2023ファジアーノ岡山にフォーカス49『 リスクとの向き合い方~前後~ 』J2 第38節(A)vsザスパクサツ群馬


1、サッカーと温泉~親近感~


 群馬県と言えば、温泉というイメージが強いが、サッカーも熱い。前橋育英は、群馬県の誇る名門高校で、全国大会で、優勝経験もある。

 岡山県も2023年に岡山学芸館が初優勝したが、知名度やプロ選手の輩出している選手数という点では、群馬県には、まだ届かない。

 近年こそ、岡山の名門校である作陽や光南だけではなく、ファジのユース選手のプロ選手が増えてきたが、まだまだこれから歴史を作って行く過程である。

 そして、両県には、有名な温泉地があり、岡山でも女子サッカーの湯郷ベルの本拠地で、群馬の温泉地は、クラブ名のザスパクサツ群馬の「クサツ」の「草津」という温泉地が有名である。

 群馬に関しては、一度J3に降格した時期もあったが、2年で戻って来た。手堅いチーム編成や強化ができていることを感じられる。その容姿から「組長」という愛称の大槻 毅 監督の元手堅い4-4-2の可変式の手堅いチーム作りは、かつての有馬ファジの負けない強さを感じられる。

 そういった共通点の多い両チームが、J1という夢の舞台を目指して、プレーオフ進出圏を目指して、この終盤に戦う。何か運命のようなものを感じるが、勝ち点的に、プレーオフに進出できるとしたら、どちらかになる。ただ、可能性がある限り、両チームは、勝ち点3を目指す。

 こんなシチュエーション、のぼせるほど熱くなるに決まっている。

 1点を巡る両チームの90分間の戦いを振り返る前に、まずは、両チームのメンバーを観て行きたい。

 岡山は、出場停止の42高橋 諒の左WBに2高木 友也が入り、右WBには17末吉 塁が戻って来て、16河野 諒祐は、メンバー外になった。48坂本 一彩は、リザーブメンバーに変わり、8ステファン・ムークが、スタメンとなった。そして、14田中 雄大が、リザーブだが、久々に名前を連ねた。前節は、好調の形に合わせたが、今節は、2高木 友也を意識していることを感じた。また、2高木 友也は、群馬に所属していた時期もあり、41田部井 涼は、群馬県出身の選手である。

 群馬は、39高木 彰人がリザーブに回り、47杉本 竜士がスタメンに変更されていて、50菊地 健太と9北川 柊斗がメンバー外となって、その空いた所に、19岡本 一真が、久々に怪我からリザーブメンバーではあるが、戻って来た。岡山にも在籍していたことのある左SH7川本 梨誉やGK21櫛引 政敏もメンバー入りした。また、登録のみの変更した選手もいて、メッセージをそこから感じとれる。

2023 J2 第38節(A)ザスパクサツ群馬 vs ファジアーノ岡山
2023/10/08(19:08kick off) 正田醤油スタジアム群馬

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2、確かな推進力と密度の高い壁~膠着~


 立ち上がりの失点が多くなっている事をリサーチ済みの群馬は、立ち上がりからサイドを軸に攻め上がり、アグレッシブに仕掛ける入りをみせる。岡山も群馬の圧力を受けて、クリアに逃げるシーンもあったが、落ち着いて対処したことで、失点することなく乗り越えることができた。

 立ち上がりを乗り越えた岡山は、2高木 友也と17末吉 塁の縦への推進力を活かす形を、メインの攻撃にして、サイド深く進入するということは良く出来た前半であったが、スペースを決して空けない群馬の組織的な守備に、岡山は得点を決めることはできなかった。

 44仙波 大志や41田部井 涼もボールに触れていたが、セットプレーを含め、なかなかフリーの選手へ通すという事が左右のWB以外の所で、作れなかった。バイタルエリアの辺りをぎっしり固める群馬に対して、どう崩すかという攻防の中で、岡山のDF陣の攻撃参加も目立った。

 43鈴木 喜丈や15本山 遥が、持ち上がる動きを見せるも、ほぼ食いつかずリトリート(後退)を前提とした守備の形を採用していることもあり、そのまま上がるシーンも多かった。特に43鈴木 喜丈は高い位置まで進入することも多く、6輪笠 祐士が、43鈴木 喜丈の所を埋めるというシーンが多かったが、左WBの2高木 友也のクロスの判断が、いつもの42高梁 諒よりも早かった。

