ライブハウス支援で得たもの
コロナ禍によりライブハウスが苦境に陥り始めてから、およそ4ヶ月。条件付きながらも、営業を再開する店舗が増え始めた。ライブハウス支援のクラウドファンディングも数多く立ち上げられ、自粛期間中にスタートしたものは支援〆切、リターン発送などにより一区切りを迎えた感がある。
かく言う私も幾つかの支援プロジェクトに参加した。過去に行ったライブハウスは沢山あり、出来れば全部救いたいぐらいだが、クラウドファンディングの数があまりにも多く、かなり厳選せざるを得なかった。全部やっていたらこちらの財布がもたないほど、キリがないからだ。
検討の結果、
①特に思い入れのある場所
②憧れのある場所
③特典欲しさ
このあたりをポイントにして支援先候補は絞られていった。リターンとしてTシャツを用意している所が多かったが、Tシャツは普段からアーティストやフェスのグッズとしてよく購入しているため、これ以上欲しいとはあまり思わなかった。
そんな中でもどうしても強いのは、③「特典欲しさ」である。特にここでしか手に入らない音源を持ってこられると音楽ファンとしては弱いし、こんな機会でもなければ入手できないようなレアグッズにはついつい手が伸びる。本当はこれからの音楽文化の為にもオマケ等は度外視してお金を落とすべきなのだが、コロナ禍を受けての店長の悲痛なメッセージもすっかり見慣れてしまい、情だけではお金は出せなくなってしまった。残酷な話だが、魅力的な施策ができない店は淘汰されてしまうのかも知れない。
そんな中でも、魅力的な特典により即ドネーションを決意した企画も幾つかあった。ここでまとめてみたい。
①toe「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」
インストバンド・toeが企画し6月まで展開していたライブハウス支援プロジェクト。全国100以上のライブハウスが参加しており、支援者は希望する会場を選んで寄付、そのリターンとして企画賛同ミュージシャン全74組の音源データにアクセスする事ができるという仕組みだ。最低¥500からでも参加できるという敷居の低さだが、リターンは大充実。東京事変やNUMBER GIRLのような大物バンドから、インディーズシーンでオルタナティブな存在感を放つアーティストまで幅広いラインナップが揃っており、音楽シーンのカタログのようなボリュームがあるお得なリターンだ。サブスクでも聴く事ができる既発曲もあるものの、思わぬレア音源にもあたる事ができた。例えば、
・Demo Track 2020/BRAHMAN→未発表のデモトラック
・Waters Live At NHK Hall “別天” 2019.05.24/cero→YouTubeでも公開されているライブ映像の音源版
・Walkin’ Walkin’ Live at 日比谷野外大音楽堂(”SOFT LANDING” 2019.4.21)/YOUR SONG IS GOOD→20周年野音ワンマンのライブ音源
・すみれ組、わたしのぞうさん/一十三十一→今回イチ衝撃のトラック。幼少期の一十三十一が童謡「ぞうさん」を歌う音源。当時のカセットテープから収録したらしい。
・某都民、選ばれざる国民/東京事変→表記は無いが未発表のライブ音源。8分超え。
他多数。ちなみに、購入時に指定したライブハウスは新宿LOFT。
②OTOTOY「Save Our Place」
音楽配信などを行うサイト・OTOTOYでは「Save Our Place」企画が始動。賛同したミュージシャンは音源を配信する際にドネーション希望の施設を選び、売上はクレジット決済手数料、著作権使用料を除き全額施設に送金されるという仕組みだ。本企画の一環で多くのタイトルがリリースされているが、選んだのは「Baby, Stay Home」という楽曲。多くのミュージシャンによってリモートで制作され、その参加メンバーが3~4月にライブ中止を決定した会場を中心に寄付されるのだとか。ちなみにアーティスト名は全員をとにかく羅列したもので、
岩崎慧 (セカイイチ) / Keishi Tanaka / 柴山慧 / 谷川正憲 (UNCHAIN) / LOVE / 岸本亮 (JABBERLOOP, fox capture plan, POLYPLUS) / 紗羅マリー (LEARNERS) / 岩崎愛 / 村松拓 (Nothing's Carved In Stone, ABSTRACT MASH) / 桃野陽介 / 松本誠治 (the telephones, We Come One, Migimimi sleep tight, 大宮Base) / ナギケン (HardyRyan) / TA-1 (KONCOS, Anoraks)
