで、長年にわたりスタッフ全員の給与を支給することから、会社はスタッフの生活を守る運命共同体」と言えます。

例えば、会社にとっては必要な仕事だが、個人にとってはやりたくない仕事のように、スタッフ個人と会社とで利害関係が一致しない場合があります。

そのときに「組織の論理」が出てくるわけです。

「滅私奉公をしなさい!」と極端な話をしているわけではありません。バランス感覚を持って、会社のために、仕事をしていってもらえればと思います。

2.意見と人格を切り離そう! 

「普通の会社」の会議では、スタッフのそれぞれの視点から、意見A、意見B・・・と会社のためになる様々な意見が飛び交います。

しかし、対象会社の会議では、意見が食い違うと(さすがに会議中ではないでしょうが)発言者の人格攻撃に発展してしまうことがありました。

会社のためという共通の目的があるといっても、立場や仕事が違えば、意見が違うのは当たり前です。

このような中で、意見のすり合わせを行うのが会議なのです。

意見が違うからといって、「その意見そのものではなく、その意見を主張する人が気に食わん!」といった話までしていたら、当たらず障らずの意見しか出なくなってしまい、会社は競争力を失ってしまいます。

もちろん、会社のためにならない意見を採用することがあってはなりませんし、一見真っ当な意見の中に人格攻撃を織り込むようなこともしてはいけません。

3.上司の言うことは絶対ではない!

「上司・部下という関係は何のためにあるのか?」というと、より良い会社の運営のためです。

本来、会社のために、上司・部下という関係があるですが、対象会社はそこが抜け落ちていることがよくあります。

対象会社では、上司が言うことは絶対かのような風潮がありました。

「普通の会社」の上司と部下は、管理職と現場という役割で分かれています。そのため、意見に食い違いがあるときもあるのです。

当然、スムーズに会社組織の運営をしていく上では、上司の指示には従わなければなりません。しかし、上司が言っていることが明らかに間違っている場合、無理がある場合は、部下もちゃんとそのことを指摘するべきです。

上司も、会社のためであれば、例え上司が考えていることと違うことであっても、部下の直言に積極的に耳を貸さなければなりません。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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