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おはなし

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おはなしまとめました。
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#恋愛小説

青東風吹いて

青東風吹いて

 今年は三年ぶりの花火大会。
 他所に漏れず、もろもろの心配はあるけれど、開催に漕ぎつけた主催者側の人間としては、たいへんうれしいし、毎年有無を言わさず割り振られる炎天下での観客整理もはりきってしまう。

 しかし、デニムのポケットに入れておいたペットボトルの水はもうほとんどお湯に近い。
 びゅうっと風が通り過ぎるけれど、蒸し暑さは日が高くなるにつれ、増していくばかりだった。

「はああ、あっつ」

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暑熱順化

暑熱順化

 コロナ禍以降、基本リモートワークだったが、ひさびさに出社する今日は、梅雨時期特有の蒸し暑さに加え、運動不足と満員電車が重なったからか、具合が悪くなってしまい、会社がある駅にたどり着く前に電車を降りてしまった。
 ホームに設置してあるベンチに間に合わず、その場にしゃがみ込んでいったん落ち着くのを待つ。幸い急行が止まらないこの駅は比較的空いており、ほかのひとの迷惑にはなっていない、と思う。
 暑いは

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マイルール

マイルール

 わたしは料理がすきだ。
 仕事で嫌なことがあっても、スーパーに寄って納得のいく買い物をして家に帰り、黙々と何品か手際よくできあがれば、その達成感でリセットできる。
 でも最近思うのは、誰かに食べてもらえるっていうのも重要なんだなってこと。ひとりだと簡単に済ませてしまいがちだが、一緒に食べるひとがいれば好みや食べ合わせも考えるようになる。あらためて同居人の存在をありがたく思う。
 同居人は弟の親友

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喫煙所にて

 午後からの会議が終わり、ひと息入れに来たら、よく見知った顔が傍らに設置してあるベンチで紫煙を燻らせていた。
 こいつは高校時代の部活仲間で、大学は別だったが、おれが試合のときはみんなで応援に来てくれていたし、バスケは大学で終わりと就職したら偶然同じビルに会社が入っていたという、いわゆる腐れ縁てやつ。
「おつかれ」
「おー、おまえも休憩?」
「ん。さっき来客が終わってね」
「そか、最近ここで会わな

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