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つながる教室|ショートストーリー

「明日の用意はちゃんとできたー?」
お母さんがいつものように1階のキッチンから声をかけてくる。
「今やろうと思ってたー!」
ベッドの上でゲームをしながらぼくは答える。

そうだ、明日から4年生になる。
勢いをつけて起き上がりながら、セロハンテープで壁に貼った時間割り表を眺めて、ため息を吐く。

学校は別に嫌いじゃないけれど、冬休みが終わってしまうことがなんだか嫌だった。友達に会えるのは嬉しい、けれど雨がじわりと靴にしみてしまったような気持ちになる。
こういうのを大人は“憂鬱”というらしい。

「よいしょっと」
ぼくはベッドに腰掛けて、机の横に掛けられ少し古くなった黒いランドセルを開いて、かばんの内側に入れてある時間割りに意識を向けた。
明日の時間割りは、
国語、算数、世界、世界
「世界?」
なんの授業だろう。
明日教科書が配られるから、いまのぼくにはどんな授業なのか分からない。
ひとまず新しく買ったノートを何冊か、筆箱、道具箱、連絡帳、先生に渡さなきゃいけないプリント、上履き入れをランドセルにつける。
「あ、リコーダーもか」
ランドセルの横から少し無理やり差し込む。

4年生にもなると、今まで思いもしなかったようなことを考えることが増えた気がする。
グループみたいなものが出来たり、塾に行きはじめるやるがいたり、女子に変なちょっかいをかけるようなやつもいれば、誰かと喧嘩をしたり、先生の言うことを聞かなかったりするやつ、いろんな人がでてきた。
だけどそれがふつうだから、うまくことばにできない。

明日はどうなるだろう。
もやもや、どきどき、ふわふわ。
はやく寝てしまおう。

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「じゃあみんな、パソコンの前に座ってー」
パソコンの横から少し顔を出して前を見ると、担任のオダ先生の黒縁の眼鏡が目に入る。
「今日から始まる“世界”の授業の話をしようか」
ざわざわとしていた教室が静かになる。
「先生ー!私パソコンの使い方なら知ってるよ」
タカハシが手を上げて大きな声で発言をしている。
「うんうん、3年生の終わり頃に少し習ったかな」
ぼくも家でパソコンはよく使うので、うんうんと首を縦に振って同意する。

「実は今回の授業、きみたちに、世界の同い年の子たちとお話をしてもらう。今から電話をつなげて、話をしてもらおうと思う」
世界の子、外国の子ということだろうか?ぼくに話なんか出来るのだろうか、英語なんてできないし、意地悪な子だったらどうしよう。
「言葉は、最近の研究で同時翻訳っていう、英語を日本語に直してくれる機械を入れてるから、それをみながら最初は話してみようか」
落ち着かなくなり、まわりをキョロキョロとすると、みな同じように不安な顔をしていた。
電話がつながる。

「Hallo.(こんにちは)」
画面の向こうには、白い髪の毛に青い目の僕と同い年くらいの男の子が映る。
「こ、こんにちは」
できたばかりのロボットみたいにぎこちなく笑いながら挨拶をする。頭が真っ白になってしまった。
手にはじわりと汗がにじみ、何を話せば良いか分からなくなる。
「緊張して、何を話したら良いか分からないや」
ぼくは正直にそう話すと、彼は少し驚いた顔になって笑顔になる
「Me too!(僕もだよ!)」
なんだ、そうだったのか。

それからぼくらは、どんなところに住んでいるの?という話、先生の話、どんな授業をしているのかという話、好きなゲームの話なんかをぽつぽつとはじめた。

話してみると、案外彼もぼくと同じようなことを考えていたり、逆に思いもよらなかったことを知っていたり、発見がたくさんあった。

ぼくは思い切って、普段感じていることの疑問を彼に話してみることにした。
最近いろんな人がいる話。ぼくが気になっている誰かを無視したり、意地悪する子のこと、されている子のこと。
彼は少し考えてからこんな事を話してくれた。
「そういうの、こっちもあるよ。けど僕はそういうのなんだか格好悪いと思うし、別にみんなが仲良くしてよなんて思わないけど、意地悪をする意味がないなって思う。」
そっか、そう考えてもいいのか。なんだか言っちゃいけないことだと思っていた、だけど世界には、ぼくと同じような事を考えてる子がいるって分かってすこしホッとした。

あっという間に4時間目が終わって、彼とはさよならの時間になった。
「また、話したいね」
彼はうなずいて笑ってくれた。

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家に帰ってからもぼくは、なんだか彼や彼の住んでいる国のことが気になってしまった。
パソコンを開いて、彼の住んでいる国を画像検索してみる、ぼくが住んでる日本とは全然違う世界みたいだと前は思っただろう。

だけどぼくはもう知ってしまったんだ。
住んでいる場所も、話す言葉もちがう、だけどぼくらは友達になれた。

明日先生に、また世界の授業で彼と話をしたいと言ってみよう。そしたら次はなにを話そう。
彼が住む異国の景色を眺めながら、ぼくはいつか会って話をする姿を想像した。

“世界”はつながっている。

ポプラ社の「#こんな学校あったらいいな」応募作品です。よろしくお願いします。

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