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#113展覧会の切り口ー最近見た展覧会について(2)

 前回に引き続き、最近見た展覧会についてのお話をしたいと思います。今回も既に会期が終わっていますが、大阪市立自然史博物館 ネイチャーホールで行われていた特別展「毒展」について紹介したいと思います。

 この「毒展」は巡回展で、国立科学博物館で展示の後、大阪市立自然史博物館に巡回展として来たものです。テレビで宣伝もされていたので、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

 この展覧会は、毒とはどのようなものか、毒をもつ生物にどんなものがあるか、毒と進化、人間による毒の活用、どのようにして毒と付き合っていくか、というような内容で構成されています。
 最初の「毒とはどのようなものか」という内容では、どのようなものが身近で毒となるのか、ということを紹介しています。一口で毒というっても、何となく毒蛇や毒蜘蛛、猛毒を持つ植物などを想像される方が多いと思いますが、「人体に取り入れると害をなすもの」という定義でこの展覧会では定義づけて紹介していました。次の「毒をもつ生物にどんなものがあるか」という内容では、一般的に判りやすいコブラやハブ、スズメバチなどの毒をもつ生物、植物を紹介しており、標本やホルマリン漬け、剥製などが展示されていて、この部分が最も一般的なイメージに一致するからか、来場者が最も熱心に見ているコーナーでした。「毒と進化」の部分では、他の生物には毒になるユーカリを消化するためにコアラの消化器系が進化していったというような、身を守るために発生した毒とそれを乗り越えようとする進化などについて紹介していました。「人間による毒の活用」の部分では、人間に有毒なものを兵器として活用しようとする人間の営為、炭そ菌やマスタードガスなどを代表として紹介していました。「どのようにして毒と付き合っていくか」の部分では、鉱山開発の副産物としての足尾銅山鉱毒事件、あるいはマイクロプラスチックなどを紹介し、人の営為による毒の広がり、それらの毒と今後人間はどのように付き合っていくのか、という内容が紹介されていました。

出入り口に示される展覧会ポスターを含む案内板(筆者撮影)

 これらの展示全体を見て、若干の違和感があった点としては、結構大々的にテレビで宣伝していたので、猛毒生物などについてが中心のキャッチーな内容かと思って、子ども連れの友人などにも面白そうな展示だと紹介したのですが、かなりキャプションを読ませる展示でした。一部、拡大したハブの模型やスズメバチの模型がありましたが、そのような目立った展示物はそこのみで、キャッチーな展示を期待した来場者には残念な結果になったのではないかと思えました。

スズメバチとハブの巨大模型(筆者撮影)

 また、先に、「身近でどのようなものが毒になるのか」という広い範囲でこの展覧会では毒を定義していると記しましたが、例えば「かびたパン」や「マイクロプラスチック」なども毒の例として挙げられていました。著者には、今回の展覧会における毒の定義が広すぎて、「毒」というよりも「人体に害をなすもの」というように、ちょっと一般的な毒のイメージからは広くし過ぎており、却って判りにくくなっているのではないかという気がしました。同様の印象は、現在は休館している施設ですが、リバティおおさか(大阪人権博物館)のリニューアル後の常設展示を想起しました。リバティおおさかは、水平社運動と被差別部落問題を扱う博物館施設としてスタートしましたが、常設展のリニューアルの際に、幅広い人権を取扱う方向へ舵を切り、被差別部落問題と水平社運動以外にも、アイヌ・沖縄など日本の中の民族問題、在日韓国・朝鮮人問題を含む在日外国人問題、LIGBTQや病気による差別や、児童虐待、犯罪被害者などにも幅を広げ、さまざまな人権を取り扱うようになりました。しかし、却ってあまりにも手広くしてしまったことで、核の部分の問題意識が薄くなってしまったのではないか、展示を見たときに感想として持ちました。

 上記のリバティおおさかの常設展示と同様のことを「毒展」でも著者は感じました。せっかく展示をするのであれば、来場者に判りやすく何か覚えて帰ってもらえるような、魅力を感じてもらえるような工夫がもう少しあってもよかったのではないかと思います。というのも、明らかに猛毒生物、猛毒植物の部分にはたくさんの観覧者が密集していて、ちょっと展示が見づらいような状況になっていましたが、それ以外の部分は閑散としていて、非常に展示が見やすいというか、入場者があまり展示を見ていない状態だったと言えます。つまり、来場者の期待している毒は、毒=猛毒生物、猛毒植物であり、カドミウムやマイクロプラスチックではなかったと言えるでしょう。もちろん、それらも毒ではあるのですが、それぞれのコーナーが別の展覧会であっても良かったのではないか、と思えるほどに、せっかく詳細に紹介しているのにあまり見てもらえていない状態であった、というのが非常に残念な感じでした。
 著者にとっては除虫菊や最初のころの蚊取り線香など、興味深い展示物は拝見できたので、非常に勉強にはなりましたが、テーマを広げ過ぎたことによって解説キャプションが増える、難解になる、という弊害があったように思われるので、せっかく展示しているものも素通りされてしまってはもったいなかったのではないか、という気がしました。

個人的に興味深かった、初代蚊取り線香(筆者撮影)

 魅惑的なテーマの展覧会ではあるので、バージョンアップして、また違った機会に展覧会として再度展示されることを期待したいと思います。
 また、「毒展」は巡回展ではありますが、この展覧会についての展示情報が大阪市立自然史博物館のサイト内では「過去の展示」などの部分に情報が残されていないことが、非常に残念でした。展示は図録などを購入していないと、後で内容を確認をすることが出来ないライブ感あふれる体験です。そのため、時間が経過してから情報を確認したい時に、展覧会情報が残されていない場合には、どんな展覧会であったのかをたどるのが非常に困難になります。出来れば、「過去の展示」のコーナーで情報は残しておいてもらえればありがたいな、と思いました。

 ちなみに、展示を見た友人とPodcastで無責任な雑談をしています。もしご興味があれば聞いてみてください。


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