 岡山は、こうして群馬の固いブロックの綻びを探ったが、一定範囲内のエリアに進入した時の群馬の守備密度はかなり高く、余裕を持ってパスを回せた部分もあるが、そこから先をどう崩すかという戦いを強いられた。

 群馬はサイドを軸としたカウンターで、得点の機会を窺っていたが、岡山の守りとして、中央は、6輪笠 祐士や5柳 育崇の厳しい守備で、跳ね返すことができるシーンが多かった。ただ、アンカー脇のスペースの所で、7川本 梨誉が勢いを持って運ばれるというシーンを何度か許してしまった。

 幸いであったのは、群馬のカウンターが数的有利と言える状況をほぼ作れず、岡山としても最低限のリスク管理と群馬の攻撃へのウェイトが低かったこともあり、チャンスと言えるシーンは、前後半を通して、1,2度程度であった。

 ただ、それは、攻めている岡山にも言える事で、持ってゴール前に運んで崩しかけるもなかなか良い形でフィニッシュというシーンを作る事はできなかった。その証拠として、普段だと少ないミドルシュート(セットプレーのセカンドボールからも含めて)が、多い試合となった。そのため、シュートの数に対して、決定機らしい決定機を岡山も作れてなかった。

 岡山は、GK〜中盤まで推進力を持って前進したが、群馬の壁の前を崩せず、群馬もまたリスクを負って攻めるという選択肢に踏み切れなかった事で、決め手を欠いた。前半は、0-0でもという意識が、両チームの頭にあったことは間違いなく、息が詰まる様な攻撃と守備の駆け引き、それこそ剣道や柔道の間合いのように、距離を縮めたり離れたりといったシーンで、前半を終えた。まさしく、「膠着」と言える前半は、こうして終わった。


3、秘策と貫徹の先に~重圧~


 後半の両チームの勝利のプランとして、岡山は、フィジカルやドリブルでより攻勢に出ることでの得点を目指し、群馬は、岡山の焦りや疲労を突いて、1チャンスで決めるという狙いを持って後半に入る。

 後半の立ち上がりは、前半の延長であったが、先に動いたのは群馬で、今節スタメンに抜擢された47杉本 竜士に代わり、39高木 彰人。10佐藤 亮に代えて、19岡本 一真を投入した。前線と右SBにフレッシュな選手を入れる事で、カウンターの切れ味や守備強度の維持を図る群馬。

 岡山もまた手を打つ、疲れの見える8ステファン・ムークに代わり99ルカオ、攻撃に人数をあまりかけない群馬の攻め方をみての判断からか、6輪笠 祐士から27河井 陽介をこの時間から選択。

 群馬の攻め手も「主体」ではなく「受け身」の攻め方という事もあり、攻撃ではなかなか効果が見え難かったものの守備の綻びを見せない群馬。99ルカオも単独突破というシーンの回数を伸ばせない中で、27河井 陽介が、ボールに絡みチャンスメークしようとするが、両チームともポイントをあげたとは、とても言えなかった。

 焦れた両チームは、7チアゴ・アウベスに代えて、19木村 太哉。群馬は、23平松 宗に代えて、13武 颯といった縦にフィジカルを活かしたドリブルによって、1人で突破できる選手を両チーム投入した。

 ここで、99ルカオと19木村 太哉のタイプの違うドリブラーで、群馬の壁の突破を狙う。この策は、群馬に対しても有効で、99ルカオのルカブル(ルカオの唯一無二のドリブルのファジ造語)での仕掛けは、一定のチャンスメークに繋がり、19木村 太哉の意外性のある仕掛けから決定機に近い形こそ作ったが、得点に繋げる事はできなかった。

 それだけ群馬のゴール前を固めて、囲い込んで奪いきるという高い守備意識の高さという点では、組織的にも個の力的にも、隙が全くない堅守であることが感じられた。

 時間も85分に差し掛かった所で、両チームの最後の一手を打つ。群馬は、サイドで攻守で自由度高く動いていた5川上 エドオジョン 智慧に代わり、14白石 智之がIN。そして、中盤の要であった18風間 宏希に代わり、6内田 達也。勝ち点3を狙いに、岡山が来ることを見越して、守備強度を維持した上で、フレッシュな選手を入れる事で、その機会を探る一手である。

 岡山は、DFラインと前線を繋ぐリンクマンであった44仙波 大志に代えて、23ヨルディ・バイス。攻守で、パワーとスピードでチームを前進させていた2高木 友也に代わって、48坂本 一彩を入れた。この交代により、5柳 育崇が前線に上がり、3バックの真ん中に23ヨルディ・バイスが入った。2高木 友也の左WBには、19木村 太哉がFWからポジションを変更した。

