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【小説】アルカナの守り人(2) フウタ

 フウタが探偵業を始めたのは、手取り早く、楽して稼げそうと思ったからだ。元々、勘が鋭いのもあって、探し物は得意だった。人でも物でも、大して苦労もせずに探し出すことができた。こんな楽にお金が稼げるなんて、最高じゃないか!
 フウタはそう思っていた。そんな気持ちで始めた探偵業だ。集客のために何をするわけでもない。客は当然、ほとんど来ないのだが、原因が自分にあるとは気付いていない。
 この街の奴ら、悩みがないのか?まぁ、俺も人の事言えないけどな。人生、楽しく生きられたら、それでOK.  自由で、希望や夢さえあれば、どうとでもなるってね。
 
「探偵なんてやめて、また新しいことでも始めるかぁ」

 そう呟くフウタの足元で、モコが一声、ウォンと鳴いた。
 真っ白の毛並みが美しいモコは、シベリア原産の大型犬、サムエドだ。フウタの相棒であり、お目付役? フウタを真っ当な人間にすることが使命であると思ってるらしい。今もフウタの服の裾を、くわえて引っ張りながら《真面目に働け》と訴えている。

「ああ、分かってるよ、相棒。。」
フウタはモコの頭を優しく撫でながら、そう呟いた。

 その時だった。長らくフウタ以外が開くことのなかった入り口の扉が開く。
隙間から女の子が顔を覗かせた。

「…すみません。」

 小さな声ではあったが、はっきりとよく通る声だった。彼女は、フウタの姿を見つけると、部屋の中に体を滑り込ませた。

「あの…、こちらが探偵事務所さんですか? 探し物がすごく得意だって…。
今、依頼ってできますか?」

  大人しめな雰囲気のその子は、肌当たりの良さそうな、一見無紋に見える生地、しかし、実際は、繊細な刺繍が施された民族衣装のような、白いワンピースに身を包んでいた。長い煉瓦色の髪を二つに分け、無造作に編み込んでいる。
大人っぽくも見えるが…、きっと俺と大して変わらない歳だな。十六くらいか。
 両手で大きな包みを抱えている。随分、重そうな荷物だな。。何はともあれ、久しぶりのお客だ。

 フウタは、すぐに体勢を整え、テレビの電源をオフにすると、満面の笑みで彼女を迎え入れた。



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