短編:【今年最後の青空】
あまりに当たり前過ぎて忘れていたが、人は毎年歳をとる。
1秒毎に時間が経過して、1時間毎にしまったボーッとしていたと悔やみ、あっという間に1年が過ぎていた。
今年の漢字1文字を書く寺のニュースに対し、「もうこの話題辞めません!?」とテレビのコメンテーターが毒づく。それでもトピックスに上げる番組は、必ず出演者に漢字1文字というお題を出す。ああ確かに、この話題だけでも5分〜10分、時間を潰せるな…
連続テレビドラマを見ていて、またはアニメ番組でも良いのだが、番組冒頭2分程度、前回までのストーリーを振り返る時間がある。今の時代は録画で一気観、あるいはサブスクやネット配信で何話かまとめて視聴するために、この「振り返り」または「ダイジェスト」という昔からの慣習に違和感を覚える。そうか、少しでも楽がしたいんだな…
見てみないふりをしていて、何にも考えずに十数年生きて来たのだが、世の中の当たり前はどう考えても理不尽ということが多い。政治家だったら記載をしなくて良いお金がある、という全く持って意味の分からないニュースが朝から流れる。私はそんなことよりも、本日の占いが何位なのか、ラッキーアイテムは何かを知りたいし、今日の天気と雨の確率、何を着ていけばよいのかに興味がある。そんな平々凡々な毎日を、流されるままに生きている。
健康診断で血圧が高いと言われた。それはそうだろう。日々味の濃い、油っぽい食事ばかりなのだから、正常であるはずもない。そして毎晩呑む安いアルコールですらも、自分の身体を蝕むには十分な凶器となりうる。こんなどうしようもない生活習慣を繰り返し、あっという間に1年が過ぎ去ろうとしている。
会社の人たちは気づいていない。毎朝出社して、私がブラインドを全開にして太陽光の有り難い光を社内一杯に取り込んでいることを。空気が重く暗い。それは急に来た冬の寒さだけではなく、電気に頼った人工の明るさなのだ。寒くても、窓があって外の光が入るだけでも気分が良い。大事なのは単調な日々の中に生み出す、本当に小さな変化。いずれそれ自体が大きな変化につながるように、毎日ちょっとしたチャレンジを繰り返している。
さて「来年のことを言うと鬼が笑う」という有り難い先人の教えを無視しながら、数日後にはやって来る新しい年に期待と希望を繋げよう。たぶん来年の今頃は、何も変わらず世の中の不平不満を綴りながら、次の年への抱負を書き連ねることだろう。そしてそれは、いつもと同じく何の変化もないまま過ぎ去り、あっという間に終わったと気付かされることだろう。
この負のループを抜け出すには、物理的な大きな変革を起こす必要がある。一番わかりやすいのは、恋をする。仕事を変える。住処を変える。いやいやそんなことは必要ない。いつも変わらないことを嘆き悲しむよりも、変わらないことが当たり前だと割り切ることが重要だ。
変わらないことに感謝しよう。変わらず生きていることは有り難いことなんだ。1秒後、1日、1週間、そして1年、変わらずいられることの方が難しい。こうしてくだらない言葉の羅列を書けることに何より礼を言おう。
そう。この青空が、いつまでも変わらずある保障はどこにもないのだから。
「つづく」 作:スエナガ
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