 岡山が、明確なパワープレーに移った事で、群馬としては、ゴール前の壁でしっかり跳ね返して、交代選手のフレッシュさを活かして、セカンドボールを拾って、カウンターという流れに持って行けるかと思ったが、5柳 育崇の高さ、99ルカオのフィジカル、48坂本 一彩のテクニックという個性豊かなFW陣になった事で、なかなか思うように跳ね返して、押し返すという所までもっていけなかった。

 85分前には、7川本 梨誉の長い距離を走って、一気にゴール前にというシーンを作れていた群馬であったが、最後の一手を以てしても決定機を作れない。逆に、岡山は、途中交代の選手と形となる。

 99ルカオがボールを奪った後に、5柳 育崇にパスをつける。その5柳 育崇は、48坂本 一彩にボールを預ける。48坂本 一彩に群馬の選手が複数人ついていたが、パスコースのない所を絶妙なパスを通すことで、5柳 育崇がペナルティエリア内で、群馬の選手より先にシュートに行くが、疲労や焦りからか、力んだシュートは、無情にも大きくゴールを外れて、最後の決定機を活かせず、そのまま試合は終了して、0-0のスコアレスドローに終わった。

 岡山は、サイド攻撃を軸にクロスとセットプレーからチャンスを作り、温めていたパワープレーの形でも最後まで欲しかった得点は奪えなかった。群馬もまた、しっかりとした守備ブロックを構築して、辛抱強く守った中で、7川本 梨誉の軸としたカウンターで、ゴールの可能性を感じられるプレーもあったが、なかなか良い形を作る事ができなかった。

 両チームが欲しかった勝ち点3ではなく、痛み分けの勝ち点1という結果を受けて、両チームともプレーオフ圏から後退した。


4、着実と堅実のリスク~後方~(群馬編)


 群馬のサッカーの印象として、やはり後方のスペースを消すという意識が非常に高く、組織的に埋める事ができていることにある。後の4枚の内、右サイドの5川上 エドオジョン 智慧が上がって、3バック気味になることはあるが、ここぞという時にしか上がらない。

 ビルドアップに関しても危ないと感じたらロングパスを躊躇なく選択する。ただ、そのビルドアップも安定感があり、プレスを効果的にかけることができなければ、前半の立ち上がりのように、SBの上がりから必要最低限の人数までシュートを狙って行く形を持っている。

 対岡山においては、ロングパスを選択後に、岡山に巧く個人で防がれた後に、着実な前進と保持による攻撃を受けたことで、試合の主導権という部分では、シュート数をみても岡山が、握っていた事は間違いない。

 しかしながら、群馬のサッカーとしては、無失点に抑えて1チャンスで決めて逃げ切れば、十分という戦い方をしていることもあり、試合内容とは別に、サッカーの狙いという点では、群馬のサッカーはできていたと言える。

 中でも7川本 梨誉のプレーには、元岡山の上門 知樹のように1人で運べるドリブルやゴールを狙えるシュート、運動量という意味で、見違えるように良くなっていた。フル出場できた上に、孤立気味な場面でも形にできる力強さがあった。この試合で、最も岡山のゴールを脅かした選手の1人であるだろう。

 群馬の武器である堅守を支える2城和 颯の守備での存在感があった。高さがあることで、岡山のクロスを主体とした攻撃に対して、同じくCBの24酒井 修一、GKの21櫛引 政敏と共に、岡山の前に壁として立ち塞がった。

 こういった手堅さの反面、攻撃面は、正直迫力不足であるのも事実で、前節の東京V戦に続いて、2試合0-0のスコアレスドローに終わっている。昇格を争うライバルチームに、負けが許されない中で、得点を対戦相手より多く決めて、勝つ必要もある。

 得点を決めるためには、もう少し人数をかける必要があるが、そうした場合の失点のリスクを考えると、簡単な問題ではなく、群馬の良さを失いかねない。しかしながら、ここまで群馬は、粘り強く守りその機会を伺いつつ、戦術面で工夫する事で、リスクの小さくてもハイリターンの攻撃を生み出す事で、プレーオフ争いをできている。

 岡山を含めて、実質最後の一枠を戦力の充実した長崎や甲府、組織力の優れる山形や大分といったライバルより勝ち点、そこに加えて得失点も関わって来るかもしれない戦いを制せれるかどうか。絶対的なストライカーが不在の中で、本当に組織力で、ここまで来た群馬。両チームにとっては、痛い勝ち点1かもしれないが、群馬の良さが出た試合であったと強く感じた。