とただただ長い。TK PRESENTS こねっとみたいな1曲限りのグループ名をつける訳にはいかなかったのか。しかし楽曲は華やかなホーンが印象的なソウルナンバーで、おうち時間を温かく彩るような素敵なものだ。フィジカルでないダウンロード1曲で1,100円とはかなり高額だが、今回はドネーション目的でレーベルを超えて制作された曲であり、今後CD化される可能性が低いと考えられるため、参加ミュージシャンのファンはダウンロードしておくのもアリだろう。ドネーション先は以下の通り。
LIVEHOUSE FEVER
三軒茶屋Grapefruit Moon
musica hall cafe
高知ONZO
渋谷organ bar
下北沢SHELTER
札幌Sound lab mole
高松 STUDIO UNDERSEA
渋谷 WWW X
下北沢440
大阪 Live Bar FANDANGO
梅田ムジカジャポニカ
③山下達郎×JIROKICHI コラボTシャツ
高円寺のライブハウス・JIROKICHIでライブを予定していた山下達郎が、ハコ存続の危機に一肌脱いだのがこの企画。¥4,000のTシャツに特典としてついてくるのが、なんと達郎さんの直筆サイン。レギュラーラジオ番組「山下達郎のサンデー・ソングブック」で発表し、番組終了直後の15時から販売を開始するや否や購入希望が殺到したらしい。
達郎さんのライブでは物販の特典として直筆サインがプレゼントされる事があり、コアなファンであれば既に持っているのかも知れないが、それでもゲットするチャンスはなかなかない。ラジオを聴いて即注文し、届いたのがこちら。
幼少の頃から達郎さんの音楽に親しみ、大人になってからはライブも拝見して益々ファンになった身としてはこれはとても嬉しい。早速メルカリで転売されているのが悲しいけれど。
④渋谷organ bar「Save the Organ b.」
渋谷オルガンバーのクラウドファンディング企画のリターンの1つが、ここでしか手に入らない2枚組コンピレーションアルバムだ。正直オルガンバーには行った事がないので会場としては特に思い入れはないのだが、これ欲しさにドネーションを決意。CDには全25曲収録されていたが、不備により1曲足りない事が判明し、購入者は別途1曲ダウンロードで補完する事になった。数あるリターンの中でも最低¥5,000を出さないと手に入らないためCDとして考えると高額商品だが、小西康陽の未発表トラックが手に入ったので良しとしよう。ハコの特性上、他のライブハウス支援コンピに比べると参加メンバーはDJの比率が高い。
⑤鹿鳴館伝説
最近ではBABYMETALの聖地としても知られる老舗・目黒鹿鳴館を救うため、関西ヴィジュアル界の重鎮・KISAKI(ex.MIRAGE/Syndrome/Phantasmagoria/凛-the end of corruption world-他)がコンピレーションアルバム企画を始動。90年代にインディーズシーンを賑わせたバンドを中心とした50組の音源が4枚のディスクに収録されている。これが2020年とは思えないほどの濃密なラインナップで、当時のヴィジュアル系をそれなりにディープなところまで掘っていた人でないとなかなか伝わらないであろう面々が揃っている。
私は90年代終盤~00年代初頭のヴィジュアル系ファンで、当時インターネット黎明期の中、雑誌やテレビ・ラジオといった限られたメディアから必死にバンドの情報を拾っていた。ライブには行っていなかったため、メディアに出ているバンドの情報しか伝わってはこなかったが、今作には当時名前しか見ていなかったバンドも多数ラインナップされていて非常に興味深い。当時聴いていたLa'MuleやS、RONDEなどといった面々が時を超えレーベルを超え1つの作品に集うのは本当に奇跡のような出来事だと思う。7月20日に注文受付が始まったばかりで未だ届いていないが、早く実物を手にしたい。
その他、直接の寄付ではないもののアラバキロックフェスのようにグッズを購入する事で支援したものもあった。クラウドファンディングではこんな事でもなければ手に入らないアイテムが幾つも手に入り、嬉しい反面、その裏では音楽の鳴る現場がどれだけ失われたか分からない。果たしてこれらの支援で本当にライブハウスは救えるのか...。いや救えると信じて、見守るしかない。
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