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女性を優しく突き落とす方法

私は、初めての妊娠が遅かった。
かなり焦った妊娠だった。ちまたでは35歳以上の初産は「高齢出産」と呼ぶらしい。知ってた?
「大丈夫よ~、40歳すぎても妊娠した知り合い居るよ!」
という人は、職場でも友人でも、どこにでも必ず一人はいる。
だけど、産婦人科の医療従事者には「大丈夫よ~」という人はいなかった。
常に妊娠率の低さや、流産リスクの高さを見せつけられ、女性なら容易く可能だと思っていた"出産"の壁の高さにおののいた。
世間と医療業界で、この高齢出産の意識のギャップがかなり大きいと気づいたのは
私が本気で子どもを望んでからだった。
私は何を根拠に"その気になればいつでも産める"と思っていたのだろう。

私には趣味がたくさんある。
絵を描くのも好き、カメラも好き、マンガもアニメも映画も、料理も、遠出するのも大好き。
優しい夫、キャリアアップを望める仕事。
自分がしてきた選択に満足していた。
毎日が楽しくて、忙しくて、子どもは特に望まなかったけど、ある日ふとこう思った。

毎日の趣味の時間が20年後、何を生んでるだろう?
時間とお金を浪費して楽しみと癒しを得ているが、
この生活を今後何十年も
繰り返して
果たして私は今より何か成長しているのだろうか。

確かに年をとった。でも大人になったかは、分からない。だってやってる事は20代の頃と変わらない。
私が、大人になるのはいつだろう?

知識も経験も年相応には増えたけれど、
それが私を大人にする事は無かった。
そりゃそうか、私の人生には"重責"がない。
私は子どもでもなくなったけど、大人にもなっていない、
ただ年を食った女かもしれない、と感じた。

それからすぐに子どもを欲した訳ではないけど
ただ、子どもを養うという責任を人生に課すことは
少なくとも、20年後に子どもを成人させた私を
きっと今より大人にさせるだろうなと、
少しポジティブに思えたのは確かだ。

さて、そうなると少しは前向きに子作りを考えるようになる。
しかし、これがなかなかできない。
毎月毎月、ちゃんと28日周期で生理がくるのが
健康的なのに忌々しく思えてくる。
今まで周期も正しく、生理痛も悩まされず、本当に善良な生理だったから、婦人科のお世話になる事も余りなかった。
だから私は無意識に妊娠もそれだけ簡単な事だと、健康だから大丈夫だと信じてしまっていた。

今まで周りの人はよく笑顔でこう言った。
「大丈夫よ、今時晩婚なんて珍しくもない」
「大丈夫よ、40歳過ぎても子ども産んだ人知ってるし」
「大丈夫よ、芸能人の誰誰さんだって42で産んだじゃん」
笑顔で、そう励ましてくれた。
「だよね!今はそういう時代だよね!」
ああ、あの頃に戻れるならこう言いたい。
「その発言はあなたの選択の責任を取ってくれないのよ」
と。

その場の空気を明るくする言葉、
不安がっている女性を笑顔にする言葉、
責任をとらない言葉。
それが「大丈夫」なのだ。
大丈夫なんて事ないのに。先送りにしたに過ぎないのに。

30過ぎて、いよいよ子どもを、と考えた友人らは
軒並み妊活で悩み、産婦人科の門を叩いている。

「生理がくる度に泣いてしまう」
「排卵日が近づくと緊張する」
「1周期というくくりで1ヶ月を考えるようになった」
「とんでもなくお金がかかってつらい」
「妊活の協力態度について夫と喧嘩になった」
「もっと早く妊活始めれば良かった」
「少なくとも20代のうちに病院に一度は行けば良かった」
「医療の力を借りれば妊娠すると思っていた」

「どうしてもっと真剣に考えなかったのだろう」


若いときに「今は子どもはいいかな」と思った女性が
その後死ぬまで子どもを欲しがらないとは限らない。
しかしその時に手遅れだったら、取り返しはつかない。
「大丈夫だよ」と言った人達も、もうそうは言わないだろう。
あとは、何とか「腑に落ちる」理由を、女性が一人で模索する事になる。

だから、私はあえて今の風潮
「女性が子どもを産まなくてもいいじゃない!」
という流れに賛同したくはないのである。
安易に「だよね!今はそういう時代だよね!」と流されて欲しくないのである。

彼女らも、もしかしたら将来は子どもを欲しがるかもしれない。
その時に無責任に「大丈夫だよ」「何とかなるよ」と言った人間の一人にはなりたくない。
それは、女性を優しく突き落とす行為だと思う。

好きに生きるのはいい。
子どもを授かるだけが女性の人生の全てではない。
それは本当にそう思う。
ただ、今子どもが欲しくなかったとしても、
それは一生子どもを持ちたくないという意味か、
少しだけ考えてほしい。
趣味も仕事も、子どもを先送りにする理由として後悔しないか、考えてほしい。
もし、少しでも「そうは言い切れない」と思うなら、婚活も妊活も、視野に入れておいて損はない。
どちらもその気になってから行動に移すと、結果が出るまで数年かかる可能性があるから。
例えば今パートナーが居ないなら、知り合うまでの時間、お付き合いするまでの時間、お付き合いして結婚するまでの時間、結婚して子どもができるまでの時間を逆算しなければならなくなり、私はそれらに6年掛かっている。
そろそろ妊娠も難しくなってくる年だから…と婚活を始めたら、あっという間に次の大台、40歳。
更に妊娠率は下がって、1年ではなく"1ヶ月ごとに年を取る"恐怖すら感じるようになってくる。

結婚も妊娠も、今予定がなくても、今後の可能性をゼロとして考えず、
結婚しないかもしれないけど出会いは心を豊かにするし
妊娠はすぐでなくても婦人科の健診はした方がいい。という楽な気持ちで選択肢にいれてもらいたい。


実は私も生理が来て泣いた経験のある女だ。
10年前は子どもが欲しいなど微塵も思わなかったのに。


1年でたった12回しかないチャンス。
35歳以上の妊娠率は1周期18%程度、
妊娠しても流産率は30%程になるという。
それも、パートナーの男性の年齢が上がると、
より妊娠出産は難しくなってくる。
(参照:浅田レディースクリニックHP/婦人科ラボHP)

私はその場凌ぎの「大丈夫」より、上記の情報の方が
本当の意味で優しいのでは、と思っている。
女性が結果的に同じ女性を優しく突き落とさないことを祈っている。

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