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#070目的のものを探すための、機械との付き合い方ー図書館で目的の資料を探すー

 先日、久々に出身大学の図書館に行き、調べ物をしてきました。割合古い大学なので、書籍の収蔵量もそれなりにあり、使い勝手がよく、また卒業生は利用カードを作ることができるので、書籍を借りることも出来るため、これまで非常に重宝して利用していました。しかしコロナ禍になり、外部の者の利用制限が掛かってしまい、ここ二年程利用出来なかったので、久々の来訪です。

 もう三〇年も前になりますが、丁度入学した年には古い図書館から新しい図書館への建て替えが始りました。しかし新しい図書館になった際にも、まだ現在一般的になっているようなパソコンによる検索は導入されておらず、旧来型の図書カードによる書籍の検索によって希望の書籍を探すという仕組みになっていました。数年後にはパソコンの普及により、図書館の検索システムもパソコンによるものに変わりました。

 とりあえず目当ての分類の書架で開架図書については眺めながら探す、ということももちろんしていましたが、図書カードで書籍の検索をしていた際には、著者名かあるいは書籍の名称の冒頭に記されている言葉でしか探せませんでした。例えば、「近代日本の〇〇」といった書籍を探すには、とりあえず読みの「Ki」から始まる図書カードのボックスで順番に「Kindai」と探していかなくてはいけません。そのため、「近代日本の地方政治」という場合、「地方政治」の方を探したくても、書籍の名称の冒頭にないので探せない、という状態でしたので、冒頭のキーワードで探すにしても、それで網羅出来るという訳ではないので、他のキーワードも加えて、例えば「日本近代の~」や「近代地方政治~」など想像出来得る限りのキーワードで、ほぼやみくもに探すというのが現状だったと言えるでしょう。

 のちに、Windows95が普及することで、一気に図書館でもパソコンでの検索システムも普及することになり、非常に便利に、かつ手早く目的の書籍が探すことが出来るようになりました。それも、先の例のように書籍の冒頭にないキーワードのものも手軽に引き出せるようになりました。そのため、研究史なども非常に網羅的に、細かく当たれるようになったとも言えます。

 しかし、パソコンでの書籍の検索の仕方にも、得手不得手があり、掲載されていないキーワードは拾えないといった問題点もあります。例えば「近代大阪の社会史」というテーマで書籍を探す際に、検索ワードを「社会史」とした場合、書籍名に「社会史」という文言が入っている場合は拾えますが、「社会」だけしか入っていない場合は拾えない、となります。パソコンによる書籍の検索が導入されて、非常に便利になり、網羅的に書籍を探すことが出来るようにはなった訳ですが、逆に機械に判ってもらえる、機械に寄せた検索手法を駆使しないと探せないという状態になったとも言えます。

 現在ではパソコンによる検索は非常に流布していますが、それでも「機械に寄せた検索」というコツは変わっていないように思います。自身の大学時代の経験ですが、レンタルCD、ビデオ屋にアルバイトに行っていたのですが、歌手名や俳優名で探す、あるいは歌や映画のタイトルで探すことは可能なのですが、歌詞の一節や映画のワンシーンについて述べて来られて、その作品を探したいんだ、というお客さんが時々ありました。この場合、探す人はその歌を聞いたことがある、あるいは映画を見たことがあるという前提条件が付いてしまい、人的スキルに頼ることが大きくなり、なかなか探すことが困難になります。そのため、歌も映画もエンサイクロペディア的に沢山知っている人でないと探せない、となってしまいます。著者も店のカウンターでお客さんに歌の一節を歌われて、それを元に探したことがあります。この場合、歌い手が正確な歌詞を歌っているか、またきちんと音程があっているかという条件も付与されて、一層探すのが難しくなります。この時は何とかお客さんの望みの物を探せて難なきを得ましたが…。

 これと同じようなことが、図書館のカウンターでも起こっているようです。先日、「好書好日 本好きの昼休み」というPodcastを聞いていてて面白いものと出くわしました。

 図書館のカウンターで目的の本を司書の方に探してもらう際に、うろ覚えのタイトル、著者名などで探すことを依頼してくる方がおり、そこから目的の書籍を探し出す、と言うお話です。ここでは、福井県立図書館でのお話が例に挙げられており、膨大な書籍の中からうろ覚えのタイトルや著者名で司書の知識や経験から上手く探し出す、という、機械の検索では到底出来ないようなお仕事のお話が紹介されています。福井県立図書館では、その経験、蓄積が面白かったようで、それらをデータベース化して公開されています。

 また、それが好評だったようで書籍化もされています。著者も思わず購入してしまいました。

 司書の仕事も如何に本を知っているかが勝負になって来るということで、選書の際にしっかり見て選んでいる方だと、内容で聞いて来られても対応出来るかも知れませんし、また新聞などの書評欄にいつも目を通しておられる方だとより検索出来る幅が広がるのかも知れません。

 古文書を読む際も、正解が判らない状態で読み進めていきますので、読み手の知識量、如何にたくさんの文字を知っているか、たくさんの文字に出くわしたことがあるか、が勝負になってきます。AIで古文書を読むということも昨今では技術的に進化してきていますが、所詮は人の作った機械ですので、与えた知識しか持ち合わせていない。その範囲内であれば、非常に効果的に答えを探せる仕組みだと思いますが、あらゆる知識や情報の中から答えを探すとなると、まだまだ人間には及ばないという状態なのでしょう。目的の書籍を探し出すのも、同様のことなんだと思われます。

 福井県立図書館の、トンデモレファレンスにどうやって対応しているかということについては、下記のリンクから「Aera dot.」の記事が読めます。検索の際には、お客さんから聞いたタイトルを検索するだけでなく、聞いたタイトルを単語ごとに切り分けて検索するということも併せて行っている、ということなど、図書館のレファレンスの裏側を垣間見ることが出来て、なかなか興味深いです。

  なお、以前の回で、石碑の写真を掲載前に削除してしまったものがありましたが、きちんと探したらバックアップから見つかりましたので、追加で掲載しております。ご興味のある方は下記リンクからご確認ください。







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