5、攻勢と対人のリスク~前方~(岡山編)


 一方で、岡山は、逆に攻撃にどれだけ人数をかけるかという視点での戦い方を目指している。群馬の守備は、岡山が攻めて、抜いても次の選手、また次の選手と、多くて手数を持っていたが、岡山のDFは、その選手を突破されると危ないという場面が、どうしても多くなる。

 千葉戦のように、個の力で守られなかった時に、ああいったスコアになってしまう可能性があるというのも、また事実である。逆に、そこである程度戦えた時は、前に人数をかけた攻撃が機能して、ゴールに迫ることができる回数も多くなる。

 また、この試合では、千葉戦で、型を崩さずに、選手を組み込んだ試合で失敗したので、この群馬戦では2高木 友也の特性を考慮して、48坂本 一彩から8ステファン・ムークに、スタメンを変更している。

 これは、2高木 友也が、左WBのスタメンになることで、クロスが多くなることが予想されて、こぼれ球に反応できる8ステファン・ムークが、スタメンになることも理に叶っている。得点こそできなかったが、「受ける」ではなく、「反応する」必要性が求められた中で、ある程度、期待されたプレーが、できたのではないかと感じられる。

 そして、終盤の3トップは、高さの5柳 育崇、速さの99ルカオ、巧さの48坂本 一彩という組み合わせで、最後の最後にビックチャンスを作った。そういった意味では、準備していたことができた試合であったが、結果がついて来なかった。

 試合後のインタビューで、インタビュアーの「力んでいたように見えましたが?」という質問に、木山 隆之 監督も「力んでましたね」と、答えていた。やはり、あの敗戦の後という事で、強く意識してしまった部分があったのではないかと感じた。

 その中でも群馬出身の41田部井 涼の気持ちの入った積極的なプレーや2高木 友也のパワフルな縦への仕掛けからのクロスはいつも違ったのがこの試合のポイントに感じた。個人的には、高さと強さのある18櫻川 ソロモンがいたら面白かった試合にも感じたので、メンタル面が、改善しているのであれば、観て見たかった試合でもあった。

 そして、全体的には、ボール保持からサイドを中心にビックチャンスを作れて、7チアゴ・アウベスや5柳 育崇が決めていればという試合でもあったが、こういった試合もあるということで、できたことでできなかった事を整理して、残し試合にどれだけ集中できるか、問われる。

 2週間という期間が長いのか短いのか。それは、アウェイ山口戦で問われる事となる。

 内容的には悪く無かったが、結果が求められる中で、心身ともにどれだけ状態を高める事ができるか。まだ下を向くには早く、まずは、目の前の山口戦で、勝ち点3が必要だ。

文章・図=杉野 雅昭
text・figure=Masaaki Sugino


6、アディショナルタイム~サウナ~

・アンケート「群馬戦のMIPは?」

・試合後公式コメント紹介

木山 隆之 監督(岡山)
「後半、アイディアやイメージを伝えていて実行してくれたが、壁を崩せなかったかなと。今週1週間共有してきた中で、チームとしてやってきたことを出し切ったと思います。残り4試合、3ポイントを狙って、最後どうなるかを待ちたいと思います。」

J.LEAGUE jp(Jリーグ公式HP)
J2 第38節 群馬 vs 岡山(23/10/08)試合後コメント(監督)
より一部引用。
URL:https://www.jleague.jp/match/j2/2023/100803/coach/

 両チームに言える事ですが、ある程度やりたいサッカーが出来た中で、最後の所がという試合でした。残り4試合で3ポイントをどれだけ積み重ねられるか。本当にそこに尽きます。

・ファジ造語

「ルカブル」
 
分かっていても止められない。分かっていても前を向かれる、分かっていても追いつけない。そういった強さ・高さ・速さのフィジカルの3拍子揃った99ルカオの唯一無二のドリブル。ルカオのドリブルを略して「ルカブル」。

「守防奪運(の極み)」
 15本山 遥は、守備のスペシャリストであり、フィジカルモンスターである。身長こそ低いかもしれないが、それを補うばかりの守備ができて、防ぐことができる、そして、奪取できる力もある。攻撃になれば、22シーズンのDHの経験やSBとしてプレーを目指した経験を総動員することで、岡山が今のスタイルで戦うようになって、着実に前進することに一役を担っていることを表現する造語であり、15本山 遥が、右CBへの適性を高さを示す造語。


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