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【映画】「劇場」を観て、読み返して得た気づき

一番 会いたい人に会いに行く。
こんな当たり前のことが、
なんでできへんかったんやろな。

原作本の表紙の帯より。
改めて読むと、今にも響くものがあります。
(この単行本は2017年に発売)

今年は本当にいろんなことが起きています。

なかでも私にとって一大事だったのは、ライブや映画公開の延期や中止。当時は致し方ないこと。ただ、私の癒しの大半を占めていたこれらの出来事は、一生忘れないことでしょう。って何回書くんでしょうね。すみません。(第3波によって、情勢がどう動くか気になるところです)

「劇場」は劇場で通常公開されなかった

この「劇場」という映画は、本来、松竹・アニプレックスより配給され、全国で公開される通常の映画のはずでした。ですが、当初の公開予定を止め、上映館数を制限し、Amazonプライムでの配信をメインにすると告知されることに。これはとても衝撃的な出来事のひとつです。なぜなら、新作の映画が劇場公開と同時に全世界へ配信、しかもAmazonプライム会員なら無料で観れてしまう、という新しい試みだったためです。主演は山崎賢人さん、松岡茉優さん。さらに、監督はあの行定勲さんだというのに、すごいことだと驚きました。(この場合「興行収入」として映画ランキングなどにカウントされなかったはず…)

劇場(又吉直樹)─ Wikipedia

そして、原作は「火花」で芥川賞を受賞された、ピースの又吉直樹さん。火花は私にとって、思い出深い小説のひとつです。フィクションですが、お笑いが好きで自分自身も相手に向けて「作り与える」立場であり、何より上京して舞台になった吉祥寺をうろついていた頃の自分と重なる部分が多いから。Netfllix版のドラマは未だに観るほど好きです。

さて、「劇場」の話をしましょう。ネタバレをするつもりはありませんが、やんわりと触れる部分はありますので、詳しい配役や内容などは、作品を観るか、本を読んでみてください。(気にしない方はこのままどうぞ)

又吉さんが描いた「恋愛もの」とは

そんな又吉さんが書かれたこの「劇場」は、いわゆる恋愛小説。うーん、こういうときにカテゴライズせざるを得ないのが、なんだかもどかしいです。

読了された方なら、分かってもらえるかもしれませんが、恋愛小説でもあり、群像劇に近いと思っています。基本的には男と女の会話劇です。そして、火花の時のように読み手にぐいぐいと迫ってくる「夢」「嫉妬」「情熱」「貧しさ」「挫折」など。これらが共通している作品でもあります。火花よりも文章は読みやすいので、是非、読んでみてください。

写真は、原作本の帯(裏面)より。
ひたすら会話が続きます。

なぜ観たのが今だったのか

この映画が配信開始になってから、だいぶ経ってしまいました。原作が好きで、ずっと楽しみにしていたにも関わらず観れなかった。いや、観る勇気が無かったというのが正しいかもしれません。

当時、私はある恋をしていました。それはすでに終わった話ですが、状況が小説と酷似していたのです。そんなことあるのかと、書きながらでも思います。今読み返しても、あの頃の私は、主人公の永田くんが恋した沙希ちゃんと同じ道を歩いていました。仕事をしないで、バレる嘘が上手な彼。そして一緒に歳をとっていく道。

読んだのは、随分と前なのに。人間って本当に学んでいるつもりで学んでいない。映画はきっと、どこか意識して観ないようにしていたんだと思います。当時の私が思いを寄せていた方への気持ちは、報われているのに報われない、と気づいていたから。それくらい、数年経っても胸にくる本でした。

そんな現在に観たことで得た気づき

「安全な場所など、どこにもない」というのが感想です。あくまでこの世界の中では。これは、読了したときには、感じ得なかったことでした。私の解釈が変わったとも言えます。

本を読んでいた時は、二人の物語としてなら素敵な話だと思っていました。私は二人の関係が、たとえ共依存で成り立っていても、お互いの足りないところを相手に求め合っている関係でも、二人が幸せならいいんじゃないか。周りに何を言われようと。それはきっと、私が「夢」に縛られた永田くんの気持ちも持っているから。

ですが、それを見守り続けた沙希ちゃんの気持ちに寄り添いながら、この映画を観ることが出来たのは、松岡茉優さんの演技と、行定監督の手腕のおかげだと思います。特に、最後のシーンは印象的でした。私は好きです。とても良かった。

「才能」なんていつどこで開花するか、分からない。

片方は分からないものを追い、片方は分からないものを支える。

私はてっきり永田くんが夢を追い、沙希ちゃんが支えるストーリーだと思っていましたが、その逆でもあったということが、経験を経て、より深く実感することができました。この二人が生活を送りながら起こる喜び苦しみは、いつ成就したことになるのか。そもそも成功ってなんだろう。十二分と考えさせられるものがありました。

淡々と続く、この会話劇から感じ得るものがある方は、きっと私と気が合うでしょう。本当はちゃんと映画館で、劇場で、この作品を観れたら良かったんですけど、今、観れてよかった。興味ある方は、お時間あるときにおすすめします。

今作の舞台となった下北沢などのサブカルチャー界隈に今も眠っている「埋もれた才能」「彷徨う天才」を、映画を通して目の当たりにしてみては。(もっと楽しい街ですけどね。笑)

では、また!

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