短編:【願いが叶う菱餅】
「何これ?どうしたの?」
妻が矢継ぎ早に質問を繰り出した。
「ああ…菱餅ね…」
「え、これ菱餅なの?触ってイイ?」
「鋭角な所に気をつけてね…」
分厚い書籍が並ぶ本棚のちょっと空いたスペースに、1辺10センチ程度のひし形の物体があった。
「これね、これと同じひし形の物体を5枚集めると願いが叶うんだって?」
「何そのパン屋の春の小皿プレゼントみたいなシステム…」
「パン祭りか…僕は、龍が飛び出すアニメを連想したけどね…」
「ああ、私は現実的な思考が強いからね…」
ひし形の物体は作り物の菱餅のようで、厚さは1センチ程度。少し表面は波打っており、金属のように硬そうな冷たさを持っていた。
「これ乾燥した菱餅なの?」
「これをくれた人が、菱餅を頼む!と言っていたから、菱餅なのかと思っているけど…」
「カッチカチな感じだから食べられはしないわね…」
妻はホラッと冗談っぽく、メダルを獲得したスポーツ選手か、炎上したどこぞの知事のマネをして見せた。
「これさ、5枚集めると、星型になるんじゃない?」
妻は手でひし形がピザのように連なる様をやって見せる。
「ホントだね。願いを叶える星か…」
「星に願いを、だよね!けどさ、これの残り4枚はどこにあるの?」
「そこなんだよ。これをくれた人が言うにはね…」
話の腰を折る。
「さっきから出てくる“これをくれた人”って何者?どんな人だったの?」
「それがさ…」
ちょっと口ごもる。
「なに?」
「うん、サルみたいな…」
「サル?」
「うん、身長も低くて顔もシワシワで、あ!でもパーカーを来てフードも被って…」
妻はゆっくり人差し指を近づけてくる。
「え?」
「宇宙体生物…ト・モ・ダ・チ」
「僕はライトセーバーを振り回す方かと思ったけど…」
「あら意見が合わないわね…」
「菱餅を頼むって…」
「ああ、もうイイ。興味が失くなった!」
妻は買い物に行くと言って出て行った。
それからしばらくして、その本棚の上には、ひし形が2つになっていた。
どうやって集めたのか、本当に5つあるのか、妻の興味が復活するのかと、多くの謎に包まれた菱餅であった。
「つづく」 作:スエナガ
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