喫煙所にて

 午後からの会議が終わり、ひと息入れに来たら、よく見知った顔が傍らに設置してあるベンチで紫煙を燻らせていた。
 こいつは高校時代の部活仲間で、大学は別だったが、おれが試合のときはみんなで応援に来てくれていたし、バスケは大学で終わりと就職したら偶然同じビルに会社が入っていたという、いわゆる腐れ縁てやつ。
「おつかれ」
「おー、おまえも休憩?」
「ん。さっき来客が終わってね」
「そか、最近ここで会わないから、とうとうやめたのかと思ってた」
「年度初めでばたばたしてただけだよ」
 煙草を口に咥えたまま伸びをする姿は、たしかにくたびれて見える。ベンチに空きはないので、脇に立って煙草に火をつけた。
「まあ、それもやっと落ち着いたし、金曜一杯どう」
「いいな」
「みんなにも声かけとく」
 高校のバスケ部のやつらとはいまでもたまに集まっている。おれとは違い社交的なので、だいたい幹事をしてくれる。
「たのしみだな」
「ね、これで今週もがんばれる」
 話しているうちに混み合ってきた。知り合いが来たらしく、組んでいた脚を解き立ち上がって会釈すると、ベンチ脇にいたおれと並んだ。目線が近くなる。おれの視線に気づいたのか、こちらを向いて首を傾げた。
「なに」
「や、せめて180はほしかったよなあ、と思ってさ。まあ、それでもプロでやろうってならチビなほうだけど」
 煙と一緒にため息をつくおれを眺めて笑みを漏らした。
「煙草なんか吸ってるから伸びなかったんじゃないの」
「偏見だろ、それ。ならおまえはどうなんだよ」
 記憶がたしかなら、こいつもおれと同じで高校のバスケ部引退と共に吸い始めたはずだ。
「ヒール履いたら下手するとわたしのが背が高くなるもんね」
 煙草の煙をふうっと吐き出して、にやりとするのが癪に障る。
「飲み会、詳しくはまた連絡する」
 ぐっと灰皿に煙草を押しつけ、お先に、とかかとを鳴らす背中を見送った。
 今回はふたりだけで、とまた言いそびれたな、とひとりごちながら——。

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